第35話 帰路での新たな出会い
「お世話になりました」
【ベイビルツー城】の門の前に、国王であるエリア、側近のトリタン、ユズィとリュミが立っていた。
その前には、ハル、クロハ、ミルル、イリン、セシリアの五人が立っている。
ハルが代表してお礼を告げ、五人は頭を下げる。
「いつでもまた遊びに来てね。特にハル君、今回はしっかりとお話できなかったからまた今度、ゆっくりお話ししましょう♪」
「は、はい……」
満面の笑みでそう語りかけてくるエリアに、ハルは若干顔を引き攣らせながらぎこちなく頷いた。
その満面の笑みを浮かべた後、エリアはゆっくりと優しい母の表情を浮かべて言う。
「エリィにも、よろしくね」
その顔、その声音は娘を心配する母親のものだった。
その表情を見て、声音を聞いたハル達は一気に心が穏やかになり、優しい笑みを浮かべ返事をした。
「エリィはミルルが守るワンッ!」
「あはは♪ ありがとう。ミルルちゃんも、いつでも遊びに来てね♪ おいしいご飯、用意しとくから」
「ワンッ! 絶対また来るワンッ!」
ミルルは、この滞在期間中、エリアが用意してくれる食事に目を輝かせていた。
どの食事も美味しく、ミルルはエリィだけでなくエリアやトリタンにも心を許していた。
「それでは、失礼します」
セシリアが代表して頭を下げると、それに続いてハル達も頭を下げた。
そして、一行は馬車へと乗り込み、ショタリシアス王国へと向かった。
☆ ♡ ☆
「………………」
ぽふんっ♡ ぽにょん♡ ぽにゃん♡
馬車に乗ってショタリシアス王国へ向かっているハル達。
そんな中、ハルは固まっていた。
クロハの膝の上に座るハル。
そんなハルの頭には、クロハの大きな胸が乗っていた。
馬車の揺れに合わせて、その胸も上下に跳ね、ハルの頭を優しく叩いてくる。
クロハの隣にはミルルが座っており、ミルルはハルに抱きついている。
その為、ハルは頭と腕に大きく柔らかい感触を感じていた。
ハル達の前には、イリンとセシリアが微笑みながら座っている。
「なんでこの体勢で座ってるんですか……」
「ん〜? だってハル君を離したくないから」
「ハル様とずっとくっついてたいワン〜♪」
「ハル君は本当、モテモテですね〜」
「ですね〜。私もクロハさんの位置になりたいです……」
なんて、仲睦まじく話していると、急に馬車が停車した。
「ん? どうされました?」
急に停車した為、セシリアが疑問に思い、小窓から顔を出し、御者に何があったのか尋ねる。
「あ〜いや……別の馬車が道を塞いでまして……」
「ん……?」
セシリアが御者の前を見ると、そこには馬車が停車していた。
それだけならよかったのだが……。
「あれって……奴隷商?」
『っ!?』
セシリアがそう呟いた瞬間、馬車の中にいたハル、クロハ、ミルル、イリンが息を呑んだ。
全員が外に出ると、その馬車の御者と思しき人物が、ボロ布を身にまとい、鎖が付いた手錠をかけられた複数人を馬車に乗せていた。
「な、なんで奴隷商がこんな所に……!?」
「まぁ、各国の通り道ではありますから仕方ない事ではありますが……ですが、ここはショタリシアス王国付近。奴隷商がいるのはマズいですね……」
イリンが言うマズい。
それは、ショタリシアス王国には奴隷制度がないからだった。
奴隷制度自体は、国によってあったりなかったりする為、咎められたりするものではないのだが、ショタリシアス王国やロリスタンス王国には奴隷制度がない。
その為、奴隷制度がない国の付近で奴隷商が活動するのはご法度だった。
なのでイリンはマズいと思っていたのだ。
「奴隷制度がある国……ブラコリスタス帝国ですか……ん?」
セシリアはこの奴隷商がどこの国に所属しているのかを考えていた。
そして、その国を頭に浮かべていたが、奴隷商の馬車を見てとある事に気がついた。
「馬車に国の印が入っていない……? つまり、国に許可を得ていない潜りの奴隷商って事……?」
「え……それってかなりマズいんじゃ……!?」
「はい……国に許可を得ずに商売をしたり、それこそ奴隷商を行っていたら重罪になります。しかも、ショタリシアス近辺でそれを行うのは、マズいです……」
「どうします……?」
「声をかけましょう」
セシリアは、奴隷商に近づき声をかける。
「あの」
「はい? 何かご用でしょうか?」
「あなたはどこの国に属していらっしゃいますか?」
「わたくしめはブラコリスタス帝国所属の奴隷商でございます」
「そうですか。それにしては、馬車に国の印がないようですが」
「っ!? そ、それは、その……!?」
「国の許可を得ずに商売をする。しかも、他国近辺で仕入れなどを行うのは重罪と、知っていますよね?」
「ぐっ……! うるさい! 部外者は黙っていろ! おい! 奴らを殺せ!」
セシリアの問い詰めに逆上した奴隷商は、馬車に乗り込もうとしていた少女にそう言い放つ。
しかし、その少女は──、
「に、人間に攻撃は、できない……決まり、だから……」
と言って断る。
それを聞いた奴隷商は──、
「奴隷の分際で口答えするなっ!」
「ぐっ!?」
少女の腹部を蹴り飛ばした。
それを見たミルルは──、
「ガウッ!!!」
怒りを露わにし、奴隷商の腕に噛みつく。
「ぐっ……!? は、離せ!?」
奴隷商は腕を振り払う事でミルルを引き剥がす。
奴隷商の腕には、穴が空いている。
「ぐぅ……! こ、こんな事をして、国に訴えるぞ!」
「ブラコリスタス帝国にですか? あの誇り高い国が、許可を得ずに勝手に動いている潜りの言葉を聞くとは、到底思えませんが?」
「チィ……! おい! 決まりとかなんとかどうでもいい事言ってないで、さっさとこいつらを殺せ! これは命令だ!!!」
奴隷商が蹴り飛ばした少女に再度命じるが、少女は横たわったままで動こうとしない。
人間を攻撃しない。したくない。
少女はその思いから動かずにいた。
「クソ……! あの犬人族さえいなければ……!」
少女の元に駆け寄り、強制的に攻撃させたいが、ミルルの攻撃が怖くて動けない奴隷商。
奴隷商がどうするのか考えている時、ハルの脳内にとある声が響いてきた。
『お願い……誰か……』
(ん? なんだこの声……)
突然聞こえてきた声に、ハルは驚きを隠せない。
しかし、ハルの驚きをよそに、その声は言葉を紡ぎ続ける。
『お願い……助けて……馬車の中に幼い子供が……』
(はっ!?)
その声は、馬車の中に幼い子供が乗せられていると言う。
それを聞いたハルは、顔を上げ、馬車を見る。
外からだと中の様子は見えないが、先程の声が嘘をついているとは到底思えない。
なのでハルは、その声を信じ、中にいるであろう幼い子供を助ける事にした。
「(頼むぞ……)神聖魔法・神雷!」
ハルはそう叫び、目にも留まらぬ速さで馬車の中へと移動した。
「あっ!?」
馬車の中に入ると、そこには十歳にも満たない子供、大きくても十歳を少し越したくらいの年の子供が五人乗っていた。
「大丈夫。今助けるからね。全員、僕に掴まって」
ハルにそう言われ、怯えていた五人の子供は恐る恐るハルの服を掴む。
「ちょっと高速で動くからね。神雷!」
子供達が全員掴まったのを確認した後、ハルは再び力を使い、高速で移動し、馬車の中から外に出た。
イリンやクロハの近くに止まったハルは、子供達を座らせる。
「はぁはぁ……も、もう、大丈夫、だよ……」
「は、ハルさん……!?」
ハルが、息を切らしながら子供達に優しく声をかける姿を見て、セシリアは慌てていた。
ハルが力を使ったのだと分かったからだ。
ハルは力を使うと何か代償を払わなければいけない。
力を使うと頭が痛み、最悪の場合気を失ってしまう可能性がある。
それを知っているので、セシリアは驚きを隠せずにいた。
「なっ!? ど、どうやって中の奴隷を……!?」
自分が捕らえていたはずの奴隷達が、全員外に出ていて驚いた奴隷商は、馬車とハルを交互に見て目を点にさせていた。
「ハル様、その子達は……?」
「馬車の中にいた、はぁはぁ……こ、子供達、です……。はぁ、謎の声が教えてくれたんです……」
「謎の声?」
イリンが首を傾げると、少し離れた所で倒れている少女が、安堵の表情を浮かべていた。
「もしかして、彼女が……?」
イリンは、少女がハルに語りかけたのだと当たりをつけた。
「この子達……まだ誰も十五歳に達していませんね。確か、奴隷制度があるブラコリスタス帝国でも、十五歳以下を奴隷にしてはならないと言うルールがありましたよね?」
「ぐっ……!?」
セシリアに指摘された奴隷商は、バツが悪そうに脂汗を浮かべながら視線を逸らした。
「無許可だけでなく制度違反までも……あなたはとんだ重罪人ですね。今ここで捕らえて、ショタリシアス王国に突き出してさしあげます!」
(チィ……!まさかあのガキがなんかしたのか……? あのガキなら距離的にもなんとかできそうだな……よし、まずはあのガキからだ!)
奴隷商は、ハルなら簡単にどうにかできると思ったようで、ハルに向かって走り出す。
が──、
「んぎゃぁ!?」
奴隷商は気がついたら地面に突っ伏していた。
視線を上に上げると、そこには鬼の形相を浮かべたクロハ、ミルル、セシリア、イリンの四人が立っていた。
「お前、今何しようとした?」
「今度は骨まで噛み砕くワン?」
「あの子に指一本触れさせる訳ないでしょう」
「王国に突き出される前に、ここで死にますか?」
と、四人がそれぞれとても低い声で奴隷商を見下ろしながら言う。
「ひ、ヒィ……!?」
それに怯んだ奴隷商は、抵抗する気力を無くし、大人しくなった。
そんな中、ハルは倒れている少女に近づいていき──、
「大丈夫、ですか……?」
「は、はい……大丈夫です……。それより、助けていただいてありがとうございます」
「やっぱりあの声はあなたでしたか」
「はい……聞こえる人がいるか、一か八かの賭けでしたが……あなたが聞こえてよかった……」
「助けを求めてくださりありが──ぐっ!?」
ドサッ。
「「「「っ!?」」」」
大きな物音が聞こえたので、四人が後ろを振り返ると、ハルが頭を押さえて倒れていた。
「ハル君っ!?」
「ハル様!?」
「ハル君!?」
「ハルさん!?」
四人がハルに駆け寄ってくる。
「だ、大丈夫っ!?」
「ぐっ……!? あっ……!? ああっ……!?」
「頭を押さえてるワンっ……! あの時と同じワン……!? また気を失っちゃうワンッ!?」
「ミルルちゃん、落ち着いてください。今、治を施します。『我が身に潜む運命られし能よ。我が呼び声に応え、その技を解放せよ! 治能!」
イリンがハルに対して、治の技能を使用する。
「ぐっ……うっ……うっ……んっ……」
イリンの技能が効いたのか、ハルは穏やかな寝息を立てて眠った。
「よかった……イリンちゃん、ありがとう」
「いえ。少しでも助けになれたならよかったです」
「ハル様は、ハル様は大丈夫ワンッ!?」
「うん。今は眠ってるだけだから、心配いらないよ」
「よ、よかったワン……」
そんな様子を見たセシリアは──、
(これが、力を使った際に起こる現象……。ハイル様は一体、何を代償にしていると言うの……? それにあの痛がり方、普通じゃない……一体何が……)
深刻そうな表情を浮かべながら、ハルの身に起こっている事に関して考えていた。
「皆さん、移動しましょう。いつまでもここにいては時間がもったいないです。それに、ハルさんもしっかりと休ませてあげたいですから」
「そうですね。クロハちゃん、ミルルちゃん、行きましょう」
「はい」「ワンッ!」
セシリアがそう言うと、全員が移動を開始した。
セシリアが奴隷商を奴隷商が乗っていた馬車の荷台に放り込み、その馬車をイリンが運転。
セシリアは荷台で奴隷商を監視する。
五人の子供達は、クロハ達が乗っている馬車に乗った。
少女はクロハ達の馬車がいっぱいだからと、自ら奴隷商の荷台に乗り込んだ。
そして一行は、ショタリシアス王国へと向かった。
ハルに語りかけた少女、その少女が三人目のヒロインです!
その正体は次話で明らかになります!
お待たせしてしまうことになってしまうのですが、この少女がどんな子なのか、楽しみに待っていていただけますと幸いです……!




