表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/48

お父様への報告

 リベイラ領へと着くと馬車に駆け寄る一人の影があった。そう、留守番のお父様だ。一人で留守番だったから寂しかったのかな?


「アメリア……会いたかったぞ。もう限界なんだ……」


 泣きながらお母様に抱きつくお父様。お母様もまんざらではない感じだ……

 それを見ていた幼女コンビも目をキラキラさせて、まるで恋人同士の再会を思わせるのか……ウットリしていた。

 セバスチャンとミーナはさすがは大人だ。見て見ぬふりをしている。

 この分だと……弟か妹ができるかな……


「書類が終わらない。助けてくれ」


 …………? そこでそれを言うのか……お父様、さらば。

 まるで地響きのような『ゴゴゴゴッ』という音が辺りに響き、お母様の顔から一切の笑みが消え失せた。


「……あなた?」


「ヒィッ!」


 先ほどまでは期待して満面の笑みだったお母様の表情が……消えた。この瞬間に本日のお父様の運命が決まったのだった。


「わ、私が寂しかったのも本当だぞ。本当だが、リベイラ領の書類全てを処理するのは無理だ」


「あら、そんなの私たちが留守にする前から分かっていたことでしょう? 私を抱きしめたのは、愛の言葉を囁くためではなく、ただの『事務処理の催促』でしたのね……セバスチャン、ミーナ、アランちゃんたちを連れて中に入りなさい。私はこれから、主人の『教育』をいたします。部屋には誰も近づくことを禁止します」


「はっ、心得ました……旦那様、奥様のご苦労を労うのも旦那様の役目でございます。ご健闘をお祈りいたします。それでは失礼いたします」


 セバスチャンが胸に手を当てて、これ以上ないほど綺麗な動作で一礼する。


「お父様、お母様を抱きしめたのに……その扱いはあんまりですわ」


「旦那様……パパと同じなのです」


「リーナ、ダメよ。若様は今から甘い言葉をかけてもらえるように、常に女を磨きなさい」


 イヤイヤ、ミーナさん。5歳児に何を言ってるのさ……


 ◆◆◆◆


 翌日。

 魂が半分口から抜けたお父様と、すっきりと美しい笑顔に戻ったお母様が応接室にやってきた。

 お母様のお肌がツヤツヤだね。色んな意味で絞り取ったみたいだね。グフフフ。

 お父様、完全に借りてきた猫みたいに隅っこで小さくなっている。


「旦那様、しゃんとなさいませ。領主たるものお子は何人いてもいいのです。それよりも、キロイフ領の変化がリベイラ領にもやってきますよ。早めに処理をしないと……この書類の処理も倍に増えてしまいます」


 セバスチャンがお父様に説教ついでに現状の説明をする。その様子にヘロヘロだったお父様も、少し気合を入れたようだね。そこで僕は……


「はい、お父様どうぞ……」


 お父様にキロイフ領で採れたピッチを差し出した。


「おっ、アラン。すまんな……」


 一口大に切ってあるピッチを口に入れた。そして……

 動きが止まる。


「あなた。これ、美味しいでしょ? アランちゃんがキロイフ領に、私やシエラたちのために果樹園を作ってくれたのよ。『いつでもお母様が食べられるように』ってね。良い子に育ってくれて嬉しいわ」


 お母様……いつでも食べてなんて言ってないよ。でも言わないけどね。怖いし。

 お父様が止まっている間にピッチを食べてしまった。あっ、ちなみにシエラとリーナは淑女のお勉強会だ。講師はミーナね。


「なんじゃこりゃーー! 美味すぎるぞ……ん? キロイフ領産と言ったか?」


「そうですよ、あなた。シエラも大好きみたいですしね……果樹園はお兄様にお任せして、リベイラ領にも融通してもらう契約も結んでいますよ。シエラも好きですし、私も……良いですよね?」


 う、凄い上目遣いだ。お父様もデレデレだし……落ちたな。


「も、もちろんだともアメリア。シエラもアメリアも好きなだけ食べるといい。ルーカス義兄上には私からもしっかりと話を……」


 デレデレと鼻の下を伸ばしながら、お父様が全面的に降伏の意思を示した。うん、我が家の権力ピラミッドの最頂点が誰なのか、これで改めてはっきりと証明されたね。まぁ、最初から分かっていたけど……


 その答えを聞いたセバスチャンが、待ってましたと言わんばかりの実にいい笑顔で仕事の話に切り替える。


「さすがは旦那様、お話が早くて助かります。──では、その果樹園の『規模』と、ついでにアラン坊ちゃまがキロイフ領で行われた『その他のお仕事』の全容でございます。しかとご確認ください」


「……その他のお仕事? ん? ちょっとキロイフ領を見に行ったついでに、ちょっとした庭園でも造ったのだろう?」


 お父様はまだデレデレした顔のまま、セバスチャンより差し出された『キロイフ領・経過報告書』の束をパラパラとめくり……そして、数秒ごとにその顔が土気色へと変わっていった。


『リベイラ・キロイフ間の主要道路、アラン坊ちゃまの指導のもと、キロイフ騎士団が整備。途中よりリベイラ領領民が加わり大幅に予定を繰り上げて主要道路が完成しました。側溝設置済み。現在は王都側への掘削へ移行』


「な、に? もう終わったのか? 完成は数ヶ月を覚悟していたのだが……」


「旦那様、数ヶ月でも普通は出来ません……」


『キロイフ盆地全体を、魔物一匹通さぬ高強度な城壁で完全包囲。要塞都市化』


「……は? 城壁? 盆地全体? 何を言っているんだセバスチャン……」


『鉄の大増産、および希少金属「魔鉄」のインゴット量産体制の確立。リベイラ騎士団による共同管理・警備へ移行』


「て、鉄だとーー! ベリエラ山脈の採掘に成功したのか? しかも『魔鉄』まで……」


 お父様はついに椅子からひっくり返り、手元の書類をバラバラと床にぶちまけた。

 最近のお父様はリアクションの幅が広がってきたな。リアクション芸でも学んでるのか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ