貧民・流民の領民化
「それで、新しく移ってきた元貧民や流民なんだけど……」
実は、セバスチャンに以前集めてもらった移民政策が思った以上にうまくいき、噂が噂を呼んでリベイラ領へ人が押し寄せてきていた。
それも、元々の領民の数を超える勢いなんだ。
当然、すぐに税金を払えるような人たちではないし、放置するとスラム化して手に負えなくなる。
食料に関してだけは『品種改良』のおかげでなんとかなっているのが救いだね。
とはいえ、リベイラ辺境伯家としても無視できない問題になりつつある。
「それでね、この人たちに正式に領民になってもらおうと思うんだ。そして田畑を耕してもらい地税を……商売をしてもらって商業税を……ってね」
「若様、もちろんそれができたらリベイラ領は爆発的に発展しますが……」
「そうよ、アランちゃん。数が多すぎて働き口もなく、リベイラ辺境伯家が食料援助をしてようやく凌げている状態なのよ……」
セバスチャンとお母様が、疲弊した顔をしながら頭を抱える。
「だよね。なら、元々の領民がしている『労役』を彼らに任せて、元々の領民の労役を免除しましょう。リベイラ辺境伯家は彼らへの食料援助を継続することを条件にすれば、契約として成り立つでしょう。そして彼らには魔力訓練を含めた魔の森の伐採と魔物退治をしてもらい、有能な領民になってもらいます。これを2年間続けた人たちに、魔の森の伐採で拓けた農地を与えたらどうでしょうか?」
静寂。お母様もセバスチャンも動かない。お父様は……よし、放っておこう。
執務室の空気が、ピシッと凍りついた。
「彼らへの食料援助はすでにやっていることだから、こちらの追加出費は無い。そして、彼らに与える土地は自分たちで開拓させて、その後の税金を納めてもらう。そうすれば、リベイラ辺境伯家に深く感謝する熱狂的な新領民の完成だね」
しかし、その言葉を聞いたセバスチャンの手から、カラン……とペンが滑り落ちた。
お母様のアメリア様は美貌の顔を驚愕に引きつらせ、幽霊でも見たかのように息子のアランを見つめている。
(な、何ということだ……! 単なる難民の救済ではない。生きるか死ぬかの難民たちには『食料』をすでに与えている。この条件を断る難民などいないだろう。魔の森の伐採と魔物退治という最高峰の『実戦』を仕事と称してやらせて、さらに魔力まで訓練させる。それにより、辺境伯家に絶対の忠誠を誓う精鋭の領民が爆発的に増える……!)
セバスチャンは驚愕した。確かに言われてみれば……。
「若様、どこでそのようなお考えを……」
「フフフッ、セバスチャンよ。僕は楽がしたいんだ。その上でみんなが笑顔なら尚良し。そのためにどうすればいいのかを考えたんだよ。いいかい……ビジネスには『顕在客と潜在客』という言葉があるんだ」
僕は立ち上がり、セバスチャンとお母様に向かって話す。お父様は……寝てるからスルーで。
「顕在客というのは分かりやすく言うと『今すぐにモノを買いたいお客様』で、潜在客は『いずれは何かを買いたいお客様』ってことだよ。要するに、すぐに税金を払ってくれる現領民が『顕在客』で、これから税金を払ってくれる難民が『潜在客』ってところかな……。だから難民対策がうまくいくと、彼らを一気に顕在客へとシフトできるんだよね」
「アランちゃん……あなた……天才だわ……!」
「ええ、奥様……! 新たな出費は無く、未来の有能な領民を手に入れられます。その上で、間違いなくリベイラ辺境伯家にとって絶大なプラスとなります……!」
セバスチャンは落としたペンを拾い、一心不乱に書類を書き始め、アメリアお母様は真剣な顔をして考え込んでいた。
ふふん、それだけではないんだよね。
「魔の森の伐採と同時に、道路整備も行いましょう」
…………2人とも、また固まった。
「道路整備には莫大な金がかかる」というのは、この世界の常識だ。大量の人手とお金と時間をかけてやるものだからね。
「……道路、ですか? 大切なのは分かりますよ。しかし……」
「うん、人手はもう山ほどあるよね。そして、リベイラ辺境伯家には頼りになる『魔法』があるでしょう? 今は騎士団だけでなく領民でも使える人が増えているし……難民たちも鍛えれば使えるようになるよ」
それに、少し気がかりなことがあるんだ。リベイラ辺境伯領に接しているアルハダイル王国側には2つの領地がある。お母様の出身地であるキロイフ子爵領と、平地が多く王都へ行くにも便利なズルガト伯爵領だ。
キロイフ子爵領は山間部になり、細々とした山道が続いている。
だから普通はズルガト伯爵領を通るルートが一般的なんだけど……キロイフ子爵もズルガト伯爵も、リベイラ辺境伯家に属する貴族家だ。ウチは辺境伯だから地位が高く、周りの貴族家を取りまとめているわけだけど……本当にズルガト伯爵は味方なのかな?
アルハダイル王国中央からの援助が極端に少ないのも気になるしね。
「…………という感じで、僕はズルガト伯爵領を通らないルートを用意した方が良いと思うよ。それにはお母様の出身地であるキロイフ子爵領に重きを置いた方が良い。ウチの領の魔法使いなら山道の切り拓きも可能だし、長年仕えてくれているキロイフ子爵にとっても良い話になるよ」
僕はお母様の手を握り、微笑んだ。
「アランちゃん……なんて良い子なの! 私のためでもあるのね。それならお兄様も喜んでくれるはずだわ!」
キロイフ子爵は先の隣国との戦争で先代当主が亡くなり、お母様のお兄さんが現在当主を務めている。僕にとっては叔父さんだね。
「うん、叔父さんなら信用できるしね。お母様から手紙を送ってくれないかな?」
「ウフフッ、ダメよ、アランちゃん。今からお兄様に直接会いに行きますよ! セバス、用意してちょうだい!」
「かしこまりました、奥様!」




