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またもや予想以上

 捕虜たちを故郷に返して数日後。

 あの時の騒がしさが嘘のように、要塞は平穏な日常に戻っていた。

 しかしリベイラ辺境伯家としては、金持ち捕虜の身代金交渉で裏では慌ただしく動いていたんだ。


 この交渉はお母様が担当しているのだけれど……まあ、横で見ていて気の毒になるほど容赦なく莫大な額を毟り取っている。


「あー、あの商人もかぁ……ケツの毛まで毟られてるな。お母様も容赦ない。まあ、負けていたら立場は逆になっていたはずだからしょうがないよね」


 これでミランド伯爵は有力者や大商会から激しく突き上げられ、平民や農民は我がリベイラ領へ……下手をせずとも、あちらの領地はお家取り潰しか、事実上の崩壊だろうね。クズ領主への因果応報だから自業自得だけどさ。

 リベイラ辺境伯家に手を出すからこうなるんだ。


 今日も定位置になっている、広場を見下ろすことのできるバルコニーの縁に腰をかけて、足をぶらぶらさせていると……


「……ん? あれは何だ?」


 道の向こう側、ミランド領側からこちらへ続く街道から、砂煙が上がっているのが見えた。

 戦争があってからあちら側から人が来るのは久しぶりだ。

 僕はてっきり、帰っていった平民兵たちが家族を連れて、数百人から多くて千人くらいで戻ってくるものだと思っていたのだけれど……。


 おかしいな。数が多くないかな?


 砂煙はみるみるうちに大きくなり、街道を埋め尽くしていく。

 五百。一千。三千。五千……いや、あっという間に一万人? いやいや、後ろが全く見えない。もっと多いかも。男たちだけでなく、老人や女、子供まで、家財道具を大荷物で抱えた大集団がゾロゾロと押し寄せてきている。


 そして、その大移民団の先頭を歩く男が、僕の視線に気づいてブンブンとちぎれんばかりに手を振っていた。


 ……捕虜に紛れ込ませていた、バルドだ。


 遠目からでもわかるくらい、何だかものすごく得意げな、やり遂げた男のドヤ顔をしている。


「若様! 言われた通りバッチリ全員連れてきましたッ!」


 大声で叫びやがった。そうだった。騎士団は基本的に脳筋だった。覚えておけるわけがない。

 ……う、嘘でしょ。嫌な予感しかしないんだけど。

 人々が地鳴りのような足音を立てて、要塞前の広場へと次々に集まっていく。

 バルコニーから見下ろす僕の視線に気づいた農民たちが、


「おお……!」「あのお方が……!」「リベイラ辺境伯の若様……」「アラン様じゃ……」


 とザワザワし始め、広場が奇妙な熱気に包まれだした。


「……はぁ。名前は伏せてって言ったのに、絶対にバルドのやつ、余計なこと喋ったよね? 僕も下に降りていくかな……」


 僕は冷や汗をかきながら、バルコニーの縁から重い腰を上げた。


 ◆◆◆◆


 広場には当主であるお父様、夫人のお母様、妹のシエラとリーナ、そして長男の僕。

 それを守るように騎士団とメイドたち、セバスチャンもいる。


「若様! ご命令通り、捕虜たちを助けて回り只今戻りました! 困り果てている領民に手を貸して回ったらこのような数に……やはり若様は素晴らしいですな。捕虜たちのことを考えて私を遣わせるとは……!」


 なんだか元捕虜や家族たちが、祈るように僕たちの前で跪いているし……まあ、これはこれで気持ちが良いけれどさぁ〜。


「うむ、皆の者! よくぞリベイラ辺境伯領へと来た! 我が領民として歓迎しよう! それとバルドよ、よくぞやってくれた。礼を言うぞ」


 なんと、平民の格好をしたバルドに辺境伯当主が直々に感謝したのだ。

 ここまで来た元捕虜の家族たちは一発で理解したはずだ。このリベイラ辺境伯領は、自分たちを奴隷扱いにした『他の貴族』とは根本的に違うのだと。


「おお……なんと器の大きい領主様だ……」


「平民の姿をした騎士に、これほど優しく声をかけるなんて……」


 広場を埋め尽くした約2万人の民から、今度は感動の大地鳴りのようなざわめきが沸き起こる。

 すると、お父様はガハハと豪快に笑い、広場の民に向けて両手を大きく広げた。


「皆の者、長旅で疲れたであろう! 今日は我がリベイラ領が、新たな領民を大歓迎する宴だ! セバスチャン、すぐに炊き出しの準備を……倉庫から肉も野菜も酒も、あるだけ全部吐き出せ! 腹いっぱい食って、まずはゆっくり休むが良い!」


「御意にございます、旦那様……少々、倉庫が空になりそうですが、リベイラ辺境伯領の作物ならばすぐ補充できますな」


 セバスチャンが僕の方をチラリと見て、眼鏡をクイッと上げながら不敵に微笑む。

 お父様の「歓迎宣言」に、2万人の移民たちはついに感極まり、「リベイラ辺境伯様万歳!」「リベイラ領万歳!」と広場が割れんばかりの大歓声を上げた。


「おお、アレが『リベイラの聖なる薬箱』の奥方様とシエラお嬢様かぁ」


「相変わらずお美しい……シエラお嬢様もリーナちゃんも……」


 おじさん人気はやはりこの2人が独占だな。

 ──そして、その熱狂の矛先は、当然のように僕へと向く。


「そして……オラたちを救うためにバルド様を遣わしてくださった、アラン若様ぁぁ!」


 モブオたちが最前列で激しく床に額をこすりつけ、大号泣しながら僕を見上げた。


「アラン様のおかげで、妹も母ちゃんも奴隷にならずに済んだべ! この御恩、一生、いや三代先まで忘れませんだ! 馬車馬のように働いて、リベイラのために尽くしますだぁぁ!!」


「「「アラン様ぁぁ! ありがとうございますだぁぁ!!」」」


 2万人の視線と感謝の声が、7歳の僕に一斉に降り注ぐ。イヤ、声がデカいから……全員で言うと鼓膜がヤバい。

 横を見ると、お母様が、


「ウフフ、さすがはアランちゃんですわね」


 と言いたげな、妖艶なニヤリ顔を向けてきている。シエラとリーナも『お兄様、すごーい!』と目をキラキラ輝かせていた。


 ……いやいや、僕はただ「存在感を出したかった」だけで、こんな神様みたいな扱いは想定外なんだけどなぁ。

 名前を隠せって言ったのに、バルドのやつ、本当に余計なことしかしないんだから。ケッ、これだからリア充は。


「……はぁ。まあ、これだけの数の『忠誠度MAXの領民』が一気に手に入ったんだから、結果オーライ、だよね。それではそこに──『育てる』発動!」


 ミランド領との戦争を経て、僕たちのリベイラ辺境伯領は大切な領民を新たに迎えることができた。予想よりも、遥かに多いけどね……!

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