サラダン王国ミランド家
【サラダン王国のミランド家当主グレンダ視点】
アルハダイル王国リベイラ辺境伯家とは領地が隣り合い、小競り合いは日常的に起きている。
「まったく、うっとうしいヤツらだ。先代はこの手で討ち取ったというのに、最近また図に乗っておる……気に入らん」
私はワインの入ったグラスをテーブルに置き、窓の外を見ると……見渡す限りの魔の森が広がっている。
そうなのだ。魔の森があるせいで開拓できる土地は限られている。そう、リベイラ領の土地を我が領地にできれば……。国の上層部にはすでに根回し済みだ。ヤツらは目先の開拓できる土地にしか目がいっておらん。
「私の独自の情報網によると、リベイラ領は何らかの方法で森の伐採に成功したらしい……上層部には『土地』という目隠しを用意してやった。魔の森に眠る無制限の資源こそが我が真の狙いだ。そして、その伐採方法を我がミランド家で独占すれば……グフフ」
もちろん、我が家の繁栄を願ってのことだが……最近になってリベイラ領から入ってくるようになった食料品の数々。野菜を中心とした品々だが、大きさも品質も従来の品とはまるで違う。
この品質で市場に出回ると、恐らくサラダン王国自体の農業や市場の危機になりえる。そして、一番最初に壊滅的な被害を受けるのは、隣接する我がミランド家になるだろう。
そして、私が掴んだ情報では、この改革にはリベイラ辺境伯家の長男が関係しているらしい……。確か、有能な執事が畑を見繕ったとの情報があったな。
フン、リベイラ辺境伯はまだ小さな長男を隠れ蓑にして、その執事に裏で全てをやらせているに違いない……。
「ククク……浅知恵を。幼子を前に立たせれば、ミランド家が油断するとでも思ったか? 実質的にリベイラ辺境伯家を支えて繁栄させているのは、その執事だろうな。その男さえ捕らえて我が家臣に引き入れるか、あるいは技術を吐かせれば、この美味すぎる新種の野菜利権もすべて私のものだ。もちろん、魔の森の利権もな……」
我がミランド家が全てを手に入れ、無様なリベイラが完全崩壊する未来は目前だ。私は勝ち誇った笑みを浮かべ、再びワインを口に含む。
「失礼します、グレンダ様。リベイラ領内へ潜入させていた隠密部隊の長が戻りました」
「おお、待っていたぞ。して、リベイラを裏で操る『黒幕の執事』の動向は掴めたか? 我が軍の進軍ルートに、何か変わった動きはあったか?」
私は不敵に微笑みながら、隠密の報告を待った。
だが、報告に現れた隠密の長は、なぜか幽霊でも見たかのように顔を真っ白に引き攣らせていた。ガタガタと甲冑を鳴らし、今にも泣き出しそうな声で口を開く。
「は、報告いたします……! リベイラ領への侵入に失敗しました……! 平地だったはずの領都周辺には現在、リベイラ辺境伯により巨大な要塞が建造されております。国境から要塞までは脇道などもありません。進軍するにはこの要塞を強行突破するか……魔の森を突っ切るしかありません!」
「……は? 要塞? 何を言っている。こんな短期間で要塞ができるはずが……いや、待てよ。まさか……『リベイラの黒執事』の仕業か……!」
ぐぬぬ、やはりあの執事が……!
「それと……直接リベイラ領内へはこの要塞により侵入できませんでしたが、行商や周辺の村からの聞き込みで、新たに判明したことがあります」
隠密の長からの報告が続く……。
「なんと、リベイラ騎士団が以前よりも過酷な訓練を繰り返し、かなり戦力を鍛え上げていると……!」
確かにリベイラ騎士団は、団長ガイウスを筆頭に我がミランド家とやり合える戦力があった。現当主のアレックスも武芸に秀でている。
「……なるほど。読めたぞ……! リベイラ辺境伯は我がミランドに侵攻するつもりだな。要塞による防御固め、食料品の量や質の確保、騎士団の過酷な訓練……全てが我が家との戦争へ繋がっておる!」
「「「おお、確かに……!」」」
家臣一同が一斉に深く頷く……。そうか、リベイラ辺境伯は魔の森に眠る資源を独り占めし、サラダン王国へ打って出る画策をしておるのか!
「それともう一つ。リベイラ辺境伯はアルハダイル王国中から、貧民や難民を集めているとか……」
「なんと! 決定的ではないか! 魔の森を開拓した後の入植者まであらかじめ集めているとは……! まさか、それほどまでに早く計画が動いているとは思わなかったぞ」
「…………あの……確定情報ではないのですが……これらは全て、リベイラ辺境伯長男の7歳……アランが関与していると……」
「……? バカな。いや、さすがはリベイラ辺境伯だ」
私は鼻で笑った。
「よいか、リベイラ辺境伯家で警戒すべき重要人物は4人だ。武力では当主アレックス、騎士団長ガイウス。内政面では当主夫人アメリア、そして『リベイラの黒執事』だ! 恐らくアランなどという噂は、アメリア夫人か黒執事あたりが流した偽情報だろう。フフフッ、この私は騙されんぞ! よいか、先手を打ってこちらから仕掛ける! 兵の支度をさせい!」
「「「はっ!」」」
◇
【その頃、アランは……】
「よしよし、赤くて丸くて張りの良いトメトだ。塩をかけて丸かじり……う、美味い! 畑で採れたばかりの新鮮な野菜を味わえるなんて……なんて贅沢なんだろう。自宅兼要塞もできたし、領民も増えたし……次は何をしよーかな〜」
前世では『枯れたオジサン』と言われたけれど……フフフッ、この充実したセカンドライフを前世の妻に見せてやりたいよ。
ルンルンとスキップしながら、我が家へと帰っていくアラン君でした。




