第37話 立ち込める暗雲
「えぇ!?」
早朝。
クロハ達が引っ越してきた多種多様の集まりの家の中で、リアンの驚きの声が響き渡った。
「んん……何……リアンうるさいです……」
「あんだよ……朝っぱらからうるさいな……」
「わふ……」「なんなんじゃ……」
「リアンさん……? どうかしたんですか……?」
リアンの声を聞き起きた皆は、一階に降りてくる。
ハルだけは部屋で眠っている。
「今、ギルドから連絡がありまして、ダンジョンを、一時的に封鎖すると」
『…………………え!?』
リアンの言葉に、全員が驚きの声を上げた。
☆ ♡ ☆
ギルドへやって来たクロハ達。
「イシュちゃん!」
「皆さん! 今朝の事ですよね?」
「うん。どうしたの? 急に一時封鎖なんて、調査と捜索は?」
ギルド嬢のイシュを見つけ、全員はイシュの元へ。
そして、クロハが代表してダンジョンの一時封鎖について尋ねた。
「それが、実はですね……」
イシュが状況の説明をしようとした時、後ろからイシュに声をかける者が。
「イシュさん、それは私が説明しましょう」
「デストル様!」
冒険者ギルド【ブリューヘル】のギルドマスターであるデストルだった。
「イシュさん、警護院の方々が到着しました」
「っ! 分かりました。では行ってまいります」
「えぇ」
デストルから耳打ちされたイシュは、クロハ達にお辞儀をした後、受付の裏へと向かった。
「すみません。色々とバタバタしておりまして」
「い、いえ。それであの、ダンジョンの一時封鎖の理由は……?」
「以前、リアンさん達が持ち帰ってきてくださったモンスターの爪、あれが調査の結果、かなり危険なモンスターの物であると判明したんです」
『っ!?』
その答えを聞いて、リアン、イリン、ミュリンの三人は目を見開き驚いた。
クロハ、ミルル、テルハの三人も同様に驚いている。
「どういったモンスターの物で、そのモンスターがどのような力、能力を秘めいているのかが分からないので、騎士団の方々と協力して詳しく調査する事になったんです。その間、冒険者の皆さんがダンジョンに入り、もしそのモンスターに襲われてしまったら危険なので、詳しい調査を終えるまではダンジョンを封鎖する事にしたのです」
「な、なるほど……」
この決定は、デストルや騎士団が勝手に決めた事ではない。
国王であるデリアに報告をした後、会議を行い、今後の対策を練り、導き出した結果がこの決定だった。
全ては冒険者達の、全ての人々の命を守るため。
冒険者で生計を立てている者達へは、国が保障する事になっており、お金の心配なく日々を暮らしていけるような対策を取っている。
「もし、何か人手が必要でしたらいつでも言ってください。いつでも力になりますので!」
「ありがとうございます、クロハさん。クロハさんのパーティー【聖なる女主護団】の皆さんや、リアンさん達のパーティー【多種多様の集まり】の皆さんには、いつもお世話になりっぱなしで……。いつも本当にありがとうございます」
デストルが深々と頭を下げ、クロハ達に感謝の意を伝える。
「いえいえ! そんなっ! 私達こそ、ギルマスやギルドのみんなにはよくしてもらっていて……!」
「そ、そうです! ハイルのパーティーに入れたのだって、デストルさんやギルドの皆さんのおかげなんですから!」
クロハとイリンが慌てて口を開く。
その言葉を受け、デストルは微笑みながら頭を上げた。
「ありがとうございます。皆様が我がギルドの所属してくれていて、本当に嬉しいです。皆さんは我がギルドの。いえ、我が国の誇りです」
「「えへへ〜……♡」」
デストルに褒められ、クロハとイリンはだらしない表情を浮かべながら照れた。
「全く。だらしないにもほどがあるのじゃ」
そんな二人を、テルハは呆れた視線で見ていた。
「ほら、さっさと歩け!」
「やめてくださいっ! 私が何をしたって言うんですか!?」
「窃盗だ!」
「知らないっ! 私はやってない!!!」
クロハ達が話していると、受付の奥から、警護院の職員二人に連行される一人の女性が姿を現した。
格好からするに、イシュと同じ受付嬢なのだろう。
しかし、手には手錠がはめられており、彼女が逮捕された事を物語っていた。
「あの……あれは一体……?」
リアンがデストルに尋ねる。
「お騒がせしてしまいすみません。実は今朝、ギルド内で盗難事件が発覚しまして」
『盗難!?』
「はい。イシュさんが大切に保管していたモンスターの爪が盗まれてしまったんです」
「それって……」
「はい。リアンさん達が最初に持ってきてくださった爪です。鍵付きの引き出しに保管していたはずが、いつの間にか消えていたそうで」
「それを、あの人が……?」
「はい。彼女が何度もイシュさんの机に近づくのを見た人が大勢いたり、彼女の机の中からなくなった爪が発見されたりと、証拠十分と言う事で今朝、イシュさんが通報されたんです」
「そう、だったんですか……なんか、大変な事が相次いでますね……」
イリンが難しい表情を浮かべながら、連行されていく受付嬢を見つめる。
「やってない……! やってない……! 私はやってないのよぉ……!!!」
受付嬢は涙を流しながら、自分は無実だと訴え続ける。
しかし、証拠が揃ってしまっている為、彼女の言葉を信じる者はおらず、彼女は警護院へと連行されてしまった。
そんな彼女を見て、一人だけ違和感を抱く者がいた。
ハルだ。
(彼女、嘘をついているようには見えなかった……。嘘を真に変える力があれば、それを使っていただけなのかもしれないが……あの様子はどうにも……)
ハルは顎に手を当て、一人考え込んでいた。
この後、クロハ達は家に帰り、それぞれ好きなように時間を過ごした。
★ ♥ ★
「ギヘヘッ。回収に失敗したな」
「別に失敗はしてないわよ。これも計画通り」
「ギヘッ。その割には大騒ぎになっていたが?」
「騒ぎにするつもりだったのよ。この女を連行させる為にね」
「酷いやつだな、お前は」
「ふふ」
とある部屋で、デルビーズが誰かと話していた。
口調からして女性である事は分かるが、月明かりが女性の姿を隠してしまっていて、誰かが分からない。
しかし、女性が半歩前に出た為、その姿が明らかになる。
「うふふ♪」
その女性は、先程警護院に連行されたはずの受付嬢だった。
先ほどまでの無実だと訴える必死の表情ではなく、妖しい笑みを浮かべている。
「ギヘヘッ。ここには俺しかいないんだ、姿を戻したらどうだ?」
「それもそうね」
そう言って受付嬢は、指を鳴らした。
すると、みるみる内に姿が変わっていき、受付嬢は全く別の女性へと姿を変えた。
その女性とは──、
「お前にはいつも驚かされるよ、エリドリアス」
「うふふ♪」
デルビーズがハイルの事に関して報告に戻った際、岩に囲まれた場所にいた人物。
銀色の中に、青色が混ざった髪をした女性。
エリドリアス……? だった。
「さぁ、ここから本格的に計画を始動させるわよ」




