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農業の可能性

「よしよし、親方……こっちはもう任せて大丈夫だよね? 一応、インゴット作成までルーカス叔父様から了解を貰ってるから。売って貰えるように交渉するから、まだ手をつけちゃダメだよ……」


「そ、そんな……」


 イカツイ親方たちが肩をガクッと落とす姿に笑ってしまうな。

 さて、農業の親方の方はどうかな……

 僕はベリエラ山脈へ向かって歩いていく。途中で鉄鉱床の現場を見るために少し遠回りをすると……


「貴様ら、なんだそのへっぴり腰は……若様に笑われるぞ!」


 リベイラ騎士団団長のガイウスおじさんが怒号を上げながら、ツルハシと全身に魔力を漲らせて振るっている。サクサク掘れているようだね。魔の森での木こりの訓練が活きているようで何よりだ。

 リベイラ騎士団の訓練にもなっているようで……僕はそっと引き返した。捕まったらうるさいからね。


 そして、騎士団に見つからずに離脱できた僕は、ベリエラ山脈の中腹付近へやって来た。

 日当たりもいいし、この辺りなら良い果物が出来そうだね。


「おや、やはり若様ですな〜。この辺りに目をつけるとは……」


 農業の親方が騎士団を伴ってやって来た。

 その顔はホクホクしていて、良い収穫があったようだね……しゃがんで土をいじる。


「ふむ、やはり土に少し魔力を感じますな……魔の森の強力な魔力がここまで伝わってきているのかもしれませんな……そして、地元の者に話を聞いたら……この辺りは寒暖差が激しいらしく、作るならグレプやマロロンやピッチなどが良いでしょうな」


 あっ、ちなみにグレプはグレープ。マロロンは栗。ピッチは桃だよ。


 どれも前世の地球で、山岳地帯の厳しい寒暖差によって極上の甘みを蓄えていた果物たちだ。それがこの世界では、ベリエラ山脈の微量な魔力を吸ってさらに高品質になるらしい。


「なるほど、親方。それらの果物をここで本格的に栽培したら、もの凄く美味しいものができるんじゃないかい?」


「へへっ、若様ならそう仰ると思って、すでに地元の詳しい者に案内させて、山奥に自生していた野生の原種をいくつか株ごと採取してありますぜ」


 親方がニヤリと笑い、後ろの騎士たちが抱えていた大きなカゴを示した。

 中には、小ぶりながらも実がパンパンに詰まった野生のグレプの蔓や、トゲだらけのマロロンの実、そして可愛らしいピッチの苗木が入っている。


『見える化』発動。


『野生の魔グレプ:ベリエラ山脈の魔力を吸った野生葡萄。非常に強い酸味と渋みがあるが、ポテンシャルは極めて高い』


「うん、どれもほどよい魔力を感じるね……よし、親方。せっかく千人も人がいるんだから、大工班に頼んでこの斜面をあっという間に綺麗に『階段状の果樹園』にしてもらおう。そして、この原種たちに──」


 それぞれ指定された位置に植えた上で、僕は苗木たちにそっと手を触れ、脳内で『美味しくなーれ、実が大きくなーれ』と念じながら、ユニークスキルを発動した。


『育てる』発動……


 僕の手から溢れ出た温かい光が、野生の果物たちを優しく包み込んでいく。すると、どうだろう。

 それぞれ実をつけ始める……それを見ていた農業の親方は……


「おお……奇跡だぁ。若様が奇跡を起こしておる。マロロンやピッチは実がなるのに3年はかかるはずが……」


 農業の親方は泣きながら実った果実を採集していく。それらを順番に見ていく。その中で優れた果実を選んで、さらに『育てる』の発動……だけでなく、しっかりと地面の魔力と繋ぎ合わせた上で僕の魔力を混ぜながら『育てる』だ。


(よし、これでベリエラ山脈の豊富な大地の魔力が、この苗木たちにダイレクトに供給され続けるようになる。僕が毎回魔力を注がなくても、これからは毎年勝手に『最高品質の果実』が実ると思う。キロイフ領の果樹園の完成だね)


 僕の手から放たれた光が、大地の底を流れる魔力の脈へと染み込んでいき、苗木の根を通じて果実へと還流していく。

 すると、果樹園全体の空気が澄み渡り、辺りに甘い香りが漂い始める。さらに目の前の果実たちが「ポコポコ」と音を立てて大きな果実を実らせていく。


「親方? どうかな? 僕なりの品種改良をしてみたけど……」


「あっ、あっ、若様……色・ツヤ・形・匂い・張り……そして、味。全てにおいて最高の出来です。甘さはもちろん芳醇な香り。酒にしても恐らくは高値で取引される事でしょうな……」


 農業の親方からお墨付きを貰った僕は、実った果実を全て摘んでキロイフ領都へのお土産にする。

 お母様やシエラやリーナは喜んでくれるかな……女の人は甘い物が好きだからね。

 あと、ルーカス叔父様に栽培とかも丸投げすればリベイラ領でも食べられるし、僕がやらなくても済むから……一石二鳥だ。いや、キロイフ領のお金にもなるから一石三鳥だよ。ルンルン。


 早速、みんなに自慢しなくちゃ。僕は褒められて伸びる子なんです。


「若様……これは農業革命どころではありませんぞ。本来は何世代も重ねるところを1時間もかからずに……って、若様はもういない!?」


 後ろの方で農業の親方が騒いでいる。早く来ないと摘んだ果物は全て女の人に食べられちゃうぞ。僕は知らないからね……

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