セバスチャンその2
【リベイラ辺境伯家執事セバスチャン視点】
皆様、お久しぶりでございます。ご機嫌如何でしょうか? 現在、リベイラ辺境伯領はアラン坊ちゃまのご活躍により未曾有の好景気と人材育成による様々な方面での発展著しい、忙しくも楽しい日々を過ごさせて頂いております。
特に以前よりリベイラ領で暮らしていた領民の成長ぶりは目を見張るものがあります。もちろん、この私もここのところ……絶好調でございます。
さて、そのアラン坊ちゃまを含め奥様が里帰りを含めて隣領のキロイフ子爵領へ行き、そろそろ1ヶ月が経とうとしているところでございます。
普段の騒がしさが少し下火になったような寂しい感じでございましたが……
「セバス様、キロイフ子爵領より騎士団の者が帰り、急いで面会したいと……」
ふむ、どうやら休んでいる暇は余りなさそうですね……キロイフ子爵領ということは、またアラン坊ちゃまが皆様を驚かせているのでしょうね。それでも、アラン坊ちゃまなら誰かを困らせることは致しません。
きっと笑顔になる驚きを届けてくれるのでしょう……
急いで楽しみの報告を聞くために、騎士団団員が待つ場所へと訪れた。
「報告申し上げます。是非、旦那様へのご伝言お願い申し上げます。奥様より急ぎ報告後、騎士団団員を最低限残してキロイフ子爵領へ来るようにと命令を受けております」
どうやらアラン坊ちゃまは相当なことをしたようですね。魔の森伐採以来の偉業でしょうか……
「ご嫡男様……若様がキロイフ子爵領のベリエラ山脈にて巨大鉄鉱床を発見。それと鉄鉱床を魔鉄に変化させることにも成功致しました。その鉱脈の発掘体制と護衛を我が騎士団へと奥様が申しております」
……………………? はい?
まぁ、アラン坊ちゃまがベリエラ山脈のあるキロイフ子爵領に向かった時から、リベイラ辺境伯領の鉄不足を見越してだろうとは思っておりました。以前よりベリエラ山脈には大量の鉱物資源が眠っていると言われてましたから……ただ、もう少し時間のかかるものだと……いえ、アラン坊ちゃまでしたね。不可能を涼しい顔で『僕、やっちゃいました?』とか言いそうですね。
「分かりました。ご苦労様です。旦那様には私からお伝えしますよ」
「ハッ、それでは失礼します」
騎士団団員は慌ただしく騎士団の詰所へと走って行った。
「ハハッ、それは私では思いつきませんよ……アラン坊ちゃま」
普通の鉄鉱床を見つけるだけでも偉業ですのに、それを『魔鉄』にしてしまうとは。私の中での常識を、坊ちゃまはいつも新雪を踏み荒らすように足跡を残してくださる。
それにしても、さすがは我が主の妻であり、リベイラ辺境伯夫人のアメリア奥様です。
リベイラ辺境伯領で枯渇している鉄鉱床が発見されたと知るや否や、即座にリベイラ騎士団の本隊を呼び寄せて物理的な「防衛ライン」と「採掘体制」を敷く決断を下されるとは。今頃、お隣のルーカス子爵は、あまりの規模の大きさに泡を吹いて卒倒されている頃合いでしょう。
「さて……。休んでいる暇はありませんね。この『極上の手土産』を、早く旦那様にお届けせねば」
コンコン、と扉を叩きます。
「旦那様、セバスチャンでございます。キロイフ子爵領のアラン坊ちゃまより、大変『笑顔になる驚き』の報告が届きました」
「おお、セバスか。入れ」
執務室の中では旦那様が、山積みの書類を前に頭をガリガリと掻きむしりながら、どこかホッとした表情で私を迎え入れてくれました。普段はアメリア奥様が処理しておられるので、久しぶりに机にかじりついていますね。
「キロイフから伝令か……ハハッ、あいつらが向こうに行ってから、領内が静かで少し寂しかったところだ。どうせアランのことだ、ルーカス義兄上に無茶を言って困らせているのだろう?」
「ええ、半分は当たっております。アラン坊ちゃまがベリエラ山脈にて鉄鉱床を発見したとのことで報告がありました……」
「何? 鉄鉱床だと? 調査すら不可能と言われたあの山脈でか……さすが我が息子、相変わらず引きが強いな。それで、規模はどのくらいだ? 数年分の鉄が我がリベイラ領で賄えるくらいか?」
旦那様が嬉しそうに身を乗り出します。私は、いつもの完璧な微笑みを浮かべたまま、静かに告げました。
「いえ。情報によると見渡す限りの鉄鉱床だそうです……推定埋蔵量の測定はこれからとのことです」
「そうか……朗報だな。リベイラ辺境伯としても協力を惜しまないと伝えてくれ……それでは私は忙しいから、あとはセバスに任せる」
「旦那様……かしこまりました」
なんと……旦那様はこんな大きな案件をこのセバスめに……これは失敗は出来ません。
さて、そうなれば……
◆◆◆◆
「皆の衆、よくぞ集まってくれた。現在、リベイラ辺境伯家としてキロイフ子爵領で発見された鉄鉱床に全力をもって発掘と運搬を行う。リベイラ騎士団をはじめ、手が空いた領民はキロイフ子爵領へ……」
この領主邸の前にはリベイラ辺境伯家に忠誠を誓う騎士団の他にも、アラン坊ちゃまが魔力を鍛えた領民が集まりキロイフ子爵領へと向かうのだった。
魔の森の木材を大量に乗せた荷車を引きながら……
騎士団長ガイウス様を筆頭に私、セバスチャンもアラン坊ちゃまの下へ……旦那様、書類の処理はお任せ致しましたぞ。




