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ルーカス・フォン・キロイフ子爵

【キロイフ子爵家当主ルーカス視点】


 妹アメリアと甥っ子たちの突然の来訪に、屋敷中は大騒ぎだ。

 まぁ、アメリアにとっては生家になるわけだから「実家に帰ってきた」という感覚なんだろうけれど、うちの使用人たちにとっては、もう「辺境伯夫人」だからな……。


 そんな感じで慌てて出迎えをしている使用人たちにも構わず、ズカズカと歩いて行く相変わらずな妹だ。その後ろを、キョロキョロと見回しながら歩くアラン。そして、執務室の椅子に腰掛けると、来訪した理由を尋ねた。


「それで、一体どうしたんだい?」


 私がアメリアに向かって話しかけると、なぜかアランから言葉が返ってきた。


「キロイフ子爵領は素晴らしいですね。叔父様はキロイフ子爵領をどう思っていますか?」


 突然の質問に戸惑ったけれど、これだけは自信を持って言えるよ。


「もちろん、私も良い領地だと思っているよ。ただ、周りの環境に恵まれていない。領民には辛い思いをさせてしまっていて、申し訳ない気持ちでいっぱいだがね……」


 私がそう言うと、アランは『ニヤリ』と笑って頷いていた。


「要するに、叔父様は現状をなんとかしたいとお考えですね?」


 ん? もちろんだよ。領民には良い暮らしをしてもらいたいと思っている。その問いに深く頷くと――。


「フフフッ、やっぱり叔父様は良い領主だね。実は、リベイラ辺境伯領からここキロイフ子爵領へ道路を通して、さらに王都方面へ繋げる計画をしているんだよ。叔父様も一枚噛まない?」


 なんと……? 道路か……!

 うちの領地は山間部がほとんどで、その利便性の悪さから発展が見込めないでいた。それがなんとかなるなら……ぜひお願いしたいが……。


「大丈夫だよ。リベイラ辺境伯家から騎士団や魔法使いだけでなく、訓練中の新領民を公共工事として使うから……なんなら、キロイフ騎士団も一緒にやる?」


 なんだ? このアランの『一緒に一杯どうだ?』みたいなノリは……。どことなくオッサン臭がする。

 だが、アランの言うことが本当に実現するなら……キロイフ子爵領は救われる。


「お兄様? そんな不安そうなお顔をなさらないでくださいまし。勝算も無しに、わざわざリベイラ領を留守にしてまでここまでは来ませんわ。リベイラ領とキロイフ領……お互いにとって良い話だから来たのです」


 妹のアメリアが自信満々に言う。あの慎重だった妹が、ここまで言い切るのだ。

 リベイラ領が未曾有の豊作に沸き、我が領に格安で食料を卸してくれていること。リベイラ領での水路工事や魔の森の伐採成功については、コッソリとアレックス殿から聞いてはいた。それにはアランが関わっているということも……。まさか7歳の子供が、とその場では聞き流していたのだが……。


「う〜ん、道路を作ると地盤が問題だね。崖を切り抜いた後の補強は、魔の森の木材を使わないと雨が降った後に大変だぞ……。あとは工事中の護衛としてキロイフ騎士団を鍛えて、魔物に対抗させよう……」


 なんか、ボソボソと考え始めてる子供を見るまでは信じきれなかったのだが……。


「ね? アランちゃんは天才なのよ。必ずキロイフ領にとって良い結果になりますわ」


 アランの独り言を聞きながら、アメリアが誇らしげに息子自慢を始める。しかし……聞いていると、本当に実現できそうだ。それに、アランは私にとっても可愛い甥っ子なのだ。このお先真っ暗だったキロイフ領が、少しでも良い方向に向かうなら……アランに賭けてみよう。


「アラン、頼む。キロイフ領を助けて欲しい。この産業も無く、農業にも適さない盆地の領地だが、私はここを愛しているんだ。そして、私のワガママに付き合ってくれている領民に、少しでも楽をさせてやりたいんだ」


 私は今までの苦労と未来を、この小さな子供に託すことにした。大人でも叶えることの出来なかった大きな夢を……。それでも、このキロイフ領の長として、なんとかしなければならないのだ。

 私の顔を『ジー』と見つめていたアランは――。


「叔父様は凄い人ですね。僕は叔父様を尊敬しますよ。素直に助けを求められる人って、実は少ないのです。ましてや僕は7歳の子供。普通なら頭を下げてお願いなんて出来ませんし、道路を作るなんて話も信じないでしょうね……」


 アランはびっくりした顔をしていたが、私を『キラキラ』とした目で見つめ、真っ直ぐに言った。


「まったく、前世の会社の上司も社内営業ばかり上手くなって、叔父様みたいに周りの人のことを考えてくれたらどんなに良かったか……」


 カイシャ? シャナイエイギョウ? よく分からないけれど、私は甥っ子から絶賛されたようだ。


「あ、ああ。よく分からないが……アラン。まずは何をすれば良い? 当然、キロイフ騎士団もこき使ってくれ」


 うちの騎士団は人数こそ少ないが、ベリエラ山脈から降りてくる魔物を相手に戦うことも多い。

 だからこそ、一人一人の実力は高いと思っている。

 それこそ、リベイラ騎士団と並んでも遜色は無いはずだ。


「ありがとう、叔父様。道路を作るグループと、魔物を狩るグループと、休みのグループの3つを作ってローテーションでやるよ……」


「ん? 休み? 全員でやった方が早く終わるのでは?」


 アランが「休みのグループ」を作ると言ったので疑問を投げかけると……彼は急に顔色を変えた。


「叔父様、それはいけません! 疲れは作業効率を落とすし、ケガの素です。なにより精神的にやる気を無くします! 『会社が上場する』とかで、3ヶ月の間に休みが1日だけというデスマーチで、何人が廃人になったと思ってるんですか……!」


 またよく分からない言葉を使いながら、目に涙を溜めて「ブラック退散! ブラック退散!」と呟いているアランに、私は何も言えなくなってしまった……。

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