第52話 やはり君は……。
エリィの腕の中で、安らかに眠ったドゥーザ。
エリィは、天を見上げ、涙を流している。
そんな二人を、少し離れた所で見ていたミルル。
「………………」
ミルルの頬には、大粒の涙が流れている。
「あ……あ……あ……」
ミルルは、涙を流しながら全身を小刻みに震わせている。
その手は、恐怖に怯えているかのように固く強く握りしめられている。
と、そんな時──、
『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』
「っ!?」
エリィが背後を振り向く。
するとそこには、ミルルの背後から迫ってくる大量のモンスター達が。
「ミルル殿! 後ろ!!!」
エリィはミルルに向かって叫ぶ。
が、ミルルはそれには反応せず、涙を流しながら天を仰ぎ──、
「アオォォォォォォォォンッッッ!!!!」
遠吠えを上げた。
「っ!?」
今まで聞いた事がないミルルの声に、エリィは驚きを隠せない。
「アアアアァァァァァアアアアアア!!!!!」
ミルルは叫び声を上げながら、モンスターの大群へと向かっていく。
「ミルル殿! 待てっ! 一人では無理だっ!」
エリィが声をかけるが──、
「アアアア! アアアア!! アアアア!!! アアアア!!!!」
ミルルの耳にはエリィの声は届いておらず、一心不乱にモンスターを倒し続けていく。
ミルルはおそらく、初めて人の死を目の当たりにし、しかもそれが大好きな人の大切な人だった事もあり、初めて襲われる感情にどうしていいか分からず取り乱してしまっているのかもしれない。
「くっ……このままじゃミルル殿が心配だ……! 一緒に戦わなければ! え……」
エリィはドゥーザを優しく地面に寝かせ、立ち上がろうとした。
しかし、足に力が入らず立てない。
しかも、足だけでなく体全体に力が入らない。
「な、なんだこれは……なぜ、体に力が……」
エリィは気づいてなかった。
ドゥーザの死が、自身が思っている以上に辛く、キツく、苦しく、心体共にダメージを受けていると言う事に。
「動け……動け……! ミルル殿が危ないんだ……! 動いてくれ……! ここで動けなきゃ私は、私はなんの為に生き残ったんだ……!」
エリィは涙を流しながら、自身の足を叩きながら叫び続ける。
そんなエリィの元に、ミルルの攻撃を逃れたモンスター達が迫ってくる。
「くっ……!?」
エリィが固く目を瞑るのと同時に──、
「神聖魔法・セイクリッド・エリアウェーブ!」
ドォォォォォンッッッ!!!!
ボガァァァァァンッッッ!!!!
「はっ……!?」
突如、エリィに向かって進んでいたモンスター達が爆発霧散した。
エリィは声のした方、上を見る。
すると、そこには落下してくる何かがあった。
「あれは……イリン殿、ハル殿!?」
空から降ってきていたのは、イリンと、イリンにお姫様抱っこされたハルの二人だった。
地面に着地した二人。
「本当にあの高さから落ちて、平気だった……」
「だから言ったでしょう? 落下の際の注意点や着地のコツなんかはハイルから聞いてしっかり覚えてるんですから」
フンッ! っと鼻息を荒くするイリン。
しかし、そんなイリンを見て、ハイルは「そんな事言ったっけ……」と思っていた。
「イリン、二人をお願い。俺はミルルちゃんの支援に向かう」
「了解です! 任せてください!」
ハルはイリンにそう伝え、ミルルの元へと向かう。
その間に、こちらに向かってくるモンスター達を魔法を使ってなぎ倒していく。
イリンは、後ろにいるエリィに駆け寄る。
「エリィさん、大丈夫ですか──はっ!?」
エリィの横、安らかな表情を浮かべて横になっているドゥーザを見たイリンは、すぐに全てを察した。
「どこかお怪我は?」
「わ、私は大丈夫だ」
「そうですか、よかった……!」
エリィは、イリンの質問に答えたあと、遠くでミルルと共に戦うハルを見る。
その戦い方、戦いぶり、強さを見て、エリィは自身の右足首を押さえ、ハルを見つめながら小さく呟いた。
「やはり君は……、ハイル様、なのだな……」




