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新たな領民への誘い

 うししっ、お父様は役者だね……あそこで下に降りて捕虜たちとご飯を食べるとは。打ち合わせには無かったけど、さすがだな。


 でも、これだけではない。

 ご飯を食べながらも、お母様とシエラを筆頭に女性たちが怪我人を見て回り手当てをする。リーナもお手伝いだ。

 フフフッ、リベイラ領の女性陣は僕の『育てる』で見た目も綺麗な人が多いし、そんな美女さんに手当てされれば……


「オラはこんなべっぴんさんに……」


 ほらね。目にハートマークが……。

 その中でもやはり人気なのは──


「あらあら、大丈夫かしら? 動かないでね……『ヒール』。どうかしら?」


 成熟した大人の色気を醸し出すリベイラ辺境伯夫人、お母様のアメリアと、


「もう少しの辛抱ですよ……『エリアヒール』。まだ痛む方はいますか?」


 リベイラ領でも絶大な人気を誇る我が妹のシエラだ。

 今回は治療という名目で、特別に戦場へ行くことをシエラは許可されたのだ。

 この、敵味方関係なく治療を施す慈愛に満ちた姿に心を奪われる人が沢山いた。

 彼女たちのことを、後に人々は『リベイラの聖なる薬箱』と呼ぶことになる。


「ふむふむ、ここまでは予定通りだ。後はセバスチャンが上手くやれれば……まあ、ここが一番難しいんだよな」


 そうなんだよ。この捕虜たちを領民へと勧誘するんだ。

 元々、ミランド伯爵の評判は悪い。そこに今回の無謀な戦いだ。無理やり連れて来られた領民は不満だらけだろうね。だからこそ「僕たちリベイラ領の領民にならないか?」と誘うんだ。


 今まではそのための仕込み。まあ、予想以上にお父様もお母様もシエラも人気者になったけど……結果オーライだね。


「うお〜、辺境伯様バンザイ!」「アメリア様、なんと美しい……」「シエラ様のお手が触れた……!」


 どうやら上手くいき過ぎたかなぁ〜。

 広場で食事も終わり、傷も癒えて談笑する余裕も出てきた頃、黒い服を着た老紳士が場に姿を見せた。


「リベイラの黒幕執事……」


 誰かがそう呟くと……ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。


「皆様、失礼いたします。私はリベイラ辺境伯に仕えます、セバスチャンと申します。以後お見知りおきを……」


 まさにお手本のような綺麗なお辞儀をして、その場の注目を一手に集める。


「皆様には我がリベイラ辺境伯家の捕虜になっていただきます。これより捕虜の方は金銭で身柄を買っていただく交渉をするわけですね……身代金の交渉ができそうな方はこちらへ……または傭兵の方は、あちらのメイドがいる方へ……」


 その人たちは、要塞の中でも豪華だが檻付きの個室へ案内される。恐らくは貴族家に連なる者や大規模な商会関係者だろう。檻付き個室の使用料も含めて、莫大な身代金を請求させてもらう予定だよ。

 傭兵は別枠で、自分たちで保釈金を払うかの交渉だね。


「さて、ほとんどの方は農民や平民ですね? 捕虜の扱いはご存じでしょうか? 奴隷と等しく扱われます。しかも、我々は攻め込まれた被害者です。あなた方には一番キツい……」


「セバスチャン、待ってください! 私が謝りますから、彼らを赦してあげて……クスン」


「リーナもゴメンなさいするから……イジメないで……うわぁぁ~ん!」


 2人とも、ゴメンな。優しい2人ならセバスチャンを止めると読んでいたんだ……やっぱり捕虜を見捨てられないんだね。優しく『育って』くれて僕は嬉しいよ。……セバスチャンもかなりの演技派だね。


「……シエラ様、リーナちゃん。これはリベイラ領の法でございます。攻め込んできた者を無罪放免にするわけにはまいりません。彼らには魔の森の開拓や、鉱山での過酷な労働で罪を償ってもらわねば……」


 セバスチャンがこれ以上ないくらい冷酷な声でピシャリと言い放つ。

 その瞬間、広場中の男たちの脳裏に『奴隷として死ぬまでムチで叩かれながら働く姿』が浮かんで、ガタガタと震えが止まらなくなっただ。


「そんなのあんまりです! 彼らは向こうの領主に無理やり連れてこられただけですわ! セバスチャン、何か……何か別の方法はありませんの!?」


 シエラ様が涙目でセバスチャンの服の袖を掴んで縋り付く。


「う、うわぁぁん! 鉱山は危ないからダメぇぇ!」


 リーナちゃんもハンカチで目を押さえながら大泣きしている。


「……はぁ。お二方にそこまで泣かれては、私も形無しですな」


 セバスチャンがわざとらしく、やれやれと深い溜め息をついて眼鏡を指で押し上げた。


「2人とも、泣き止みなさいな。レディーがむやみに人前で泣くものではありませんよ。好きな人の前で流す涙まで無くなってしまいますよ……それではリベイラ辺境伯夫人として、私から皆さんに提案がございますわ」


 辺境伯夫人アメリアが優しく捕虜たちを見渡し……


「皆さんは、リベイラ辺境伯の領民になりなさいな。サラダン王国のミランド領へまた帰りますか? この暑い時期にこれだけ畑を放置したら……それにまた戦争の度に駆り出されますよ。同じ扱いをされたくはないのでは?」


「奥様、なりませんぞ! それではリベイラ辺境伯が民を盗んだと……」


「黙りなさい、セバスチャン。彼らの人生を救えるなら汚名などリベイラ辺境伯が被ります。彼らはリベイラ領で頑張り、幸せになるべきですわ」


「うん、そうですわ! 皆さん、いらっしゃいな!」


「リベイラ領は良い所だよ、おじちゃん達〜!」


 あっ、落ちたな〜。セバスチャン以外は打ち合わせと違うけど……本気で心配してることが伝わったから、結果オーライかな!

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