道路工事という名のブートキャンプ
キロイフ騎士団に「道路を作るグループ」「魔物を狩るグループ」「休みのグループ」の3つを作ってローテーションで回すことを告げた。
リベイラ領側からはすでに道路を作り始めていたから、領境に向けて工事を進めていく。リベイラ領とキロイフ子爵領間の道路が開通したら、次はキロイフ領から王都方面へと伸ばしていく予定だ。かなりの大工事だけど、僕たちには魔法があるからね……。
魔物を狩る組みは、最初は僕たちに同行してきたリベイラ騎士団が請け負い、キロイフ騎士団は「道路工事班」と「休息班」に分ける。だが初日なので、今回は全員が道路工事班としてやってきていた。そして僕たちは、その道路工事班への指導のために来ているんだけど……魔力操作ができないおじさんたちに、シエラは――。
「もう! 何度同じことを言わせるのですか!?」
騎士団のおじさんたちに、プリプリと怒る我が妹シエラ。
「こうやって、こうなのです!」
脳筋解決策娘リーナは、シャベルを片手に地面をプリンのようにサックリと掘り進めていく。シャベルにはかなりの量の魔力を纏わせているようだ。
「「「はいっ! お嬢!!」」」
……うん。なんか僕の知らない間に、キロイフ騎士団が「お嬢」を筆頭とするガテン系の現場第一な組織に生まれ変わっている気がする。いい歳したマッチョなオジサマたちが、5歳の幼女のシャベルさばきに目を輝かせて最敬礼している光景は、控えめに言ってかなり異様だ。日本なら即通報案件だぞ。『おまわりさ〜ん、変なおじさんたちが〜』って言われるレベルだ。
「いいですか、皆さん。魔力を感じてくださいませ……」
「お、お嬢、すいやせん……! ちょっとまだ分かりませんで……」
ゴリマッチョのおじさんが、情けなく肩を落としながらシエラに謝っている。
「仕方ない方ですね。手を差し出してくださいませ」
「えっ、はっ、はいっ!」
おずおずと汗臭そうな手をシエラに差し出す。シエラはその手を嫌がりもせずぎゅっと握り締め、自身の魔力を優しく流し込んでいく。
「あ、あの〜……お嬢。手が汚れてしまいますよ」
「何をおっしゃるのですか? ちゃんとお仕事を頑張っている素晴らしい手を嫌がるような教育はされていませんわ。それよりも、集中してくださいませ!」
本当に良い子に育ったなぁ。貴族の中には傲慢な態度を取るお嬢様もいるけれど……言われたおじさんを含め、周りの騎士たちの顔つきが一変した。
(((((((お、お嬢ぉぉぉぉぉーーーーーーッッ!!!)))))))
言葉には出さないが、現場にいた全ゴリマッチョたちの心の叫びが、熱い波動となって僕の肌にビリビリと伝わってきた。
よしよし、ならばここで後押しするしかないね。『育てる』発動!
「う、うおおおおおお! 集中します! 魔力を集中させていただきます、お嬢ぉぉっ!」
シエラに手を握られたおじさんが、感極まって涙目を浮かべながら全神経をその手に集中させ始めた。顔中からいろんな汁が流れてるな……。
「アハハ、おじさん。はい、しゃがんでね」
その様子を見ていたリーナが、どこからか取り出したハンカチでおじさんの顔を優しく拭いてあげている。脂臭そうなのに……。
「うおおおお、リーナちゃんからも……っ!」
「「「ずるいぞーーー!!」」」
すごいなリーナ。ミーナからメイド道を叩き込まれているからだろうか……汚い状態に我慢できなかったのかな? でも、ハンカチで拭かれているおじさんは幸せそのもので、今にも昇天しそうな顔をしている。
もちろん、ここでも『育てる』発動! よしよし、順調に育ってくれよ……それにしても、この幼女コンビは天然のオヤジキラーだな。最初は子供だと思って見下した態度をとっていた騎士団が……。
「お嬢、できました! これでどうでしょうか!?」
「俺だって負けない! お嬢、これで……!」
「ずるいぞ、お嬢ぉぉ……!」
「皆さん、いい感じですね。このまま続けてくださいませ」
だから、強面のおじさんたちが幼女を囲むんじゃない……。
「こうです! スコップに魔力をギュンってして、パッパッとするの! そうするとサクサクって……!」
「リーナちゃん、こうかな……? できたぞー!」
えっ、できたの!? ほとんど僕には分からなかったのに……なんだろう、脳筋言語なのかな?
でも、結果オーライ! もうこのままでいいのではないだろうか。
シエラの方を見ると、手を繋いでもらいたいおじさんたちがズラリと列を作っているし、リーナの方を見ると、シャベルに魔力を纏わせて穴掘り競争をし始めている。
もちろん『育てる』の効果が高いのは確かだが、彼女たちの献身的な指導があってこそだ。
初日の作業が終了する頃には、なんと騎士団の全員が魔力操作をマスターしていた。夕日をバックに、幼女コンビへ跪く騎士たち。
騎士団全員が感極まって泣いていた。今日の特訓の成果と、成長の喜びを噛み締めているのだろう……。
でもね……その様子を見ていると、前世の甘酸っぱい青春を思い出してしまう。やはり青春と夕日はセットだよね。全員で夕日に向かって走り出さないかな……。
それと……君たちはキロイフ子爵の騎士団なんだよ。幼女コンビに膝をついて永遠の忠誠を誓っているから、後ろにいるルーカス叔父様の顔がさっきから引きつりっぱなしだよ。
ドンマイ、ルーカス叔父様……。
「よーし、野郎ども! お嬢たちに教えてもらった魔力の使い方を、これからも血ぐに滲む思いで訓練していくぞ! それこそがお嬢たちに対する恩返しというものだーーー!」
キロイフ騎士団長が、夕日に向かって熱く吠えた。騎士たちも負けじと続いて吠える。
「「「ウオオオーーーーーーッ!!!」」」
プププッ、ここで声を出して笑ってもいいかな? 暑苦しすぎて笑いが……と、ふと隣を見ると――。
お母様とミーナも、口をキュッと押さえて必死に笑いを耐えていた。
ヤバい。腹筋が崩壊してしまうよーーー!




