キロイフ騎士団
ルーカス叔父様からキロイフ領の道路工事の許可をもらい、僕は当面の課題を解決するためにキロイフ騎士団の訓練場へとやってきた。
ルーカス叔父様を筆頭に僕とお母様、それとミーナにコッテリと淑女の嗜みを叩き込まれたシエラとリーナのコンビも合流した。当然のように僕の両隣の指定席につくと、二人はすでに大ご機嫌だ。
「らんらんら〜ん♪」
「るんるん♪」
楽しそうな鼻歌が聞こえてくるけれど……チラッと後ろのミーナを覗き見る。……頬がピクリと動いた。だよね、明日の淑女教育はまたさらに熱が入りそうだね。でも、今すぐには注意しないみたいだ。
母親として、楽しそうな娘の姿を見たいんだろうね……うん、そう思っておこう。明日のレッスンが今の倍のキツさになりそうな気がするけれど、今の僕には彼女たちの未来のスパルタ教育を止める権力はなかった。
「アラン、これが我がキロイフ子爵家が誇る精鋭、キロイフ騎士団だぞ!」
案内してくれたルーカス叔父様が、胸を張って訓練場を指し示した。
そこにいたのは、総勢三十名ほどの騎士たちだ。人数こそ少ないが、皆一様に無駄のない引き締まった体躯をしており、その眼光は鋭い。ベリエラ山脈から降りてくる凶悪な魔物たちと日常的に死線を潜り抜けているだけあって、昔のリベイラ騎士団のベテラン勢にも劣らない『脳筋』のオーラを放っていた。
「全員、整列せよ! 本日より我が甥からの提案であった、リベイラ領とキロイフ領を繋ぐ大街道工事、およびベリエラ山脈の魔物掃討作戦を開始することとなった。これは我がキロイフ領にとって、まさに命運を賭けた大作戦だ。なお、工事の現場指揮は我が甥アランに任せる! 喜べ、お前たちのアイドルでもあるアメリアの息子だぞ。リベイラ辺境伯家では『神童アラン』と称えられるほどだ。アランの命令は私の命令だと思い、励んでほしい!」
叔父様の号令一発、三十人の精鋭たちが一斉に僕へ鋭い視線を向けた。
そうだろうな……いきなり7歳の子供の言うことを聞けと言われても……って、おい! なんでお母様の方ばかり見ているんだよ! 僕への鋭い視線じゃないのかよ! 青筋がピクピク立ち上るのを感じながらも……よし。
「今、ルーカス叔父様よりご紹介いただきました、アメリアお母様の息子のアランです。皆様の基礎体力を知りたいので、全員でグラウンドを走ってください。それでは、始め〜!」
突然の指示に戸惑い、なかなか走り出さなかった騎士たちだったが、一人、また一人と走り出す。だがその姿からは、あからさまにやる気が感じられない。やっぱりそうなるよね……フフフッ、それならば僕が……いや、僕の両隣を見ると、ぴったりくっついている2人が頬を膨らませて怒っていた。
「まったく、お兄様に対して……無礼ですわ!」
「なによ、若様にあの態度は……!」
可愛い妹たちがプリプリと怒っている。そこで2人にこっそり耳打ちをすると、ケラケラと笑い出し――。
「さすがはお兄様ですわ。それでは行って参ります!」
「面白そう! 若様、リーナ頑張ります!」
シエラとリーナの5歳児コンビは、騎士団を追いかけて爆走し始めた。そう、2人に「騎士団をブち抜いて恥をかかせておやり」と吹き込んだら、面白がって追いかけたのだ。
普段から魔力を鍛えているリベイラ騎士団でさえ、この2人に勝てる人はごくわずか。魔力操作の訓練すらしていないキロイフ騎士団では……。
「ひぇ〜! なんて速い少女なんだ……!?」
「あんな子供に負けてしまうとは……っ!」
「ハァハァ……幼女のアンヨ、ペロペロ……」
憧れのアメリアお母様の前で、5歳児にコテンパンに負けてしまう騎士団。この凄まじい結果に、ルーカス叔父様も「バカな!?」と愕然としていた。
それよりも、一番最後の奴。ちょっと奥で別件のお話をしようか……?
「あなたたち、この程度でお兄様に無礼を働いたのですか? 恥を知りなさい!」
「若様に謝れ! バカオヤジ!」
いや、リーナ。その言い方は……あっ、ミーナさんの額の青筋がさらにピクピクと動いていらっしゃいます〜!
幼女2人に完敗した騎士団員たちは――。
「「はい! シエラお嬢様! リーナちゃん!」」
えっ、いい歳したオジサマたちが、5歳児2人に最敬礼してるし……。むしろ、憧れの対象をお母様から乗り換えたのか!? 早すぎるだろ……あっ、今度はお母様の額に青筋がピクピクし始めた。何気にチヤホヤされて気分が良かったのか……。乙女心(?)は複雑だね〜。
「アランちゃん。どうやらキロイフ騎士団には、キッ〜ツイ訓練が必要みたいね。お母様が留守にしている間に、大分怠けているようだわ。シエラとリーナに負けるなんて……」
いや、まぁ、そうなんですけどね。あの2人は特別というか何というか……。薄っすらと凄絶な笑みを浮かべるお母様に、僕は何も言えなかった。キロイフ騎士団のメンバー、なんか本当にすまん。
「アラン、改めて頼む……! あの小さなシエラやリーナでさえあの歳であれほど……。うちの騎士団も鍛えてくれ。そうすれば毎年、犠牲者が出る魔物との戦いが少しでも減る……!」
「はい、任せてください。ただ、あの2人は特別ですからね。リベイラ騎士団も同行してますから、彼らと一緒に特訓をしていきましょう。あとは、魔法使いの素質がある人を見つけたいですね」
僕が何気なく呟いた言葉に、ルーカス叔父様が過剰に反応した。
「ま、魔法使い……!? そんな簡単に適性など見つかるもの……なのか?」
僕が両手の手のひらを上に向けると、左右から同時にボッと火の玉を出現させた。ルーカス叔父様は、そのまま腰を抜かすようにヘタリ込んでしまった……。




