自宅を決める
「話し合いの続きだけど、この屋敷も建て替えるよね? 今は領民を優先しているけど、領主の屋敷がこのままというわけには……」
「う〜ん、そうね。かなり古くなっているし……その、防音的な問題も……」
ああ、うん。お母様は声がデカいからね。お父様が力強いのかもしれないけれど……お母様は顔を真っ赤にしている。当のお父様は、あまり分かっていないみたいだけど。
「なら、領主邸を作る場所を決めて、それを基準にして道と道幅を決めないとね」
「そうね。セバスチャン、領主邸の候補地はあるかしら?」
「はい、奥様。こちらの場所なら……」
いや、ダメだな。確かにそこは良い場所だ。だけど、ここにはこれから何度か来ると思われる、リベイラ家よりも高い身分の人が泊まれる迎賓館にするのが良いだろう。
僕なら……ここだな。
「それなんですけど……辺境伯というのは王国の盾であり、矛でもある。確かにそこなら街中で安全で快適かもしれません。でも、僕があえて選択するなら、ここはどうでしょうか?」
みんながビックリした顔をして僕を見た。
そう、僕が指差した場所は魔の森に近いだけでなく、隣国であるサラダン王国が進軍してきたときに必ず通ると思われる、防衛上の最重要クロスポイントだったからだ。
「ア、アラン……お前、よりにもよってここか? 正気か?」
お父様アレックスが、ソファから身を乗り出して図面を凝視する。
その瞳には、国境を守る『リベイラ辺境伯』としての鋭い光が宿っていた。
「うん、正気だよ、お父様。セバスチャンが提案してくれた場所は、領都の中では安全だし快適だと思う。でもさ、リベイラ辺境伯家を信用してこの地に住み着いてくれている領民に対して、辺境伯家として背を向けておくわけにはいかないでしょ?」
「それは……確かにそうだが、だからといって、わざわざ敵の進軍ルートのド真ん中に家を建てる奴があるか!」
お父様の言う通り、普通の戦術なら正論である。本陣は一番奥に構えるものだ。
「違うんだよ、お父様。防衛側が一番有利なのは『敵の動きをコントロールできること』なんだ。あえてあのクロスポイントに、魔の森の木材や魔法を使って好きに地形操作をして、ガチガチに固めた『超頑丈な要塞』を建てる。そうすれば、敵はそこを無視して街には進めない。つまり、我が家そのものが、敵の進軍を絶対に足止めする『最強の盾』になるんだよ。そうすることによって、領民も本当の意味で辺境伯家についてきてくれる」
先に逃げてしまう将に、誰がついてくるだろうか。確かに危険だけれど、だからこそなんだ。それに、敵が来る方向を制御できるように配置して、防衛機能を特化させていけばいい。
それにね、こういう防衛の街、商業の街を分けて、さらに工業や農業などのエリアもそれぞれまとめて、一つの巨大な都市として機能させたいんだ。これが僕の本当の構想だけど……。
「なるほど。確かに領民には今まで辛い思いをさせた。うむ、しかし……」
父アレックスは母アメリアをチラッと見る。すると――。
「……あなた。気遣いは嬉しく思います。しかし、見くびらないでくださいな。これでも辺境伯家の女です。敵を最後まで屠り、喉元に喰らいついて果てる覚悟はできています。私の父がそうだったように……」
そう、アメリアお母様の実家は、すぐ隣の領地の子爵家の出だ。辺境伯家に属する数少ない貴族家でもあったが、先の隣国との戦の時に討ち死にしている。僕のお祖父様もだけど……だから、お母様にとっても隣国はカタキになるのだ。
女の覚悟って本当に怖い。僕は5歳児だから、漏らしちゃっても怒られないよね? ……ダメかぁ〜。
「分かった。家族の意志を尊重しよう。それに魔の森に近いから魔物を間引くのにも都合が良いし、ガイウスのやっている魔の森伐採の特訓もできるしな……」
いやいや、あなた領主でしょ? 特訓は程々にしないとダメだよ。
「ウフフッ」
ほら、あの様子からすると、先ほどの『女の覚悟モード』から戻っていないアメリアお母様が笑っている。
本当に漏らすぞ〜。
セバスチャンの計らいもあり、ひとまず話はまとまった。僕たちの自宅はほぼ砦みたいな感じになりそうだ。
とりあえずは住人の住宅を完成させてから、砦の建築と街の防壁だね。
それと合わせてリベイラ騎士団の特訓と、食料生産が輸出までできるようになったから、セバスチャンに頼んで移住希望者を募ってもらうことにする。やはり人の数は力だからね。やるべきことが多くて困っちゃうな〜。
でも、人を『育てる』スキルで優秀な部下をどんどん増やしていけば、処理スピードも上がるだろうから……キツイのは今だけのはずだ。
とにかくリベイラ騎士団から魔法のスペシャリストを厳選するのと、一般人からも優秀な人材を引き上げたい。
だからこそ、魔力操作や魔力訓練を、今度は領民全員に広めたいな。
そうしたら食料生産がさらに多くなって、妊婦さんが増えて人口爆発が起きるだろうし、今回の移住希望者も含めれば、かなりのリベイラ領としての力が取り戻せるだろうね。
しかも、増える人口に対しても『育てる』を使って使える人材にどんどん変えて、早く僕の仕事を割り振ってしまわないと……。
「若様、今度はこちらの書類を……」
「うん、ちょっと待って。あっ、それはこっちに……うん、そのままでいいよ」
あれ? 僕の前世は「枯れてる」って言われていたただの中年男性だったのに……生まれ変わってから全然、枯れることができないじゃん。少しはまったりとスローライフを楽しみたいのに!
「若様〜、こっちに……」
「わ、分かった。今行くよ」
ハァ、僕はいつになったら枯れることができるのかな?




