第58話 手を取り合う2つの国
エリィがドゥーザと共に国に帰ってきてから数日後。
ロリスタンス王国にシリシアが訪れていた。
「ご足労いただき、感謝します」
「いえ。こちらこそ、ご多忙の中、お話をお受けいただき、感謝いたしますわ」
トリタンがシリシアを出迎え、シリシアと共に会議室へと向かう。
「え、エリィ様のご様子は……?」
「元通り……とは言えませんが、前を向こうと、前に進もうとされています。エリド様やヒメリ様の支えが大きな力となっているようです」
「そう、ですか……」
「ふふ。シリシア様は本当にお優しいですね」
「ふぇ!? い、いえ! そんな事は! ただ、もし、自分が最愛の人を亡くしたらと考えると、立ち直れるかどうか……」
「ハイル様、ですね」
「えぇ……っえ!? な、なななななななぜ!?」
「バレてないとでも? 変装してまで冒険者をしているんです。ハイル様にお熱なのは明らかでしょう」
「うぅ〜……///」
シリシアは顔を真っ赤にしながら、トリタンの後ろをついていく。
トリタンは、表情をコロコロと変えるシリシアを、可愛いなと思っていた。
会議室の前に到着したトリタンは、ノックをした後、中に声をかける。
「シリシア様がご到着いたしました」
『入ってちょうだい』
「どうぞ」
トリタンがドアを開け、シリシアに入室を促す。
シリシアが中に入ると、長机の最奥に国王であるエリアが座っており、その左側にエリィが、右側にエリドが座っている。
エリドの隣にはヒメリが座っている。
ドアを閉めたトリタンが、エリアの左斜め後ろに立つ。
「どうぞ、座って」
「失礼いたします」
エリアに促され、シリシアは、エリアと対面するように椅子に座る。
「今日は来てもらっちゃってごめんなさいね」
「いえ。こちらこそ、お話をさせていただきたいと言う要望を聞き入れていただき、誠にありがとうございます」
「いいのよ。今回の事は、両国にとって重大な事だから。しっかりと話し合わないとね」
「国王であるデリアも本来であれば出席しなければならないのですが、何かと多忙の為……」
「いいのいいの! 国王が忙しいのなんて身を持って知ってるから! それに、デリアがいても話が脱線して進まなくなるだけだから〜」
「あなたがそれをいいますか」
「あんか言った?」
「いえ」
エリアが「がはは」と豪快に笑いながらそう言うと、後方に控えているトリタンが小さく呟く。
その呟きにエリアは鋭く視線を向けて尋ねるが、トリタンが誤魔化してしまう。
まぁ、実際はエリアもトリタンが何を言ったのかは分かっているのだが、あえて聞こえてないふりをしていた。
「それじゃあ、早速会議を始めましょうか。議題は」
「ダンジョン内で何が起きていたか、ですね」
そうして、ダンジョン内で何が起き、誰がドゥーザを殺したのかと言う会議が始まった。
☆ ♡ ☆
「なるほどね……ダンジョンに入った瞬間に転移技能陣が発動して、気がついたら別の階層にいてモンスターの大群が襲ってきたと……」
「はい。おそらく、調査に入った者達が帰ってこなかったのは、モンスター達に襲われたからでしょう」
エリィから様々な報告を受け、エリアとシリシアは顔を険しくしていた。
ダンジョンに入った瞬間に転移し、その先で大群のモンスターに襲われる。
それが本当であれば、それはダンジョンの力によるものではなく、誰かが作為的に仕込んだもの、と言う事になる。
「一体、誰が……」
エリアが小さく呟くと、エリドが手を上げる。
エリアが頷き、エリドの発言を許可する。
「これは推測でしかないのですが、前にユズィ団長が仰っていた、子供のような敵の仕業なのではないでしょうか。その敵は何かしらの実験を行なっていると団長は仰っていたので、今回のも」
「実験の可能性がある……一理あるわね」
「それに姉さんから聞いた女の事も気になります」
「女?」
エリドの言葉に、シリシアが首を傾げる。
「エリィ、辛いとは思うけど、話してもらっていい?」
「もちろんです。私とドゥーザ、ミルル殿、リアン殿、ミュリン殿を襲ってきたのは、銀青髪の女だった」
「っ!?」
エリィから聞いた髪色に、シリシアは驚きを隠せない。
なぜなら、髪色に青色と銀色があるのは自分ともう一人くらいしかいなかったから。
それに、そのもう一人は今、行方不明のはず。
「その女は自分の事をこう言っておりました。未来視・エリドリアス、と」
「っ……!?」
シリシアは、名前を聞いて更に驚きを隠せなかった。
「そ、そのえ、エリドリアスと言う女が、ど、ドゥーザ様を……?」
「……………あぁ。私に放った攻撃を、ドゥーザが庇って、な」
「っ!?」
シリシアはついに涙を流してしまう。
突然のシリシアの涙に、その場にいた全員が立ち上がる。
「し、シリシア様!? ど、どうされたのですか!?」
ヒメリが駆け寄り、声をかける。
シリシアは立ち上がり──、
「誠に、申し訳ございません……!」
と、謝罪した。
何に対しての謝罪なのか。そもそも、シリシアが謝罪する事など何一つもないため、全員が首を傾げていた。
しかし、次にシリシアが口にした言葉により、シリシアの謝罪は意味あるものになってしまった。
「エリィ様達を襲った、え、エリドリアスは……ショタリシアス王国の第一王女。つまり、私の姉なんです……!」
『っ!?』
その場にいた全員が息を呑む。
「ずっと、行方不明になっていたんですが、まさか、敵に加担し、果ては人を殺してしまうなど……親族として、お恥ずかしい限りでございます……! そして、何よりも、我が姉がエリィ様の大事な方を手にかけてしまい、本当に……本当に申し訳ございません……!」
シリシアは、涙を流しながら頭を下げ謝り続ける。
両手はスカートを握りしめていて、スカートはシワになっている。
怒り、悲しみ、呆れ、様々な感情がシリシアを支配しており、シリシアの体は自覚なく小刻みに震えている。
そんなシリシアに、エリィが近づく。
「シリシア様」
「っ……」
エリィの声が隣で聞こえる。
今から自分は殴られ、叱責されるだろう。
シリシアはそれを覚悟の上、頭を一旦上げ、エリィに向き合う。
そして、再び頭を下げようとした瞬間──、
「えっ……」
エリィがシリシアを抱きしめた。
「え、エリィ様……?」
「それ以上、謝らないでください」
「で、でも……」
「あなたは何も悪くない。あなたには何も非はない。悪いのは全て、敵の組織だ」
「で、でも……姉がドゥーザ様の命を奪ったのは紛れもない……」
「あぁ。事実だ。それは変えられない。私は何があってもエリドリアスを許せないだろう。だが、だからと言って妹であるシリシア様が謝る必要はない。国王様達も同様に。それに、エリドリアスももしかしたら敵に操られているだけの可能性だってある。何が真実か、何もはっきりしていないんだ。だから、シリシア様は謝らなくていい」
「え、エリィ様……」
「シリシア様」
「はい……」
エリィがシリシアの肩を掴み、真っ直ぐにシリシアの目を見つめる。
「これから、シリシア様にとっては辛い事が多く訪れる事になります。実の姉を敵に回さなきゃいけない。敵対しなければいけない。ですが、これだけは忘れないでください」
「………?」
「私は、何があってもシリシア様と共にいます」
「っ!」
エリィの言葉に、エリド、ヒメリ、エリア、トリタンが頷く。
それを見たシリシアは、再び涙を流しながら──、
「ありがとう……! ありがとうございます……!!!」
と、感謝を伝えた。
エリィは、シリシアが落ち着くまで優しく抱きしめ続けた。
☆ ♡ ☆
「ぐす……すみません……」
「いいえ、全然。落ち着いた?」
「はい。もう大丈夫です」
「うん。では、会議を続けましょう」
会議が再開する。
その会議内容はこうだ。
モンスターの群れがダンジョン内にいる事。
敵は、謎の少女だけでなくエリドリアスもいる事。そして、それ以外にも存在するかもしれない事。
それらを踏まえ、エリアは国がそれぞれ対策するのでは間に合わないだろうと考えた。
よって──、
「ロリスタンス王国、ショタリシアス王国の両国で、同盟を結びます」
元々、国王同士の付き合いがある為、国の行き来などが盛んだった両国。
しかし、仲がいいだけであって、これまでは協力関係をしっかりと結んではいなかった。
困ったことがあったならば助け助けられる。
そんな関係だったが、今回ばかりはしっかりと協力関係を結ばなければどうにもならない。
よって、表立って同盟を結ぶ事にし、両国の行き来をより簡単にし、何かあった場合にはすぐに駆けつけられるようにすることに。
「我が国の国王、デリアも同意見です。ここに来る前、王から『エリアなら同盟を結ぼうと言うはずだ。そう言われたら、即決してくれ』と」
「全く。相変わらず人の思考を勝手に読むんだから。まぁでも、それなら話は早いわね。本日より両国は同盟を結び、行き来も転移技能陣によるものにする。代わりに、馬車などでの入国は制限する事にするわ」
『はい!』
「商人達の調査や、チェックもより厳しくしてちょうだい。敵がいつ、どこで、何をしてくるのか分からないからね。対策はできる限りして」
『はい!』
「それと、ショタリシアスでのダンジョン調査だけれど」
「はい。今は誰も入れないようにしております」
「うん。それが正しい判断だわ。でも、このままずっと調査ができないのは困るわね」
「そうですね……」
「そこで考えたのだけれど、クロハちゃん達に任せられないかな?」
「え? クロハさん、達にですか……?」
「えぇ。あの子達なら強いし、何も心配いらないと思うの。まぁ、モンスターの大群が少し心配の種ではあるのだけれど……どうかしら?」
「そう、ですね……」
(確かに、クロハさん達なら強いし何も心配はないと思う。けど、万が一と言うことも……ユズィさんやドゥーザ様も容易く相手にできるほどの敵が現れないとも限らない……そんな場所に向かわせるのは……)
「ひ、一つだけ条件が」
「何かしら?」
「しょ、ショタリシアスで私が行なっている仕事を誰かに任せてもよろしいでしょうか?」
「あなたの仕事を? それは構わないけど……って、それはデリアに聞くことなんじゃ?」
「お父様に聞いても、あまりいい返事はもらえないので……」
「あ〜まぁ、そうね」
エリアはデリアのことを思い浮かべ、苦笑いを浮かべる。
「分かったわ。私からデリアには伝えておく。あなたの仕事を誰かに引き継がせなさいって」
「ありがとうございます」
「でしたら! 私がやりますの!」
「ひ、ヒメリ様……?」
「いいの? ヒメリはこの国の雑務もあるのに」
「大丈夫ですの! 雑務はもう完璧にこなせますの! 少しばかり仕事量が増えた所で大した問題にはなりませんの! それに、私もなにか力になりたい、ですの……」
「ヒメリ……」
ヒメリの暗い表情に、エリドが心配そうな表情を浮かべる。
それを見たエリアが──、
「分かったわ。だったらヒメリ、頼んでいい?」
「も、もちろんですの!」
「じゃあトリタン、ショタリシアス王国のシリシアちゃんの部屋とヒメリの部屋を繋いでくれる?」
「畏まりました」
「それと、あなたも手伝ってあげて」
「はい」
トリタンは、エリアからの指示を聞いたあと、部屋を出ていった。
「この後、早速転移技能陣を設置します。シリシアちゃん、手伝ってもらっていい?」
「もちろんです! 条件を飲んでいただいて、ありがとうございます!」
「いいのよ。他に何かある?」
「私は特には」
と、エリィ。
「俺も特には」
と、エリド。
「私もありませんの」
と、ヒメリ。
「私も」
と、シリシア。
「うん。では、会議はこれにて終了とします。各自、自分の仕事を全うするように!」
『はい!』
そうして、会議は終了し、それぞれがそれぞれの役割を全うする為に部屋を後にした。
部屋の中に残ったのはシリシアとエリア。
「それじゃあ、行きましょう」
「はい」
転移技能陣を設置する為に移動を開始する二人。
そんな時、エリアがシリシアに向かって──、
「冒険者としてクロハちゃん達をサポートするのはいいけど、あまり無理はし過ぎないようにね? あなたが怪我をしたらデリアが悲しむわ」
「は、はい。気をつけます。…………………ん? えぇぇええ!? え、エリア様、なんで私が冒険者をしてると!?」
「そんなの、見てれば分かるじゃない。前にセシリアとしてここに来た時、すぐに分かったわ。シリシアちゃんだって。多分、トリタンも気づいてるでしょう」
「は、はい……」
「ふふ。別に、これ以上とやかく言ったりはしないわ。あなたのやりたい事なんだから。でも、一つだけ約束して」
「約束?」
「うん。決して、無茶はしないで」
「っ! はい!」
「うん。じゃあ行きましょう」
「はい!」
この後、エリアとシリシアは城付近に五つの転移技能陣を設置。
この後、シリシアはショタリシアス王国に戻り、【ベイビルツー城】の周りに設置したのと同じように【ベイビルワン城】の周りに転移技能陣を設置する。
それにより、シリシア達は何かあったらすぐにロリスタンス王国へ向かえる事になった。
ショタリシアス王国へ戻ったシリシアは、自分の仕事をトリタンを通じてヒメリに託した。
部屋とヒメリの部屋が繋がっているので、シリシアがやらなければならない仕事をすぐにヒメリが手に取る事ができる。
トリタンがデリアに事情を説明し、デリアは渋々納得した。
それにより、リュークやメイド達も仕事を振る時にはヒメリに振る事になった。
トリタンはロリスタンスに戻る際──、
「エリアからも言われたかと思うけど、無茶だけはしないで。あなたがいなくなったら悲しむ人が大勢いることを、絶対に忘れないで」
と、言われた。
部屋に一人だけになったシリシア。
銀と水色を基調とした騎士服に着替え、髪をピンク色のボブカットへと変える。
エリアとトリタンの言葉を胸に、シリシア……いや、セシリアは──、
「行ってきます。お父様」
部屋のドアに向かって小さくそう告げる。
そして、窓から飛び降り、セシリアは冒険者としての役割を果たしに向かった。
「行ってこい、シリシア」
ドアの向こうに立っていたデリア。
デリアは、目元に涙を浮かべながらも、優しく小さく呟いた。




