第57話 変わったエリド
『い、今、なんて……?』
仲間を失い、ハイル様に助けていただいてから数週間後。
私達はロリスタンスに戻ってきていて、日常を過ごしていた。
そんな時、エリドが話しかけてきた。
『俺、冒険者辞めるから。王位も俺が継ぐから、姉さんは好きな事をしてくれ』
エリドからそう告げられた。
一人称も変わり、私の呼び方も変わってしまった。
そして、王位は自分が継ぐから私は自由に生きろと言ってきた。
それら全てが、この間の一件のせいであるとすぐに理解できた。
元々、私が王位を継ぐ事に抵抗感を覚えていたのをエリドは知っていた。
これは、エリドなりの優しさなのだろう。
そして、王位を継ぐ事になれば、今までのように冒険者は続けられない。
命を落とす危険性もなくなる。
仲間の死を目の当たりにする事もなくなる。
『分か、った。うん。私も王位を継ぐのは嫌だったんだ。負担をかけるが、エリドに任せてもいいか?』
『うん』
『うん。じゃあ、頼むな。や〜これで自由に生きられる〜! 私は好きな事をさせてもらうからな。後で恨んでも知らないぞ〜?』
『別に恨んだりしないよ。姉さんは好きなように生きて』
『あぁ。そうさせてもらう』
この日から、エリドは一切笑わなくなり、書庫に籠るようになった。
王位を継ぐ為には、沢山の勉強が必要だった。
勉強が苦手だったはずのエリドが、ここまで勉強に集中できているのはきっと、嫌な事を忘れられるからなのだろう。
滅多に書庫から出てこず、人とも接さない。
食事も最低限取るだけだった。
しかし、私達はほとんど心配はしていなかった。
なぜか。それは、書庫に籠るエリドの元に毎日、飽きずに通い続ける女性がいたから。
『エリド様! 本日のご昼食をお持ちしましたの!』
ヒメリだった。
ヒメリはお母様がどこからか連れてきた女性だった。
貴族や王族の所作や礼儀など、最初は全く知らない子で、最初は私達の事を敵対視していた。
しかし、エリドと出会ってからは変わろうとし始めた。
エリドに一目惚れしたらしく、お母様に婚約者になりたいと直談判した時は流石に驚いた。
エリドは婚約などには興味がなかったので、お母様はエリドには伝えずにヒメリに花嫁修業を積ませた。
ヒメリは、冒険者として活動するエリドが大好きだった。
しかし、帰国してからと言うもの、エリドは冒険者として活動する事はなく、それどころか冒険者を辞めてしまった。
そして、書庫に籠るようになった。
しかし、それでもヒメリのエリドへ対する気持ち、愛は一切変わらず、毎日食事を届け、話をしに行ったりなど、献身的にエリドに寄り添ってくれていた。
ものすごく邪険に扱われていたようだが、ヒメリは全くめげずに、毎日毎日エリドの元へと通い続けた。
ヒメリの根気に負けたのか、エリドは少しずつ外に出るようになった。
笑顔こそあまりないが、ヒメリといる時はどこか楽しそうだった。
仲間の死を目の当たりにし、絶望を経験したエリド。
姉としてどうしていいのか分からず、ただエリドのしたいようにさせてやる事しかできなかった私。
そんな情けない姉とは違い、ヒメリはエリドが好きだからと言う理由だけでエリドに向き合い、邪険にされてもめげず、ずっと寄り添い続けた。
そして、エリドはほんの少し、絶望から立ち上がる事ができた。
『ヒメリには、感謝しかないな』
私には、自慢の義妹ができた。
そのうち、エリドと共にこの国を引っ張る存在になるのだろう。
『ヒメリ! そこ計算間違ってる! あと、この書類、記入する内容が全く違う! って、この書類はゴミじゃない!!!』
書庫から聞こえてくるエリドの怒鳴り声。
『ごめんなさいぃぃ!? 次からは──わっ!? あああああ!? 書類に紅茶がぁぁぁ!?』
『ヒメリぃぃぃぃぃ!!!!!!』
うん。私の義妹は自慢だ。
別の意味でな。




