行きたくない戦場
【サラダン王国出身の平民モブオ視点】
「オラ、イヤだったんだ。畑仕事もあるのに無理矢理に隣国を攻める兵士にされただ」
突然の領主ミランド家からの兵役。しかも、武器になるような物を持ってこいだと……そんなモノ、あるわけない。
だから、農具を武器に見立てて、兵役で集められた者はみんな担いでいただ。
アイツもコイツも仕事を放り出して参加している。
集められた広場では初めて見たミランド家のグレンダ様が演説をしているが……正直どうでもいい。
むしろ畑の方が心配だ。
何より隣国との戦争よりも畑の方が心配だ。今の時期は気温も暖かく、少しでも放置すると雑草だらけになる。
それでも税だけはしっかりと奪っていく。
グレンダ様だけが盛り上がり、こちらで集められた人達からは農具を持ちながら『溜め息』しか聞こえない……
何を言ってるのか分からない演説が終わり、移動が開始された。何人いるのか分からんが……みんなの顔は浮かない。それもそうだ。気温が高い中を歩かされる。
少しでも遅れると怒鳴られる。最後には暴力まで……
「勝ったら報酬が出るからな。相手は少数だ。必ず勝てる」
そう言って回るミランド家の騎士様。その言葉がなければ無理矢理ケガでもして帰りたいところだ。
みんなグッとガマンしてとにかく歩いた。
突如止まる馬車にならい、オラ達も食事休憩になる。
こんなの食事だけが楽しみになる。
しかし配られたのは『カチカチのパンと具を極力減らした冷めたスープ』だった。
まさか……先ほど歩いている時に足の裏のマメが潰れて遅れたから『罰』のためにこの食事にされたのでは……と思ったが、周りも一緒だった。
誰もが無言で食事を取る。5分から10分もする頃にはみんな食事終わってしまう。
その中に響き渡る、メイドと戯れる領主の声……
「きゃ、お止め下さい」
「ふむ、移動ばかりで少し溜まってきたな。お前とお前……次からワシの馬車へ来い」
「そ、そんな……私には恋人が……」
「ん? 恋人? 命とどちらが大事なんだ? よいな……」
「……グスン、はい」
アレは領主様のところに奉公してるニーナではないか……確か幼馴染の恋人が……あっ、バッ、バカ。ニーナの恋人のケンが領主のところに行こうとして、騎士に取り押さえられる。
◆◆◆◆
「うへっ、領主様は趣味が悪いべ」
なんと馬車でおっぱじめる。アノ声が無言のオラ達にも聞こえ、周りはイライラしていた。それだけでなく、ニーナの恋人のケンは縛られ歩かされている。
馬車の隣で……連れている騎士はニヤニヤしながら。
そんな胸糞悪い状況でも、目的地には着いてしまうんだや。そしてそこには絶望しかなかっただ。ものすごい要塞が立ち塞がる。
領主様は既に最後尾に退避して、前線には傭兵や騎士達、その後ろはオラ達平民や農民だべ。
そこからこの戦いを任されている責任者らしき騎士が馬に乗り、前に出ていく。
「我らサラダン王国ミランド伯爵旗下。アルハダイル王国リベイラ辺境伯よ。領地を明け渡せ。さすれば領民の安全は保証してやる。キサマは処刑だがな……ガハハハ」
こんな事を言われて降伏するヤツはいないと思うだ。学の無ぇオラでも分かるだ。バカなのか?
返ってきたのは大量の矢の洗礼だ。イヤイヤ、それはそうだ。
しかも小高い丘に築かれた要塞。広くなった正門前……その左右から飛んでくる魔法や弓矢。
集中砲火の中で『突撃!』しか言わない無能な指揮官。一番奥の安全な位置から見ているだけの領主。武器は農具だけの数だけの軍隊。
一言いっておこう……
「これ、無理じゃねぇ~!」
前線の騎士様は馬を操作して安全圏に離脱した。集中砲火に晒されたのは傭兵や農民・平民だ。
バタバタと周りにいた者が倒れる。
そして不思議なことに死んでいる者は少ない。みんな手や足などにケガをして動けなくなっている。
敵はオラ達をなぶり殺しにするつもりなのか?
いや、倒れている者を狙った攻撃が来ない! トドメを刺すつもりがないようだ。
それでも戦場だ、何人かは亡くなっているだろう……
うめき声や泣き声が響く中で立っていられる者は少ない。
騎士様や後ろの領主様からは相変わらず『突撃!』しか聞こえない。そこに……
「報告します。物見よりズルガト伯爵軍の旗を確認しました。所定の位置より攻撃を開始する構えです」
こちらの壊滅前に、ミランド伯爵軍にとっての朗報が戦場を駆け巡る。それを聞いた指揮官はこれで挟み撃ちだと言わんばかりに……
「援軍が来たぞ。これより敵の要塞に総攻撃を仕掛ける! 全軍前に進め、敵を1人も逃がすな!」
ミランド伯ランド軍は全軍で要塞へ突撃した。要塞の反対側からも爆発音が聞こえてくる。これがさらなる応援歌のように聞こえ、騎士様達は馬を蹴り一直線に駆け出す。
それでも一番奥に約100名の騎士様に守られて、領主様は動かない。いつでも逃げられるようにしているのだろう……
「チッ、クズ~」
オラは一度領主の方に罵声を浴びせて、鍬を構えて突撃した。
要塞の上階より黒い服を着た老紳士が頃合いだと言わんばかりに右手を振り上げ……その手を振り下ろしたのが、オラから見えただ。




