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新しい領民になろうよ

 僕は気づいてしまった。

 天然脳筋お父様の天然、名女優お母様・シエラ・リーナの聖女&無垢少女の涙、冷徹で頭が冴えている黒幕執事セバスチャン。みんなの活躍が凄すぎる。

 そして、僕は上から見ていただけ……ああ、存在感がない長男になってしまうね。でも、面倒くさい事はしたくないし……そうだ。


 広場で話し合いをしているのを横目で見つつ、僕は存在感を出すために騎士団へお願いに向かった。

 覚えているだろうか? 僕が兵士で初めて『育てる』を使った彼を……そう、あの時は【辺境伯家騎士団見習い騎士】だった彼は、今は立派な騎士になり歩兵隊の隊長をやっている。その彼に「鎧を脱いで捕虜の中に入り込み、護衛をしてほしい」と頼みに来たのだ。


「……って事なんだ。領民が襲われるかもしれないし、領民を逃がしたくないとミランド伯爵が追っ手を出すかもしれないから……頼めないかな?」


「もちろんです。若様はお優しいのですね。私にお任せください。部下を何名か借りてもよろしいでしょうか?」


 納得してくれたみたい。あっ、ちなみに彼の名はバルド。訓練も真面目だしお父様に憧れているらしい。

 それと可愛い幼馴染の彼女がいて今度結婚するらしいよ。ケッ、リア充が〜。


「もちろんだよ。バルドが失敗するとは思わないけど気をつけてね。それと、僕がお願いした事はナイショだよ」


 よし、これで解決だね。僕はもはや定位置となりつつある広場を見渡せる場所に座り、状況を見下ろした。

 ……うん。上手く潜り込めたようだね。

 それから食料を配り、一塊になりながら約5000人のおっさん達はミランド領へと帰っていく。

 その群れの中に、鎧を脱いで小汚い平民服に着替えたバルドたち騎士団の精鋭が……身分を隠しながら上手く潜り込めたようだね。


「……ま、バルドなら大丈夫でしょ。アイツ、可愛い幼馴染との結婚が控えてるらしいからね。愛のパワーとやらでフラグをへし折って、絶対に生きて帰ってくるでしょ。もう一度言っておこう……ケッ、リア充め」


 僕は広場を見下ろしながら、小さくフンと鼻を鳴らした。

 これで僕の存在感アピールは完了だ。あとは彼らの帰りを待つだけ──。あれ? 名前を隠してって頼んだら……僕の活躍が伝わらないじゃん……。


 ◆◆◆◆


 ──それから数日後。

 サラダン王国のミランド領、モブオたちの暮らす平民の村。


「ただいま戻ったべー! サキ、じいちゃん、ばあちゃん! 今すぐ荷物をまとめるんだや!」


 モブオがリベイラ領でもらった肉スープの残りとパンを抱えて家に飛び込むと、そこには涙を流して震える妹と、顔を腫らした母親の姿があった。


「え? 母ちゃん、その怪我どうしたべ!?」


「モ、モブオ……逃げなさい! 伯爵様のところの騎士たちが来て、負け戦の穴埋めにって、村の若い女や子供を片っ端から奴隷商に売るために連れて行っちゃったのよ……! サキは隠れてやり過ごす事が出来たけど……」


「な、なんだって……!?」


 モブオの手から、大事な食料袋が床に落ちた。

 無能なミランド伯爵は、リベイラ領に惨敗して失った兵力と身代金の穴埋めをするために、自分の領民を金に変えようとしていたらしい。自分たちだけ逃げ出したくせに……。


「クソッ、あんなケチ領主のためにオラたちが戦わされている間に、家族を売り飛ばすなんて……! すぐに村を出よう!」


 モブオが激昂して家を飛び出そうとしたその時、村のあちらこちらから『ギャアアア!』という悲悲鳴と、ガチャガチャと不気味な鉄の音が響き渡った。


「アハハハ! 無能な敗残兵どもが帰ってきたか! おいお前ら、お前たちの無様な戦いで伯爵様の顔に泥を塗ったんだ。本来ならお前たちもここで首をはねてやるところを、奴隷で赦してやるそうだぞ……!」


 村の広場では、ミランド伯爵家の非道な騎士団が帰ってきたばかりの農民たちを剣で威嚇し、地獄のような光景が広がっていた。家族を奪われ、絶望にへたり込む農民たち。


 だが──。

 その絶望の渦の真ん中で、ボロ布をまとった一人の『変装したバルド』が、静かに立ち上がった。


「……おい、ミランドのクズ騎士ども」


「なんだ? 文句があるのかあんちゃん! 死にたいか!?」


 ミランドの騎士がせせら笑いながら剣を突きつけるが、バルドは全く動じない。それどころか、懐からピカピカに手入れされた『魔鉄製の剣』をスラリと取り出した。


「我が主、若様のご命令である。──『リベイラ領民の身の安全をガッチリ守れ』となッ!」


 バルドの身体からユラリと揺らめく魔力が溢れ出てくる。日々鍛え抜かれた身体が何倍にも大きくなったかのような錯覚に陥る。


「……しかし、同じ領主だというのに正反対だな。片や食料を渡し『畑をあげるから家族を連れておいで』と胸を張る度量の広い領主様がいれば、もう一方は守るべき領民を奴隷に落とすとは……。つくづく、リベイラ辺境伯様にお仕え出来た事が俺の幸運だな。そして村の皆、聞いてくれ! 俺はリベイラ辺境伯の若様より、皆を無事に送り届けるよう命じられた騎士バルドだ! 必ず全員、リベイラ辺境伯領へ連れて行くからな!」


「おお、リベイラ辺境伯様……!」「若様? 確か長男様はアラン様と……」「わぁ、アラン様……!」「ありがとうごぜいやすだ、アラン様ぁぁ!」


 アランの知らない所で、意図しない形ではあるが……リベイラ辺境伯家の長男・アランの名前が、絶大な感謝と共に広がっていくのだった。

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