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さらにダメ押し

 すげーな女性って。打ち合わせでは『聖女ムーブからの上目遣いでお願いしてみて』と言っていたのに……本物の涙とお母様の男前のセリフに、捕虜たちは全員が涙していた。そうだよね、まさか他国の領主一家が自分たちの心配をしてくれているんだからね。


「それでは、後はセバスチャンに任せるわ。シエラ、リーナはこちらへいらっしゃいな。私達は涙の跡を洗うために失礼いたしますわ」


 アメリアお母様は、涙を浮かべるシエラとリーナの肩を優しく抱き寄せ、優雅に一礼して要塞の奥へと引っ込んでいった。

 広場では、残された5000人の捕虜のおっさん達が、


「なんと慈悲深いお方たちだ……」「オラたちを本気で心配してくれて涙まで……」


 と、まだ感動の涙を流しながらセバスチャンの元へ契約書を求めて殺到している。


 ──が。

 要塞の上階の窓から、広場とその奥の通路を『上から見下ろしていた』僕だけは、見てしまったんだ。


 壁の死角に入り、捕虜たちの視線が完全に遮られた、その瞬間……


「ウフフ、完璧でしたわね」


 お母様が口元をニヤリと歪めて、冷徹な勝利の笑みを浮かべた。

 そして、さっきまで大粒の涙を流して過呼吸寸前だったはずのシエラとリーナが、一瞬で涙を引っ込めて真顔に戻ると、


『いぇーい!』


 パチンッ、と実に小気味いい音を響かせてハイタッチを交わしていたんだ。


 ……イヤイヤイヤ。


 ちょっと待って。あの「国の汚名を被る」とか言ったお母様の男前なセリフは?

 皆を心配して流した涙は?

「優しい2人ならセバスチャンを止めると読んでいた」僕がバカみたいじゃないか。イヤ、僕程度で女性を扱えると思ったのが思い上がりだった。


 打ち合わせでは『聖女ムーブからの上目遣いでお願いしてみて』としか言ってなかったのに、幼女2人は本物の涙とお母様の激アツセリフをアドリブでぶち込んで、5000人の心を一瞬で完全攻略しやがった。


「すげーな、女性って……」


 広場では、未だに男たちが、


「アメリア様ぁぁ! シエラ様ぁぁ! リーナちゃん!」


 と感動の渦に包まれている。

 前世で『女性は皆が女優だ』という格言があったが、あれは都市伝説じゃなくてガチの真実だったんだ。

 僕がチートスキル『育てる』で育てたリベイラの女性陣は、見た目やプロポーションが綺麗になっただけでなく……中身の演技力と度胸まで育ってしまったらしい。


 うわ〜、と思っていたら……一連のやり取りを見ていたお父様がセバスチャンに……


「うんうん、アメリアが言うようにリベイラ領の領民になるのが良い。現在、土地が余ってるからすぐに畑が作れるぞ。おお、そうだ。みんなを開放するから一度自宅に戻って家族も連れて来るといい……セバスチャン、みんなに先ほど奪った食料を渡して開放してやってくれ……」


 …………? はっ?

 あまりの事態にセバスチャンも固まってしまった。そりゃそうだろう……戦争を仕掛けてきて返り討ちにされた。そして捕虜になったのに「食料を渡して開放しろ」と? あの脳筋お父様は……


「だ、旦那様!? そんな事をしたら、捕虜にした者は帰って……」


「うん? 帰ってくるだろう? だっ今なら自分たちの畑も持てるし、ウチは騎士団が強いから兵役は無いし、税金は安くしてるからな。領民は豊かな生活を送ってる。税金に苦しむだけのミランド領なんて嫌だろう?」


 アハハ、確かに……でも脳筋お父様……天然だな。


「……辺境伯様、本気で言ってるのかべ?」


 広場では、感激の涙を流していた捕虜たちが完全にフリーズしていた。さっきまで冷酷非道に振る舞っていたセバスチャンも、今ばかりは魂が口から出かかったような顔で固まっている。


「……だ、旦那様。今一度お考え直しを。他国の、それも我が領を侵略しにきた兵たちに食料を持たせて一度帰すなど、前代未聞にございます。そのままサラダン王国側に逃げられ、再び兵力を整えられたら──」


 セバスチャンが必死に常識的なツッコミを入れるが、我が家の大黒柱にして最強の脳筋辺境伯は、ガハハと豪快に笑ってセバスチャンの肩を叩いた。


「何を言うかセバスチャン。ここに残った者たちにも家族がおる。ミランド領に残してきた彼らの家族はどうなる? 飢え死にするだけではないか。そんな寝覚めの悪い真似ができるか。ならば、リベイラ領でみんな幸せに暮らすが良い。リベイラ領の領民なら私や騎士団が守ってやれるしな」


「いや、ですから国同士の問題がですな……」


「ん? 難民などは珍しくもないだろう? 別に受け入れたからといって文句を言われる筋合いはない」


 ドヤァ……と、ものすごい説得力のドヤ顔を決めるお父様。


「「「確かにぃぃぃ……!!!」」」


 広場の5000人のおっさん達が、一斉に深く納得したように激しく首を縦に振った。

 そうなんだ。お父様の言う通りなんだよ。

 他国に逃亡したってなれば残された家族がどんな目に遭うか分からないしね。だけど、『一度戻って家族を連れてきていいぞ』と言われ、しかもそのための食料まで持たせてくれるなんて……いや、アリだね。


「アレックス様ぁぁ! オラ、絶対に家族を連れて戻ってくるだ!」


「サラダンの家なんて秒で引き払って、じいちゃんばあちゃんも全員連れてくるべぇぇ!」


 広場はまたしても『辺境伯様大賛美』の嵐に包まれていた。お父様もすげー、やはり天然最強説は正しかった。

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