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不死身探偵フェニックス  作者: 猫月猫日猫曜日


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透明人間刑事 数寄屋橋透5

〜警視庁特捜部

無人の机でマグカップだけが宙に浮く

突然、斜めになったマグカップから茶色のコーヒーが、小さな滝の様に流れ落ちる

しかし、床を濡らす事は無く、空中で消えてしまう


田中

「数寄屋橋先輩はコーヒー好きですね」

数寄屋橋

「ホッとする時間の移ろいを楽しんでいるのさ」


〜入電

護送中の凶悪犯が仲間の待伏せ襲撃により逃走中!場所は熊の巣山!熊被害多発地域の為に特捜部に応援依頼!


佐藤係長が小さく呟く

「熊の巣山か…遠いいな…」

田中

「熊が多いなら、ハンターでしょう」


佐藤係長

「熊の巣山は名前の通り凶暴な熊が多すぎて、ハンターも近寄らないんだよ」

田中

「特捜部だって、熊退治した事無いじゃないですか」


佐藤係長

「そこで秘密兵器登場という訳さ」

数寄屋橋

「ゴホッ」


佐藤係長

「しかしな…犯人と仲間を捕まえて、熊に襲われない様にして、麓のパトカー迄連れて来るのは至難の業だ…応援を頼んでみるか」

田中

「応援の応援ですか」


〜熊の巣山

田中

「アレッ隣の女性はどなたですか?」

佐藤係長

「女優の品川ナイスさんだ」


田中

「聞かない女優さんですね」

佐藤係長

「コラッ、失礼だぞ!ナイスさんはミツバチドローンのスペシャリストなんだぞ!」


数寄屋橋

「そうなんですか!お世話になっています!人混みを歩く時、助かってます」

ナイス

「まぁ、噂には聞いていたけど本当に透明なんですね」

数寄屋橋

「大した事ないです」


佐藤係長

「早速作戦会議なんだが、知っての通り、この山は熊が多すぎる!そこでナイスさんのミツバチドローンの針に猛獣用の麻酔薬を漬けて貰って、近づいて来る熊を眠らせて貰う!透は犯人と仲間を説得して麓まで誘導してくれ!麓で俺と田中と地元警察で捕まえる!念の為に猟友会にも頼んである」


〜捜索開始

数寄屋橋

「アレッ、皆さん山に登らないんですか?」

一同

「犯人確保の為に麓で警戒線を敷く」


数寄屋橋

「ナイスさんも登らないんですか?」


ナイス

「あたしは車の中でミツバチドローンを操作するわ!既に70匹のミツバチが捜索を始めている!残り30匹は数寄屋橋さんの護衛に付けておく」


佐藤係長

「熊の視力は人間と同じ位だが、臭覚は犬の7倍で5〜30km先まで嗅ぎ分けるんだ!充分気をつけてくれ」


結局、数寄屋橋透は1人で山に登る事になった


透は思案する

逃亡犯に麻酔針を刺すと動けなくなり、熊に襲われるから麻酔は使えない!逃亡犯も熊から守る必要がある


〜発見された逃亡犯

数分後、ナイスの車内にはタイムリーな報告が続々と入ってきた


犯人グループ、西ルートを登山中!

熊牙峠に向かう様子


佐藤係長が地図を叩き、無線を使って数寄屋橋に指示する

「犯人たちが熊の縄張り境界線を越え始めてる!即時誘導を!」


〜山中対峙

透が大木の陰から犯人グループ三人を観察する

彼らはピストルを持ち歩いている


犯人A(リーダー)

「熊の匂いが強くなってきた…ここは危険だ、別ルートを探せ」


犯人B

「しかし、兄貴この先は断崖だ!落ちたら終わりです」


透が岩陰から飛び出した

「そちらに行くと死んでしまうよ」


犯人たちが一斉に銃口を向ける

だが、そこに誰もいない


犯人C

「幻聴か……?それとも……」


透(静かな声で)

「警察です 武器を捨てて投降すれば、あなたたちの命は守ります」


犯人一同

「何処にいるんだ!」


透は透明人間である事がバレない様に演出する

「ドローンの無線を使って話している 小型カメラで映像も確認出来ている さて、何も知らずに熊の巣山に入った様だが、この山には凶暴な熊が数百頭いる!熊達のランチになるのは時間の問題だ!手持ちのピストルでは脂肪の厚い熊相手では、擦り傷程度にしかならない 投降してくれれば麻酔銃の部隊が来ているから、熊から守ってくれる それに地方の刑務所では熊肉料理が出るそうだ!

さぁ、熊のランチになるか、熊肉料理を食べるか、早く決めないと、直に熊達が集まってくるぞ」


〜激闘熊牙峠

突然、地面が波打つように震えた

五頭の熊が扇形に包囲を開始する


犯人達は狂った様にピストルを乱射するが、皮下脂肪が分厚く頭蓋骨が硬い熊達は、一瞬立ち止まるだけで、激昂して襲いかかって来る

(恐らく、パチンコ玉を当てられた位の感覚だろう)


その時、透の護衛ドローンが熊の空いた口を目掛けて、神風アタックを開始した(毛皮を狙うと垂直に針を刺さないと失敗する 特に動いていると難しい)

五頭の熊はキョトンとして動きを止めて、やがて蹲り眠りについた


透

「さあ、どうするんだ!また来るぞ!早く決めろ」


犯人B

「兄貴、俺…熊肉食べた事ない」

犯人C

「兄貴、熊肉は美味いんだろうね」

犯人A

「助けに来てくれた御前らが言うんじゃ仕方ねぇなぁ…お巡りさん、レストランは何処だい?」


透

「麓まで迎えが来ているさ!急げ」


麓へと続く道を降り始めると、地鳴りが聞こえた

上の方から、十頭程の熊の群が車が走る様に迫って来る


(まるで、徳川家康が三方ヶ原の合戦で武田信玄に敗走した時の心境だ)


しかし、今日の透は一人では無い

黄色と黒の翅音が金属的な調べを奏でながら、恐れを知らないミツバチドローンが、一頭づつ空いた口に神風アタックをしかける


やがて、熊の群れは深い眠りにつく


透

(凄いな!ミツバチドローンは…だが不発もあったので、あと五匹しか残ってない…)


ナイスより無線連絡

「付近の捜索用ミツバチを急行させている!あと五分頑張って!」


峠の坂道を下る一行

10m程下の岩陰から低い唸り声

(待伏せか!なんて奴らだ)


四人が立ち止まると、下の方に無数の熊の群れが湧き出した

透の護衛ドローン五匹が手前の熊の口に神風アタックを敢行する

確実に五頭を眠らせたものの護衛ドローンが居なくなった


〜迫り来る熊の群れ

何と上からも熊の群れが迫り来る

下方の熊達も距離を縮めて迫り来る

(挟み撃ちだ)


その時だった

捜索用のミツバチ達の到着が始まった

次々と神風アタックを敢行するミツバチドローン

半分程眠らせた頃、山の上から巨大なボス熊が現れた


グォォォォー


ボス熊の咆哮に残った熊達は一斉に口を閉じた

(なんて奴だ!)


ミツバチドローンは攻撃目標を口から首に変更した

毛皮の上からの針注射は、垂直に攻撃しなければ成功しない

成功率は50%位か…


ミツバチは減ってゆき、山中の熊が集まってくるが、捜索用ドローンが続々と到着して膠着状態だ


周囲を見渡す透が崖に目を向けると、下の方に川が見えた

木の枝に掴まりながらなら、降りられそうだ


透

「崖を降りよう!下は川だ」

犯人達

「大丈夫なのか?」


その時、一頭の熊が迫って来た


一同

「たぶん、降りた方がいい!!!」


斜面は思っていたよりもずっと急で、真上から見下ろすと、ほとんど壁のようだった

根をむき出しにした木々が、土の中からあばれ出た蛇のように伸びている


右手を伸ばし、目の高さにある細い枝をつかむ

指にざらりと樹皮の感触が食い込み、ささくれだった部分が皮膚をこそぐ

体重を預けると、枝がきしりと鳴って、崖の静けさの中に不安な音がひとつだけ跳ね返った


足先で探るように土を蹴り、わずかな出っ張りに靴底を掛ける

乾いた土がぱらぱらと崩れ、斜面を転がり落ちていく音が、やけに大きく耳に残る


身体を斜面に沿わせ、腹と胸で土の冷たさを受け止めながら、空いた左手で次の枝を探る

指先が空を切るたびに、足場が急に頼りなく思えて、喉の奥がきゅっと細くなる


やっとのことでつかんだ枝は、先ほどよりも太く、湿り気を含んで重たかった

ぎゅっと握りしめると、樹皮が少しはがれ、指の間から青臭い匂いが立ちのぼる

息を吐くたびに、木の匂いと自分の荒い呼吸がまじり合い、狭い世界が肺の中まで続いているような気がした


崖を半分程降ると、もう枝は無い

しかし、はみ出した根が畝っている

足元の根を掴むと、枝より丈夫なのが判る

足場をひとつ下げる

体がわずかに宙に浮き、次の突起を探し当てるまでの一瞬、心臓だけが崖の外へ投げ出されたようになる

静寂の中、足元のはるか下で、砕けた土の欠片と落ち葉が、まるでドラムを叩いている様な演奏を始める


----


這這の体で崖を降りた四人は麓に近い川まで辿り着いた

(浅い川だ!歩いて渡れる)


対岸では佐藤係長や山田が待機している


四人が川を渡り始めると、突如として熊の群れが悪鬼の如く迫り来て川に近づく


四人が川を渡り切った所で、佐藤係長が叫ぶ

「伏せろ!」

四人は反射的に、その場に伏せた


「ババババーン」


猟銃の一斉射撃が始まった

猟友会の攻撃では、流石に堪らず熊達は山へと帰っていった


----


〜パトカーで移送される犯人達

透

「これで分かったろう!警察は犯罪者の生命さえも守るんだ!これからは悪い事は止めておくれ」


車中に無事に逃げ込めた犯人達は安堵の瞬間、ふっと世界が遠のくように感じる

シートに背中を預けた瞬間、膝から力が抜けた

ドアを閉める乾いた音が、外の世界との境界線になる

フロントガラス越しの景色はまだ同じなのに、車内は静かで暖かい

息を吐く

胸の奥に固まっていたものが、ようやく解けていく

エンジンは、まだかけていないのに、ここはもう「避難所」のようだった

さっきまで追い立ててきた声も、視線も、ここまで届かない

窓ガラスに跳ねる風の音だけが、遠くで鳴っている

指先がまだ少し震えながらも、シートベルトの金具に触れた時、ようやく「もう大丈夫だ」と思えた

「護送車から逃げた先がパトカーとはな…世の中は摩訶不思議」


透

「無傷で確保できました」


佐藤係長

「誰も見てない正義ほど、輝くものはない な、透?」


透が一瞬だけ微笑んだ気配がした

誰にも気づかれず、彼は人々を守っていくことだろう


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