第56話 ハイルとの出会い
『エリド! エリド! しっかりしてくれ! ここから出るぞ!』
私は必死にエリドに声をかけ続けた。
しかし、エリドは放心状態になってしまっているようで、私の声は一切届いていなかった。
『くっ……どうすれば……』
どうすればいいのか分からず焦る私に、先程の見えない敵が迫ってきた。
『えっ!?』
右足首に何かが纏わりついてきた。
『な、何が……キャア!?』
その見えない敵は、私の足を引っ張り始める。
ものすごく強い力で、私はあっという間に横転してしまい、地面を引きずられる。
『こんな所で死ぬ訳には……!』
エリドを一人残す事など、できない……!
ここで私まで死んでしまっては、エリドは二度と立ち上がれない……!
そう思い、もがく私だったが、見えない敵の力は凄まじく脱する事ができない。
諦めるしかないのかと思ったその瞬間、天井から誰かが落ちてきた。
いや、降りてきた。
『ハァッ!』
『っ!』
降りてきた男性は、見えない敵を一瞬にして剣で切り裂く。
そして──、
『神聖魔法・エリアピュリフィケーション』
男性がそう言いながら左手を前に突き出すと、優しい風が室内を一周し、爽やかな雰囲気に変えた。
『大丈夫かい? 怪我は?』
『わ、私は大丈夫です……でも、弟が……』
私がそう言うと、男性はエリドに近づき、背中に手を翳し──、
『神聖魔法・ヒーリング』
そう言った直後、エリドの背中の怪我はみるみる内に回復していった。
『あ、あなたは一体……』
『俺はハイル。しがない冒険者さ。さ、これを使ってここを出るんだ。まだ敵がいるかもしれないからね』
『は、はい……ありがとう、ございます……』
私は男性──ハイル様から転移石を渡される。
『君達が生きていてよかった。それじゃあ』
『あっ……!』
ハイル様は高く跳躍し、天井に飛び立った。
『落ちて来ない……どこかに行ってしまった……?』
天井には何もないはずなのに、ハイル様は飛んだっきり、落ちてはこない。
と言う事はつまり、ハイル様は天井に飛び立った後、どこかに行ったと言う事。
私は、そんな事ができるのか、あの人は何者なのか。そんな事を考えていたが、すぐにここから脱出しなければと思い、急いでエリドの元に向かう。
『エリド! ここから脱出するぞ!』
声をかけてもエリドからは返事はない。
私はエリドの手を自身の肩に回して立ち上がらせ、転移石を使ってダンジョンから脱出した。
★ ♥ ★
ダンジョンから脱出した後、私はエリドを抱えたままギルドへ向かい、事情を説明。
ギルドは国に相談し、対策を進めてくれる事になった。
私とエリドは、宿に戻り、ゆっくりと休息を取る事に。
隣のベッドで眠るエリド。
『私がいたのに、何もしてやれなかった……』
姉として何もできなかった私。
ただ、眠るエリドを見つめ、エリドが変わらない事を願う事しかできなかった。
そして、この時の私は、もう一つ考えていた事があった。
『あの人……ハイルさん。一体、何者なんだろう……』
私とエリドを助けてくれた謎の青年ハイル。
技能じゃない、謎の力を使っていた。
『もし、今度会えたら、しっかりとお礼を言おう……』
私は、ハイル様の事を考えながら眠りに就いた。
ハイル様とはこの日以来、出会う事はなかったけど、私の中でハイル様は大きな存在だった。
そして、エリドはこの日を境に変わってしまう事になった。
現在の、冷静沈着でクールな性格へと。
それは全て、私の責任。
だから、私がエリドの頬をはたく資格はない。
なかったのに、私は自分の感情を優先させ、エリドをはたいてしまった。
本来であれば、頬をはたかれるのは私の方であるはずなのに。




