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キロイフ果樹園

【キロイフ子爵家当主ルーカス視点】


 アランが作ったと言っていた果樹園で採れた果物を持ち帰ってくれていた。その試食で……


「ウフフッ、甘い。甘いわ。アランちゃん凄いわ」


「お兄様、大変美味しいです。シエラはこれが好きです。あっ、でも1番好きなのはお兄様です。えへへっ」


「リーナもおいちい、リーナも若様大好き」


「……! これは素晴らしいです」


 そうだろうな。私も一口しか食べられなかったが素晴らしい出来だったな。この果物がキロイフ領で作られたとは……


「うん、みんなの喜ぶ顔が見たいから頑張ったんだよ。いつもお母様にもミーナにもお世話になってるし、シエラとリーナもカワイイからね」


「アランちゃん……なんて良い子なの……」


「若様。私の事まで……恐縮です」


 大人の女性2人は涙ぐむ。


「お兄様……カワイイなんて……」


「わーい、嬉しい」


 幼女コンビもまんざらではなさそう。

 アランはとんだ女殺しだな……

 そして、私の所に来てコッソリと耳打ちする。


「ルーカス叔父様。キロイフ果樹園をよろしくお願いします。お母様もミーナもシエラもリーナも好きみたいですよ。失敗したら……おお、恐い〜」


 なにーーーー! そうか! この果樹園は私が運営するのか……えっ、じゃあ、失敗したら……。


 私はガタガタと震えながら、未だにグレプやピッチを夢見心地で頬張っているアメリアとミーナ、そして幸せそうに笑うシエラとリーナに視線を向けた。


 もし、私の管理不足でこの奇跡の果樹園を枯らし、彼女たちのこの極上の笑顔を奪うようなことがあれば……いや、考えるのをやめよう。命がいくつあっても足りない。


 リベイラ辺境伯の正妻である妹からのぐうの音も出ないイヤミと、有能なメイド長からの冷酷な視線のコンボを喰らったら、私は……


「せ、セバスチャン……ガイウス……助けてくれ」


「心中お察しします。このセバスはルーカス様のお味方ですぞ。しかし、さすがはアラン坊ちゃまでございますな。鉄だけでなく果実というキロイフ領の特産品を作ってしまわれるとは……」


 セバスチャンが、いつも以上に真剣な、しかしどこか楽しそうな顔で深く頷く。


「おいおい若様……とんでもない爆弾を領主様に丸投げしていきやがったな」


 部屋の隅でいじけていたガイウスが、憐れみの目で私を見つめてくる。だが、その隣に立つ妻のミーナが、ピキッと青筋を立てて冷たい声を放った。


「あなた。他人事のように言っていますが、警備を担うのはリベイラ騎士団も同じですよ? もし果樹園に不届き者が侵入して、若様の作られた苗木に傷一つでもついたら……分かっていますね? 奥様もお嬢様もアナタの娘のリーナだってあの果実のトリコなんですからね……私も……」


「ヒィッ! わ、分かってる。分かってるともさミーナ。このガイウス、命に代えてもこの『若様の果樹園』を守り抜いてみせる!」


 娘のリーナに引かれたばかりの騎士団長が、今度は妻のプレッシャーに負けて直立不動で叫んでいる。

 よし、これでガイウスも巻き込めた。私一人だけが胃を痛める理不尽からは脱出だ。いらっしゃい、ガイウス。ようこそ、こちら側へ。


「さて、冗談はここまでにして……ルーカス様。私はこれはアラン坊ちゃまからの伝言ではと見ております。この鉄と果物を使い、キロイフ領を潤してみせろと……今、工事中の王都までの道が繋がれば、ここは人が行き交う交易路になるはずでございます」


 セバスチャンは真剣な顔で私を見る……


「……うん。そうだな」


「はい、それだけではございませんよ。何故、坊ちゃまは盆地全体を城壁で囲ったと思いますか?」


「……? 安全確保じゃないのか?」


「もちろんそれも1つです。それだけでなく、商人や旅人なども行き交うので、王都方面などに宿屋や市を置いて鉄や果物を捌けば……」


 おいおい、アランはまだ7歳だぞ。そんな事まで考えていたのか……私はアランの方を見ると、満足そうに女性達の方を見て笑っている。そして、急に私の方を見て『ニヤリ』と笑い……近寄って来た。


「ね! ルーカス叔父様。あの顔を見たら頑張らないとと思えるでしょう? それだけじゃなくて、果物はお酒にもなるからね……」


「なんと! このセバス、果物単体のみで考えておりましたぞ。そうか……酒にも……まだまだ忙しくなりそうですね。ルーカス様も……」


 やっぱり、アランの策略で私の休日はしばらく無くなりそうだな。


「あっ、そういえば……ルーカス叔父様は結婚はしないのですか? 貴族家の当主なのに……」


 うっ、それを言われると……私ももう、26歳だ。本来は妻を貰っていなければならないのだが……


「アランよ。前のキロイフ領へ嫁ぎたい貴族令嬢などいたと思うか?」


 アランはビックリした顔になり、頷きながら……


「じゃあ、これからは大丈夫だね……というか多分、叔父様の嫁候補になりたい人が殺到しそうだね」


 うししっと笑いながら……アランはさらに、


「叔父様も『枯れてる』場合じゃないね」


 失礼な。枯れてるワケじゃない。機会がなかっただけ……本当だぞ。

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