第38話 パーティー結成!
「ハル殿! もっと腰の重心を意識して、腕を振るう時に打つんではなく流すように!」
「はい!」
ダンジョンの一時封鎖から一ヶ月。
未だダンジョンは封鎖中で、クロハ達は暇を持て余していた。
ハル、テルハ、セシリアの三人はもっと強くなりたいと願っているため、日々の鍛錬を怠らず、セシリアの都合が合う日は、三人で模擬戦をしたりなど特訓を続けていた。
セシリアの予定が合わない日……というより、ほとんど毎日、エリィが家を訪れており、ハルはエリィに剣の修業をつけてもらっていた。
「テルハ、行くワンッ!」
「来るのじゃ!」
テルハはというと、エリィが来る日はミルルと特訓をしていた。
ミルルももっと強くなってハルを守りたいと思い、数週間前からこの特訓に参加している。
それに、テルハ相手だと躊躇ったり加減したりする必要がないと気づいたようで、テルハにはいつも全力をぶつけていた。
「こんなもんかのぉ〜? 小さいのは胸だけじゃなく力もなのか〜?」
「むぐぐ……! ミルルの力はこんなものじゃないワン!」
「だったら全力で来るのじゃ!」
「言われなくても、ワンッ!」
イリンが家全体に特別な障壁を張っている為、どんなに暴れても家が壊れたり、周りの建物に被害が出る事はなかった。
「クロハさんは、参加しなくていいのか?」
「う〜ん……参加したい気持ちはあるんだけど、ちょっと、ね……」
「ん〜……? まぁ、今はハル君の成長を見守るのが楽しいしな〜。ハイルが見たらきっと『この子は俺が育てる』とか言いそうだな〜」
「それは言えてますね。ハイルは子供も好きですし、将来有望な人材も大好きですからね」
「そのくせ、人が戦場に出るのは嫌がるんだよな〜」
「矛盾してますよね」
リアンとミュリンが楽しそうに笑っている。
そんな二人を見てクロハは──、
(全力を出せって言われても、私が全力を……本気を出したらみんな……)
何かを思い詰めたような表情を浮かべて俯いていた。
そんなクロハを、心配そうに横目で見るリアンとミュリンだった。
さらに数カ月後。
ダンジョンの封鎖はまだ続いていて、クロハ達が家でくつろいでいる時、数カ月ぶりにセシリアが家にやって来た。
「セシリアさん! 久しぶり!」
「お久しぶりです! 皆さん、お元気でしたか?」
「うん! 元気元気! セシリアさんこそ、元気だった?」
「はい♪ とっても元気です!」
クロハとセシリアが久しぶりの再会を喜ぶ。
「それにしても、ダンジョンが封鎖されていると言うのに、セシリアさんは一体どこで何をされていたんですか?」
イリンが率直な疑問を口にする。
「えっ!? あ、い、いやそれは、その〜……」
セシリアが数カ月の間、この家に来られなかった理由。
それは、シリシア・ショタリシアスとしての仕事があったからだ。
この国を継ぐ者として、普通の人では分からない様々な仕事やら雑務やらがてんこ盛りで、シリシアは毎日それに追われていた。
本来であれば、王位は第一王女である姉が継ぐのだが、現在、姉は消息不明の為、第二王女であるシリシアが色々と学ばなければならなくなった。
冒険者になることを応援してくれていた姉がいつの間にかいなくなっていて、シリシアは冒険者と王位継承者の二つを並行しなくてはならなくなってしまった。
「た、多分セシリアさんは国王様から頼まれて、調査を手伝っていたんだと思いますよ? ね、ねぇ?」
「え……? あっ! そ、そうなんです! 少し人手が足りないと言われまして、ついこの間まで手伝っていたんです!」
「そうだったんですね。それはご苦労さまでした。言ってくだされば私達もお手伝いしたのに」
「あは、あはは……」
セシリアの正体を知っているハルは、慌てて助け舟を出す。
それが特に怪しまれたりする事もなく、イリン達は素直に信じてくれた。
セシリアは冒険者としてはかなりの実力者で、階級は【A】。
単独でダンジョンの五十階層くらいまでなら、到達できる腕前だ。
「ねぇねぇ! 今日はこの後何か予定ある?」
クロハが満面の笑みでセシリアに尋ねる。
「い、いえ。特に予定はないですけど……」
「じゃあ、お泊り会、しようよ!」
☆ ♡ ☆
「お泊り会なんて生まれて初めてで、少し緊張しますね」
「緊張なんてしなくていいんだよ〜。いつも通りで、ね?」
「は、はい……」
「セシリアさん」
「ハルさん」
「楽しみましょう♪」
「っ♡ は、はい……♡」
泊まる事が決定したセシリアは、カーペットが敷かれた床に座っていた。
その隣にはハルが座っていて、セシリアの緊張を和らげる為に手を優しく握り、優しい笑みを向けた。
その笑顔に、セシリアは顔を赤くし、ハルの手をギュッと握り返した。
そんな時、クロハが何かを思いついたように皆を見た。
「ねぇ、セシリアさん」
「はい?」
「ハル君と、ミルルちゃん、テルハちゃんも」
「なんでしょう?」
「何ワン?」
「なんじゃ?」
クロハに名前を呼ばれ、三人はクロハの方を向く。
そして、クロハはとある提案をした。
「私達五人で、パーティーを組まない?」
『パーティー?』
☆ ♡ ☆
「パーティーって、リっちゃん達のようなものの事ワン?」
「うん。私達五人のチーム。どうかな?」
「それは別に構いませんが……でも確か、クロハさんはパーティーに所属しておりましたよね?」
「うん」
「パーティーの掛け持ちって、大丈夫なんですか……?」
「これが実は大丈夫なんだよ〜。一人二つまでならパーティーの掛け持ちが許されてて。それに、今メンバーは遠征に出かけてて活動できてないから、みんなとパーティー組めたら楽しいかなって思って。駄目、かな……?」
クロハは、セシリア達に恐る恐る尋ねる。
「ミルルは、クロハさんとパーティー? を組みたいワン!」
「ミルルちゃん……!」
「僕も、クロハさんとパーティーを組みたいです」
「ハル君……!」
「もちろん私も、クロハさんとパーティーを組みたいです。クロハさん達となら、毎日が楽しくなる事間違いなしですから♪」
「セシリアさ〜ん……!」
ミルル、ハル、セシリアの返事はもちろんイエスだった。
残る一人は──、
「ふんっ。仕方がないのぉ。特別じゃ。特別にお主らとパーティー? とやらを組んでやる。じゃが勘違いするなよ? 我はハッちゃんがいるからパーティーを組むんじゃ。別にクロハ達とワイワイしたい訳ではない」
「テルハ、素直じゃないワン」
「う、うっさいわ!」
そのやり取りに、その場の全員が楽しそうに笑う。
「じゃあ、五人でパーティー結成しよう!」
「ワンッ♪」
「ふんっ!」
「えぇ♪」
「はい」
こうして、五人は新たにパーティーを組む事となった。
☆ ♡ ☆
パーティーを組む事となった五人。
そんな五人をお祝いしたいとイリンが言い出したので、一行は喫茶アクア(地上店)にやって来ていた。
「は〜いお待たせ〜!」
店主のマリナは、大きくなりつつあるお腹を庇いながら料理を運んでいる。
そんなマリナに、注意の言葉をかける者達が。
「マリナさん! 動いちゃ駄目ですよ!」
「僕達がやるって言ったじゃないですか!」
「お、お腹が大きいんだからむ、無理しないで……!」
三人の子供だった。
男の子二人と女の子一人が、料理を運びながらマリナに注意をしていた。
「ごめんごめん! でもさ、動いてないと落ち着かないんだよ〜」
「「「それでも駄目っ!!!」」」
「あい……」
そんな光景を微笑ましく見ていたクロハ達だが、その三人の子供に見覚えがあって……。
「あれ? 君達、王城にいた子じゃ……?」
イリンがそう言うと、他の面々も──、
『あぁ!』
「ん? みんなこの子達の事知ってるの?」
「は、はい。奴隷商から助けて、王城に連れて行ったんです。そこで働きたいと言うので、リュークさん達にお願いしたんですが……」
「そうだったんだ。いやさ、前に王城にちょっとした用があってさ。そしたら、どうこの子達と接していいのか、どの程度の仕事を振っていいのか分かんなくて困ってる国王様がいてさ〜。もしよかったから私が引き取りましょうかって提案したんだ。そしたらこの子達も了承してくれてね」
「そうだったんですね。よかったね、みんな」
「「「うんっ!」」」
三人の子供達は、満面の笑みで頷いた。
マリナはとても優しく、喫茶店の仕事も懇切丁寧に、優しく、時に厳しく教えてくれた。
子供達にとっては、それがとても嬉しく、ありがたく、ここにこれてよかったと思うほど幸せだった。
「他の二人は……」
この場にいない、女子二人について尋ねると──、
「二人はね、料理に興味があるみたいでね、今、ワイドが料理を教えてる」
「マリナさんは料理は……」
クロハが尋ねると、マリナは目を虚ろにして──、
「あはは、私、料理、分からない」
と、まるでカタコトのように言葉を途切れさせながら言った。
「姐さんは料理苦手だからな〜。前に作ってもらったらこの世のもんじゃなくて、食べれたもんじゃなかったよ〜」
「ミューちゃ〜ん?」
「っ!?」
マリナについて暴露するミュリンに、マリナが不敵な笑みを浮かべて威圧する。
「あ〜腹減った〜! さっさと食おうぜ〜!」
「誤魔化した」
「誤魔化したね」
慌てて話題を逸らしたミュリンに、イリンとリアンが冷たい目を向けていた。
「全く……まぁ、今日はお祝いなんだから、好きに食べて飲んで行ってちょうだい♪」
「はい。ありがとうございます!」
マリナは子供達と一緒に、キッチンの方へと戻って行った。
「ハル君はどれ食べたい?」
「ハル様! これ美味しそうワンよ〜!」
「ハッちゃん! ハッちゃん! これ食べるのじゃ!」
「ハルさん、こちらも美味しそうですよ!」
「ちょ、ちょっと待って〜!!!」
クロハ、ミルル、テルハ、セシリアの四人に次々と料理を持ってこられるハルは、一気には食べ切れないため困惑していた。
☆ ♡ ☆
お祝いの会が盛り上がっている中、ハルは一人、皆から少し離れた所に座っていた。
「ふぅ〜……」
「ハイル様」
「ん? あ〜シリシアちゃん」
そんなハルの元に、セシリアことシリシアがやって来た。
「疲れちゃいました?」
「うん、ちょっとね。あまりこう言ったパーティーにも慣れてないから」
「そう言えば、ハイル様はあまり参加されてませんでしたね」
「うん。人が大勢集まるのが苦手でね」
「そうだったんですね。すみません、そうとは知らず何度も誘ってしまったり、今も迫ってしまって……」
「ううん、気にしないで。疲れたけど、楽しいのは本心だから」
「ハイル様……♡」
「それよりさ、一つ聞きたい事があるんだけど」
「はい?」
ハルは、少し離れた所にいるマリナを見て──、
「みんなと仲良くしてるあの人。あの人は誰、なのかな?」
と、尋ねた。
ハイルの時に親交があったはずのマリナの事を、まるで何も覚えてないかのように。




