住宅建築の一手
ふむふむ、ガイウス騎士団長が魔力操作での魔の森伐採に成功した。これで僕は伐採にかかりきりにならずに済む。
一時的に伐採量は減るだろうけれど、それも騎士団員が戦力になればすぐに巻き返せるだろう。
そうと決まれば、僕は住宅建築に関わることにした。
領内で大工を生業にしている親方衆を集めてもらい、これから建築する住宅について話し合いをしているのだが……。
「だから、それだとダメなんだよ〜!」
「いやいや、それならこっちの方が……!」
「あそこにはこれをしないと〜!」
今はまさにどうやって住宅を建てるのかを話し合っている最中なのだが、一向にまとまらない。
それもそうだろう。この世界には決まった建築基準がない。個人が自由に建築を行ってきたのだ。
大工の親方にもそれぞれのやり方があり、決して譲ろうとしない。まあ、絵に描いたような職人気質の人たちだ。
これも基準があやふやだからいけないのだ。ならば基準を作ればいいだけである。
そこで僕が提案したのが『メートル法』だ。本来、メートルは地球の単位だが、決めた者勝ちでしょ。それに、どうせなら自分が使い慣れた単位の方がいいしね。
そしてメートルが決まると、体積や重さの単位も決まる。リットルやキログラムなど……これらを取り決めてしまえば、揉めることも少なくなるはずだ。
「誰が測っても同じ長さや距離、重さは共通認識を生み出します。これが常識になれば、新人でもベテランでも関係なしに、誰でも測れるし分かるようになるんです。それにより、測量や商売などにも広く利用できるようになりますしね」
僕はそう言って、あらかじめ自分で作っておいた『1メートルの正確な基準木』を机の上にトンと置いた。
さっきまで口角泡を飛ばして喧嘩していた親方たちが、一瞬できょとんとした顔になる。
「わ、若様……。メートルとは? そもそも大工の基準ってなぁ、俺のこの『手のひらの幅』や『肘から指先までの長さ』で測るのが伝統でさぁ」
一番の古株である頑固そうな親方が、髭をむしりながら戸惑った声を上げた。
「分かるよ、親方。あなたの言っていることは正しい。しかし、それだと親方の体調や、新しく入った弟子の体の大きさで全部ズレちゃうでしょ? だから、今日からはこれ。この長さを『1メートル』と呼びます。これを100個に細かく分けたのが『センチメートル』ね。これを魔の森の木材で標準化すれば、そう簡単に壊せないしね」
ここで、僕は前世で学んだ営業テクニックである『イエス・バット話法』を実践した。
人は面と向かって否定されると反発する。だから、最初に「イエス」と肯定してから、「バット(しかし)」こう言うやり方があると提示するんだよ。
こういう細かな配慮は、人間関係にダイレクトに関わるからね。
「試しに、今回の住宅建築はこの数字で統一していくのはどうかな?」
僕が最高の『ビジネススマイル』で首を傾げると、親方衆は顔を見合わせた。
頭ごなしに「お前らのやり方は古い」と言われたら、彼らも職人の意地で反発しただろう。だけど僕はまず彼らの技術を肯定した。その上で、
「弟子の人たちの体格でズレちゃうでしょ?」
と、彼らが普段から薄々感じていた『現場あるある』の痛いところを優しく突いたのだ。
「……ズレる、か。確かに、新入りの小僧が測った柱が、微妙に短くて使い物にならねぇことはよくあるが……」
古株の親方が、腕を組んでうなり声を上げた。
「そうなんです。でも、この『魔の森の木で作ったものさし』を使えば、ベテランの親方が測っても見習いの少年が測っても、一寸の狂いもなく全く同じ長さになる。これ、魔力が操作できないと絶対に壊れないし縮まないから、リベイラ領の『絶対の基準』になるんだよ。これで図面を引けば、誰しもが別々の場所で作ったパーツを持ち寄っても、不思議とカチッと組み上がる。試してみたくない?」
「……違う場所で作った物が、噛み合う……?」
親方たちの目が、職人としての旺盛な好奇心でギラリと光った。
そんな魔法のような建築、大工を何十年やっていても聞いたことがない。さらに職人魂に火をつけてあげるよ。プライドを刺激してあげないとね。
「うん、そうだよ。リベイラ領の職人さんは、誰が作っても同じ規格で作れる最強の職人軍団に今日からなれるんだから……楽しみじゃないかな?」
「「「ウオオオーーー!!」」」
ウムウム、この手応えはいいね。だけど、メートル法を採用したのはこれだけが理由ではないんだよ。
「みんな、次々と木材を持ってきてよ……ハァ」
そうなんだよ。木材の加工は今のところ僕にしかできないんだよ……。つまりは僕が作業をしないと、住宅建築が遅れてしまう。
だからこそ、規格統一をして作業効率を限界まで上げていくんだ。
まあ、理由はそれだけではないんだけどね。
住宅建築にもお金がかかるんだ。働く限りは賃金が発生する。食料生産での輸出ができるようになってるとはいえ……予算は無限ではない。そこで住宅建築にかかるコストを下げるため、住宅自体の間取りを統一し、パッケージ商品化してコスト削減を徹底したんだ。
早めに住宅建築自体を職人に丸投げして、特産品などのお金儲けに走りたい所だね。
恐らくは、今頃お父様も数字を見て顔を青くし、賢者モードから『大賢者モード』へ移行しているだろうから……。




