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すれ違う秘密同盟

【サラダン王国のミランド家当主グレンダ視点】


 アルハダイル王国のズルガト伯爵と秘密同盟を締結してから、食料や鉄などの必要物資のやり取りをして、リベイラ辺境伯領への侵攻へ順調に準備をしていた。

 何もかも順調に進んでいたが、ここ最近少しずつ狂い始めていた。


「食料がまた値上がり? なぜこんな短期間で値上がりばかりしておるのだ。ズルガト伯爵から仕入れているのだろう? それにあの憎きリベイラ辺境伯からも……」


 ミランド領は魔の森と接しているために開拓できる土地に限りがあり、食料はもっぱら輸入しなければならない。また、リベイラ領へ攻め込むために傭兵もたくさん雇い入れ、さらに食料が必要になっている時期に……


「はっ、それがリベイラ領産の食料の大部分はキロイフ領へと流れている模様です。それとズルガト伯爵領ではキロイフ産果物が爆発的に人気となり、高値で取引され、我々の鉄を買える資金が不足しているようです……」


 グッ……これも『リベイラの黒幕執事』の策略か……

 もはや一刻の猶予もない。食料にも限りがあるし、傭兵を遊ばせておくのも金がかかるな……

 しょうがない。


「平民や農民からの徴兵で賄うか……傭兵と合わせればどのくらいの規模になる?」


「ハッ、ざっと……約5000名になりまする!」


 ふむ、悪くない。ズルガト伯爵から聞いているが、アルハダイル王国の王都からの援助は全てズルガト伯爵が止めている。要するにリベイラ領は孤立しているわけだ。このチャンスを見過ごす手はない。


 王都からの援軍もないこと、ズルガト伯爵との挟み撃ちが可能なことから、勝算は高いはずだ。キロイフ領には少数の騎士団しかいなかったはずだしな。

『黒幕執事』が策略を張り巡らせたとて……


「ズルガト伯爵に連絡を入れろ。日取りを合わせてリベイラ領を攻め取る。長年の因縁に決着をつけてやる!」


 グレンダの密偵はリベイラ領を通り、ズルガト伯爵の下へ辿り着いて返事をもらい、引き返していた。その密偵に誰一人として心当たりがないのだが……


「ズルガト伯爵から了解の返事が来たぞ。これで何の心配もなく戦場へと……」


 私は全軍の集結を急がせたり、食料を確保したり……そして各自で武器を持参させているので、そこまで経費も時間もかけずに済んだ。やはり私は天才だな。

『リベイラの黒幕執事』も、この大軍が時間もかけずに目の前に現れることにビビるに違いない。


 私は既にリベイラ領を手中に収めた後の事後処理と、キロイフ領への進軍を考えていた。

 最近では鉄が取れる鉱山も見つかり……ズルガト伯爵領でも人気な果物もある。全てを私が手に入れてやる。

 そうすれば中央の頭の固い連中も私を見直して……


 ◆◆◆◆


「精強なるミランドの勇者たちよ! ついに念願のリベイラ辺境伯を討つ時が来たぞ! お前たちの父や友などのカタキもいることだろう。奴らに我らが強さを思い知らせ、リベイラ領から全てを奪い取ろうではないか……!」


「「「ハッ!」」」


 返事はちらほらだったが……何人か殺気に満ちた顔をしている。悪くない……コヤツらも戦場へ行けば気を引き締めることだろう。リベイラ領で奪った物を分け与えれば、私だって絶賛されるはずだ。

 最近のリベイラ領は景気が良いと話が伝わっているからな……運が向いてきた。

 我らは早速、敵の不意を突くために出陣する。


 奴らがいくら堅牢な城塞を築こうとも、兵力差がある。

 奴らは集められても1000人、対して我らは5000人だ。

 守備側が有利だと言っても城攻めは3倍の兵力差が定石……そこを5倍で攻めるのだ。

 それに反対側からはズルガト伯爵との挟み撃ちなのだからな。


「フフフッ、相変わらずワシの頭の冴えが自分でも恐ろしい……アレックスの小僧の妻、アメリアは大層美しいと聞く。ワシが未亡人となったアメリアを可愛がってやろうではないか……わっはははは!」


 まったく、ワシの未来は明るい。この状況はいくら『リベイラの黒幕執事』が有能で、アレックスの小僧や騎士団長が強くても、数で押し通せば必ず討ち取れる。

 この際だ。リベイラ領の領民を全て奴隷にしてしまおう。


 これでミランド家始まって以来の繁栄をもたらした者として、ワシ『グレンダ』の名が未来永劫残ることだろうな……

 リベイラ領へ向かい進軍を続ける。しかし、ずっと馬車に揺られるのは疲れるな……


「おい、腹が減ったぞ。飯にしろ」


「「「はい!」」」


 屋敷から連れて来たメイドたちが準備を始める。グフフフ、良いケツをしておるな……


「きゃっ、お止めください!」


「ふむ、移動ばかりで少し溜まってきたな。お前とお前……次からワシの馬車へ来い」


「そ、そんな……私には恋人が……」


「ん? 恋人? 命とどちらが大事なんだ? 良いな……」


「……ぐすん、はい」


 移動中の馬車からは延々とあの声が響き、食事の度にステーキやワインなど、戦争に行くとは思えない豪華さだ。


 一方、兵士として無理やり連れて来られた農民や平民などの士気は、みるみる最低にまで落ちていた。

 唯一、兵力差で勝てるという言葉だけが……逃げ出さない心の支えになっている。

 兵役で連れて来られているので、金銭なども支払われないのだから……

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