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第54話 エリィとエリド

「…………」


 エリィは今、ロリスタンス王国へ向かう馬車に乗り、窓から外を見ていた。


 馬車は二台用意されており、前を走る馬車にエリア。後ろを走る馬車にエリィが乗っている。

 トリタンは、エリアの馬車の御者をしている。


 エリィの乗る馬車には、エリィの向かいの席に布をかけられたドゥーザが横になっている。


「ぐっ……!」


 視線を、外の景色からドゥーザに移すエリィ。


 横たわるドゥーザを見た瞬間、エリィの目からは涙が溢れる。

 エリィは下唇を噛み、下を俯く。


 エリィは、王国に到着するまでの間、泣き続けた。


 ☆ ♡ ☆


「あっ! 戻ってきましたの!」


 ロリスタンス王国へと到着し、馬車は【ベイビルツー城】の門をくぐり中に入る。


 玄関の前には、ヒメリやエリド、メイド達が心配の面持ちを浮かべて待機していた。


 馬車が入ってきたのを見つけたヒメリが、待ちわびていたかのように声を上げる。


 その声に反応し、他の皆がヒメリの視線を追う。


 すると、二台の馬車が皆の前に停車する。


 最初に降りてきたのはトリタン。そして、トリタンがドアを開け、エリアが降りてくる。


「お帰りなさいませ、義母(はは)様」

「ヒメリ、ただいま。エリドも」

「はい。お帰りなさい」


 メイド達もエリアに対して出迎えの言葉を送る。


「トリタン」

「はい」


 エリアがトリタンに声をかけると、トリタンは全てを察しており、すぐにエリィの乗る馬車の方へと向かう。


 そして、ノックをした後、ドアを開ける。


「お義姉(ねえ)様! …………お義姉様……?」


 エリィに早く会いたくて馬車に駆け寄るヒメリ。

 しかし、中にいるエリィの表情は浮かなく、目は赤くなり、腫れている。


「エリィ様」

「あぁ……」


 エリィは、トリタンに促され、馬車を降りる。


 その際、ドゥーザを一瞥し、苦しげな表情を浮かべる。


 エリィが降りた後、トリタンがドゥーザを優しく抱きかかえる。


「え……」


 トリタンに抱えられた人物を見て、ヒメリは言葉を失う。


「そ、その方は……い、一体……」

「……………ドゥーザだ」

「っ!?」


 去っていくトリタンを見つめながら、エリィに尋ねたヒメリ。

 エリィから返ってきた返答で、信じたくない現実を突きつけられ、ヒメリはその場に崩れ落ち、涙を流し始める。


「嘘……嘘ですよね……!?」

「……………」

「そ、そんなぁぁぁ……!?」


 ヒメリの嗚咽が聞こえたエリドが、二人に駆け寄ってくる。


「姉さん、お帰り」

「あぁ」

「何が、あったの?」


 エリィはエリドに説明する。


 ドゥーザが死んだ事。

 ドゥーザが自分を守って死んだ事。

 ドゥーザが自分を庇った事。


 その全てを伝えた。


 それを聞いたエリドは──、


「くっ……! 義兄(にい)さんは馬鹿だ……! 人を守って死ぬなんて、バカのやる事だ……! 義兄さんは、大馬鹿野郎だ……!」

「っ!」


 パシンッ!!!


「……………」


 エリィは、無意識の内にエリドの左頬をはたいてしまっていた。


「死んだ人に対して言う事が、それか」

「チッ……!」

「エリド様っ!?」


 エリドは、目元に涙を浮かべながら走り出し、城の中へと入っていってしまった。


「…………ヒメリ、エリドを頼む」

「は、はい!」


 ヒメリは急いでエリドの後を追った。


 一人残り、立ち尽くすエリィ。


 先ほど、弟の頬をはたいてしまった右手を見つめながら──、


「私は、一体何をしているんだ……。エリドが、人一倍苦しんでいるのを知っているというのに……」


 そう独り言ちた。


 そして、エリィは過去を思い出していた。


 それは、エリドがまだ元気いっぱいで活発な性格をしていた時の事だった。


 ★ ♥ ★


『姉ちゃん! この依頼なんてどうだ!』

『どうだって……この依頼、推奨階級Bだぞ? C級の私達じゃ荷が重いんじゃないのか?』

『分かってないなぁ〜! 上の階級だからこそ燃えるんだろ? それに、CもBもそんな変わんないって!』


 六年前。


 私が当時19歳でエリドが14歳の頃。


 私は王位を継ぐのを視野に入れながらも、エリドと共に冒険者をしていた。


 当時のエリドは、活発で元気が有り余っており、興味が向いた事は何事も挑戦しないと気がすまないと言う元気いっぱいな男の子だった。


 今の冷静沈着でクールな性格とは真逆だ。


 私は、元々冒険者をするつもりはなかったのだが、エリドだけでは心配だとお母様が言っていたので、保護者としてついてきていた。


 冒険者を始めたのは私が18、エリドが13の時。

 私達はあっという間にFからCへと昇級して、ギルドからも冒険者達からも期待の新人と言われていた。


『おっ、セイヴァーのお二人さん! 次はどんな依頼を受けるんだい?』

『これを受けようかと!』

『B級の依頼か……やっぱり、お前さん達は上を目指そうとする気概がすんげぇな! 頑張れよ! だが、決して無茶はすんなよ!』

『は〜い!』


 エリドは、人見知りな私とは違い、あっという間に他の冒険者達とも仲良くなっていった。


『なぁ、これ受けようぜ!』

『はぁ……私が何を言っても、お前はもうこれを受けるつもりなんだろ? と言うか、すでにギルドの許可をもらっているんだろ』

『さっすが姉ちゃん! 正解だぜ!』

『はぁ〜……』


 私は目の前で嬉しそうに依頼書を見つめるエリドを見ながら、微笑みながらため息をつく。


 この笑顔、絶対に奪っちゃいけないな。


 そう決めた。


 決めたはずなのに、私はエリドから笑顔や挑戦心を奪ってしまった。


 ★ ♥ ★


 流石にC級が二人でB級の依頼を受けるのは危ないので、メンバーを募集する事にした。


 そしたら、すぐに仲間が集まった。


 剣を使う男性、弓を使う女性、盾を使う男性、杖を使う技能使いの女性。


 計四人が集まり、私達のパーティー【セイヴァー】は六人になった。


『それじゃあ、皆さん! 来週のクエスト、よろしくお願いしますね!』


 エリドが満面の笑みでそう言うと──、


『あぁ!』『えぇ!』


 四人も満面の笑みでそう答えた。


 私は、人見知りの為、少し離れた場所からそれを見ていた。


(まぁ、エリドが楽しそうならいいか)


 そんな事を考えていた私。


 この後起こる事を知っていたら、依頼なんて受けなかったのに……。

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