第53話 帰ろう
「ミルルさん! 前みたいに協力しましょう!」
前線で、モンスターの大群と戦うミルルの元に合流したハルは、ミルルにそう声をかける。
が、ミルルにはそんなハルの声は届いておらず──、
「アアアア! アアアア!! アアアア!!!」
叫びを上げながら、モンスター達をなぎ倒している。
「一種の暴走状態って感じか……仕方ない! 神聖魔法・バインド!」
「アアアア!?」
ハルは魔法を使い、ミルルを拘束する。
そして──、
「神聖魔法・スリーピング!」
「っ!? っ…………」
拘束した鎖を通して、さらに魔法を使用。
暴走していたミルルを眠らせた。
「少し休んでいてください」
鎖で眠るミルルを支え続けながら、ハルは目の前に広がるモンスターの大群を鋭い瞳で見つめる。
「あまり長引かせる訳にはいかない。これを使ったら代償がどうなるか分からないけど、そんな事を言ってられるほど、こっちも余裕じゃない。だから、みんなを守る為に、俺は!」
ハルは両手をモンスター達に向かって突き出し、構える。
「上級神聖魔法・ジャッジメント!!!」
ハルがそう叫んだ次の瞬間、モンスター達の上空から無数の稲妻が出現。
次々とモンスター達に直撃。
直撃したモンスター達は、次々と消滅して行く。
「はぁはぁ……結構、キツイ、な……」
モンスター達が完全に消滅した後、ハルは大量の汗を浮かべながらフラついていた。
そんな中でもなんとか歩き、ミルルに近づく。
そして、バインドの効果が切れ倒れそうになるミルルを、なんとか支えた。
「終わり、ましたよ……」
ハルは、眠るミルルに優しく声をかける。
そんな二人の元に、イリンがやって来る。
「二人とも! 大丈夫ですかっ!」
「うん。大丈夫。ミルルちゃんは眠ってるだけ。はぁはぁ……悪いんだけど、ミルルちゃんをお願いしてもいい……?」
「も、もちろん! でも、ハイルは大丈夫なんですか……?」
「俺は、大丈夫……一人で、歩ける、から……」
「……………わ、分かりました。では、ゆっくり行きましょう」
「うん……」
ミルルをおぶるイリン。
イリンはエリィの元に向かい、出口に向かおうと声をかけている。
そんなイリン達の元にゆっくりと向かうハルだが──、
「はぁはぁ……体、重……頭、痛……」
今にも倒れそうな様子だった。
そんなハルの様子を気にしつつ、イリンはドゥーザを抱えたエリィと共に、ミルルを抱え出口へと向かった。
☆ ♡ ☆
出口をなんとか見つけ、外に出たイリン達。
ハルはフラつきながらも、なんとかイリン達の後を追い、一緒に外に出る事ができた。
そんなイリン達の元に──、
「みんなっ!!!」
クロハ達が駆けつけてきた。
テルハは龍の姿になってしまっていたこともあり裸だったが、タオルケットのようなものを羽織ってその体を隠していた。
「クロハちゃん……リアン……みんな、無事だったんですね……!」
「うん。あの敵、私達を外に出しただけだったみたい」
「何がしたかったんだか」
リアンとミュリンはそう言いながら、イリンの後ろに立つエリィを見る。
エリィの顔は浮かなく、その背中には力なく背負われるドゥーザの姿が。
『っ!?』
それを見た瞬間、その場にいた全員が、何があったのかを察した。
だから、誰も何も言わない。
全て、分かっているから。
「みんな」
「っ!? こ、国王様!?」
クロハ達の背後から現れたのは、ショタリシアス王国の国王、デリア・ショタリシアスだった。
デリアの後ろには、リューク、シリシア、デルズもいる。
「ど、どうしてこちらに……」
「皆が懸命に調査を行なってくれておるのだ。国王と言う立場に甘えて何もしないなどできん。とは言え、できる事には限度があるのだが……それ故に、こうして皆に苦しい思いをさせてしまった……」
デリアは、エリィとドゥーザを見て後悔の念がこもった表情を浮かべた。
国王の立場と言うものがなければ、自分もダンジョンに潜り、同じように調査をし、同じように戦えていた。
だが、国王ともなればそう簡単には動けない。
その立場故のもどかしさを感じ、デリアはずっと浮かない顔を浮かべていた。
後ろに立つシリシアは、涙を瞳に浮かべているが、決して流さないよう必死に耐えていた。
「エリィ殿、一度、ロリスタンスへ戻られてはどうか?」
デリアが優しい声音でエリィに言葉をかける。
しかし、エリィの答えは──、
「いえ。今、戻る訳にはいきません。自分で決めた約束を、何一つとして果たせていないので」
確固たる決心を覗かせる声音で、そう答えるエリィ。
しかし、その瞳と体は戻りたいと訴えているように感じた。
そんな時──、
「そんな事、言っている場合じゃないでしょう」
「っ!?」
デリア達の後ろから、エリィが今、一番聞きたい声が聞こえてきた。
「母様……なぜここに……」
デリア達の後ろから姿を現したのは、ロリスタンス王国の国王、エリアと側近のトリタンだった。
エリアは国王の顔ではなく、優しい母の表情を浮かべている。
「エリィ、帰りましょう」
「しかし……! 私は、約束が……! っ!」
エリィを優しく抱きしめるエリア。
背中のドゥーザを落とさぬよう、そっと抱き寄せる。
「確かに、私はハイル様を見つけるまで帰国は許さないと言いました。でも、状況はあの時と違うでしょう? ハイル様を見つけるどうのの話じゃない。今、辛いのはあなたでしょ」
「母、様……」
「そんな辛い状況にある娘を放っとく親が、帰ってくるなと言う親がどこにいますか……! 帰ってきなさい……! あなたの、あなた達の家に……!」
「はい……! 母様……!」
「トリタン、ドゥーザをお願い」
「畏まりました」
トリタンは、エリィの背中からドゥーザを降ろし、お姫様抱っこをする。
「エリィ、あなた、泣いた? しっかり、涙を流した?」
「涙は……流し、ました……」
「嘘ね。どうせ目元に溜めるだけで、流したりしないんでしょ。騎士たるもの、冒険者たるものって」
「うぐっ……」
「エリィ。今は泣いていい。今のあなたは、騎士である前に、冒険者である前に一人の人間、一人の女の子なの。夫を失った悲しみは堪えてはいけない。悲しみを爆発させなさい……!」
「っ……母様……母様……母さまぁぁぁぁ……!!!」
エリィはエリアの胸の中で、泣き崩れた。
嗚咽を上げて、大粒の涙をこぼし泣きじゃくる。
まるで、幼い子供のように。
そんな様子を、クロハ達は涙ぐみながら優しく見守る。
エリィを抱きしめながら、エリアは皆に声をかける。
「それじゃあ、私達はロリスタンスに戻ります。この子がショタリシアスへ戻るかは……この子の判断に任せることになります」
「もちろんだ。むしろ、我が国で起こっている事に巻き込んですまなかった……!」
「デリア。あなたは気負いすぎ。昔からの悪い癖よ? 国としては、協力は惜しみません。何かあったらいつでも言ってください」
「あぁ」
「それでは、失礼します」
エリアはエリィと共に、トリタンはドゥーザを抱え、ロリスタンス王国へと帰るために歩き出した。
そんな四人を見送りながら、クロハが口を開く。
「ミルルちゃんに、なんて説明しようかな……」
ミルルはエリィに懐いていた。
この場にいる誰よりも、エリィの事が大好きで、ずっと側にいたいとすら言っていた。
そんなミルルに、エリィの最愛の夫が亡くなり、エリィが戻ってこないかもしれないなど、どう説明すればいいのか。
それが分からず、クロハ達は悩んでいた。
そんな時──、
ドサッ!
『っ!?』
「ハル君っっっ!?」
皆の後ろに立っていたハルが、気を失い倒れてしまった。
倒れるハルに駆け寄る一同。
「すごい熱……治能さえ使えれば……!」
ハルの額に手を当て、ハルの熱を確かめたイリンは、自身の無力さに歯を食いしばる。
「と、とにかく今は治療院に連れて行こう!」
「じゃな。我に乗るといい。ひとっ飛びで向かうぞ!」
「ありがとう!」
クロハの言葉に賛同したテルハが、ドラゴンの姿となる。
そんなテルハの背中に、ハルを抱きかかえたクロハが乗る。
「しっかり掴まっとれよ!」
テルハは、猛スピードでその場を飛び去って行った。
「ハイル様……どうか、ご無事で……!」
そんな様子を、離れた場所から手を合わせながら力強く祈り見つめるシリシアがいた。
シリシアは正体を隠しているため、ハルの元に駆け寄る事ができなかった。
よって、ハルの無事をただ祈る事しかできなかった。
この場に残された者達は、それぞれがそれぞれの役割を果たすため、それぞれの行動を開始した。
皆、ハルの無事を願いながら。




