第46話 秤鏡神・ビャクトリース
「ふふ。初めまして。私はビャクトリース。秤鏡神・ビャクトリースと申します。以後、お見知りおきを」
白いベビードールの女性──秤鏡神・ビャクトリースは二人にお淑やかに挨拶をした。
「秤鏡神……」
「ビャクトリース……」
クロハとテルハは、ビャクトリースの名前をそれぞれ繰り返す。
「神って付いてるって事は、神様……?」
「そうとも限らん。神の名を語った不届き者もおるからのぉ。それに、此奴が我らの味方……と判断するにはいささか怪しすぎる」
「確かに……」
二人が小声で話していると──、
「何をコソコソと話しているんです? 向かってこないんですか?」
「「っ!?」」
ビャクトリースが、そう挑発してきた。
二人は、ビャクトリースが敵か味方か判断に迷っていたが、今の挑発を受けて確信した。
この女は敵、だと。
「行くぞ! クロハ!」
「うん!」
「ふふ♡」
ビャクトリースに向かって突き進むテルハと、そんなテルハの背後で風を起こし始めるクロハ。
「龍撃の技能・龍の拳!」
「風の技能・加風圧!」
テルハの背中に、クロハの風が加わり、テルハは凄まじい速度でビャクトリースに接近。
そして、テルハは自身の力を右の拳に纏い、ビャクトリースに殴りかかる。
が──、
「ふふ♡ 【重】」
「なっ!?」
テルハの拳がビャクトリースの顔面に直撃……したのだが、ビャクトリースは全くの無傷。
と言うより、頬に当たってるはずのテルハの拳はまるで鉄に触れているかのように止まっている。
「ど、どういう事じゃ!? なぜ拳が通らん!?」
ググググっと拳に、腕に力を込めるテルハ。
しかし、テルハの拳は全く進まない。
「テルハちゃん! もっと風を送るねっ!」
「待てっ!」
テルハはそう叫び、後ろに飛び跳ね、クロハの隣に降り立つ。
「テルハちゃん? あっ……!?」
隣に降り立ち、しゃがみ込んでいるテルハに視線を向けると、テルハの右腕からは多少の出血が。
「て、テルハちゃん、血がっ!?」
「くぅ……平気じゃ。ちと掠っただけじゃ……」
「でも、どうして……? 攻撃する動作なんて見えなかったのに……」
「至近距離にいた我も見えんかった……。じゃが、何かをしてくる……と言うことにだけは分かった」
「だから私を止めて、後ろに飛んだんだね」
「あぁ……しかし、厄介じゃのぉ……後ろには巨大モンスター、そして目の前にはよく分からない力を使う女……どうしたものか……」
「て、手分けする……?」
「手分けをして倒せるほど、あの女は弱くない……」
「だ、だよね……」
二人は、小さい声で相談をしていた。
この状況をどう打破するかを。
しかし、背後にはモンスターがいて、目の前には強敵がいる。
そんな状況、どう考えても、いくら考えても打破する方法など思いつくはずがなく……。
「ふふ♡ 【軽】
「「っ!?」」
ビャクトリースが何かを呟いた瞬間、クロハとテルハの二人は急に宙に浮かび上がってしまった。
「な、何!?」
「どうなっとるんじゃ、これは!?」
「ふふ♡ 【重】
「がっ!?」「ぐっ!?」
そして、宙に浮かび上がった次の瞬間、二人は地面に打ち付けられてしまった。
勢いよく打ち付けられた二人は、吐血をする。
「がはっ……! がはがはっ……! な、なんなんじゃ、この力……」
「ゲホゲホ……! テルハちゃん、大丈夫……?」
「なんとかな……じゃが、このままじゃマズい。出し惜しみなしでいくしかないのぉ! 龍化の技!」
テルハがそう叫ぶと、みるみる内にテルハの姿が人からドラゴンへと変化していく。
そして、あっという間に巨大な龍、エレメンタルスドラゴンへと変身した。
「これが伝説と呼ばれるエレメンタルスドラゴン。まさか拝める日が来るとは。長生きはするものね」
「何をゴチャゴチャ言っておる! 貴様はここで倒す! 龍の息吹!」
テルハは、大きく顎門を開き、灼熱の熱線を放つ。
「ふふ♡ 無駄です」
「えっ!?」
「なっ!?」
ビャクトリースが指パッチンをすると、テルハが放った熱線が一瞬にして消えてしまった。
「ど、どういう事……!?」
「この技を跡形もなく消すとは……っ!? ぐあああ!?」
「テルハちゃんっ!?」
「よそ見厳禁よ?」
テルハは突然、真横に吹き飛び、岩壁に衝突し、人の姿に戻って地面に倒れ込んでしまう。
「ぐっ……な、なんなんじゃ、今のは……」
テルハとクロハには、ビャクトリースが何かをする様子が全く見えなかった。
だが、実際にはビャクトリースはテルハを攻撃しており、テルハは大ダメージを受けている。
一体、ビャクトリースは何をしたと言うのか……。
「次は私が……! フンッ!」
クロハは一度目を閉じたあと、すぐに力強く目を見開く。
すると、その瞳は綺麗なエメラルドグリーンから赤紫色へと変化していた。
「へぇ〜……中々面白い力を持ってるわね」
クロハの様子を見て、何か知っているらしいビャクトリースは感心したように頷いている。
「ハァッ!」
クロハは右手をビャクトリースに向かって突き出し、手先から赤紫色の光弾を放つ。
しかし──、
「だから、無駄よ」
再び、ビャクトリースが指パッチンをしてその光弾を消し去ってしまう。
「なっ!? ぐふっ!?」
さらに、またもや “見えない攻撃” を繰り出し、クロハはテルハとは逆方向の真横に吹き飛び、岩壁に衝突してしまう。
地面に這いつくばるクロハの瞳は、綺麗なエメラルドグリーンへと戻っていた。
「はぁはぁ……! な、なんなの、あの力……!」
クロハは立ち上がろうとするが、ダメージが大きすぎるため上手く立ち上がれない。
それはテルハも同様だった。
そんな倒れ込む二人に、巨大なタウロスが近づいてくる。
今が絶好の勝機と思ったのだろう。
鼻息荒く、二人を殺す為に近づいてく。
「私の獲物、横取りしないで」
「ブモッ!?」
「「っ!?」」
タウロスが二人に近づき出した時、ビャクトリースが苛立った声を上げ、またもや指パッチンをする。
すると、タウロスはまるで風船が割れたかのように跡形もなく消し飛んでしまった。
タウロスがいた場所には大量の血溜まりができているが、血飛沫などは一切なかった。
「ふぅ〜。これでようやく落ち着いて対峙できるわね」
「お主……何者、なんじゃ……!」
「最初に名乗ったでしょ? 私は秤鏡神・ビャクトリースと」
「それは、名前でしょ……あなた自身が何者なのかって話よ……!」
テルハとクロハは、立ち上がれない状態でも油断なく相手を見据え、警戒を続けている。
「ふぅ〜。全く。そんなの別にいいじゃない、どうでも。だってあなた達はそれを知った所で何もできないんだから」
そう言って、ビャクトリースは右手を前に突き出す。
「さようなら」
「クロハーー!」「テルハちゃーーん!」
二人はできるだけ近づこうと、力を振り絞って這いつくばりながら進む。
が、二人が近づく前に眩い閃光が二人を包み込み───。




