第34話 互いの正体
「剣の握りが甘い! もっとしっかり力を込めて柄を握れ! でないと簡単にすっぽ抜けるぞ!」
「は、はい!」
「もっと腰に重心を置いて、踏ん張りを意識しろ! 剣は腕で振るんじゃない、腰で振るんだ!」
「は、はい!」
ユズィに弟子入りをしてから一週間。
ハルはユズィから、厳しく指導を受けていた。
今は、【ベイビルツー城】の庭でユズィが車椅子に座り、ハルに剣の修行をつけていた。
離れた位置にあるガゼボに、クロハ、ミルル、イリンの三人が座っており、頑張るハルを見守っていた。
「ハル君、頑張ってますね」
「ハル様、格好いいワン……♡」
「日に日に手に剣ダコができてるんだよね……痛そうにしてるから、可哀想で……」
「でも、本人は楽しそうなんですよね?」
「うん……」
「じゃあいいじゃないですか。本人のやりたい事をやらせてあげて、それを黙って見守っているのが、保護者の役割ですよ」
「うん……」
ハルの修行を見守る三人。
イリンとミルルは微笑ましく見守っているが、クロハだけは浮かない表情だった。
危険な目に遭ってほしくないとクロハは願っているため、ハルが剣の修行をするのが本当は嫌だった。
しかし、ハルがしたい事はさせてあげたいと言う思いもあるので、複雑な感情が絡み合い、どうしていいか分からなくなっていた。
「一振り一振りに力を込めすぎるな! 力を込めるタイミングを考えろ! 軽さや流し、重さや押し。それらを意識するのも剣術だ!」
「はいっ!」
ハルの剣の腕は、この一週間でメキメキと上がっていた。
ユズィの的確な指導と指摘で、ハルの弱点や苦手な事などがどんどん克服されていき、一週間しか経っていないのに、パーティーを組んでいればモンスターと戦えるくらいにまで成長していた。
「剣を地面に刺し、柄を使っての立ち回りも剣術の一つだ! お前はまだ体重が軽い。だからこそできることもある! 次はそれを習得しろ!」
「はいっ!」
ハルが修行を続けている中、ガゼボにいる三人の元にとある人物がやって来た。
「皆さん!」
「「「ん?」」」
声をかけられたので三人が後ろを向くと、そこにいたのは──、
「セシリアさん!」
「えへへ♪」
クロハ達に声をかけたのはセシリアだった。
ピンクのボブヘアと爆乳を揺らし、三人の元へとやって来たセシリア。
「用事は済んだの?」
「はいっ♪ 無事済んだので急いで来ちゃいました♪ ハルさんに会いたかったので♪」
「へぇ〜……ハル君に、ねぇ〜……」
クロハがジト目でセシリアを見つめる。
「へ、変な意味はないですからねっ!? ただずっと会えていなかったので会いたくなっただけですからぁ!?」
「それにしては前、ハル君の裸、見たがってたよね〜?」
「うっ……! そ、それは……」
「そ、そうなんですか!? ハル君の裸なんて、おいそれと見れるものじゃありませんよっ!?」
「そうワンッ! ミルルだってハル様の裸、見たいワン! 抜け駆けは許さないワンッ!」
「まっ、ハル君の裸は私だけのものだから、誰にも見せないけどね〜」
「「「独り占めは駄目ですっ(ワンッ)!」」」
「え〜……」
など、四人が盛り上がっていると、トリタンがやって来た。
「皆様は仲がいいですね」
「トリタンさん」
「そろそろ休憩のお時間ですので、昼食をお持ちしました。…………ってあら?」
「っ!?」
トリタンは、セシリアの顔を見て首を傾げた。
「あなた……なぜこんな所に?」
「トリタンさん、セシリアさんとお知り合いなんですか?」
「セシリア……? あぁ〜、まだ冒険者を続けていたんですか……。全く、お父上が心配するから冒険者は引退しなさいとあれほど言ったのに……」
「わ、わぁ〜〜〜〜〜〜〜!!! トリタンさん! 今は少しだけ黙っていてくださいっ!!!」
「はぁ〜。仕方ありませんね。では、昼食にしましょう。セシリアさん、お二人を呼んできてください」
「は、はいっ!」
「「「?」」」
セシリアが何を慌てているのかが分からず、三人は首を傾げていた。
ハルとユズィの元へ向かうセシリアは──、
(まさかトリタンさんと会ってしまうなんて……! 可能性は考慮してましたが……迂闊でした……!)
と、思っていた。
☆ ♡ ☆
セシリアがロリスタンスにやって来てから、一週間が過ぎた。
セシリアが来てからの修行はより実践的なものになり、ハルとセシリアが手合わせをして、ユズィとセシリアがハルに足りない所を教える。と言うものになっていた。
それにより、クロハの心配がより一層増したのだが、ハル本人が楽しそうにしているのを見て、クロハは何も言えなくなっていた。
そして、今は翌日に帰国を控えた夜。
ハルは部屋にある備え付けのお風呂に入っていた。
備え付けなのに大浴場並の広さがあり、最初はみんな驚いていた。
「はぁ〜……疲れた体に染み渡る〜……」
体を洗い終えたハルは、湯船に浸かった。
「ふぅ〜……ん?」
心地良いお湯を楽しんでいると、外の脱衣所に人の気配を感じた。
(クロハさんかな? 全く、ここ最近は入ってこないと思ってたら、最終日を狙ってたのか……?)
クロハが入ってくると思ったハルは、入ってきた瞬間に苦言を呈そうと扉を方を向き待機する。
そして、扉が開き中に入ってきた人物に──、
「クロハさん? いい加減一緒に入るはやめ──っ!? な、なんでっ!?」
「えへへ♪ 来ちゃいました♪」
入ってきたのはクロハ……ではなく、セシリアだった。
タオルなどで体を隠したりは一切せず、その素晴らしいスタイルをさらけ出していた。
ハルは目を瞑りながらゆっくりと目を開けていった。
その為、一瞬判断が遅れ、セシリアの体をバッチリと見てしまった。
その瞬間、ハルはすぐに前を向き目を固く瞑り、股間を両手で隠す。
「ご一緒しても、いいですか?」
「だ、駄目に決まってるじゃないですか! ぼ、僕は上がります!」
湯船から出ようとするハルを、いつの間にか湯船に入ってきたセシリアが、肩を掴んで座らせる。
「二人でしかできない、大事な話があるんです。少しだけ、お願いできませんか?」
「ぐっ……わ、分かりました……」
大事な話があると言われてしまっては、ハルとしては断る訳にはいかない。
外に出れば、クロハやミルルが必ず側にいる。
二人っきりの話をするタイミングは一切ない。
なので、このタイミングで話すしかないとハルも分かっている。
それに。セシリアは自分の正体を知っている可能性が高いので、ハルとしても話をしなければと思っていた。
「ふぅ〜……気持ちいいですね〜」
「っ……そ、そうですね……」
セシリアの足の間に強制的に座らされたハルは、背中に当たる大きくて柔らかくて弾力のある感触と、腕や足に当たるセシリアの太ももの感触に、どうしていいか分からず硬直していた。
「そ、それで……だ、大事な話って……」
このままではおかしくなると思ったハルは、セシリアに尋ねた。
すると、セシリアから驚きの言葉を告げられた。
「ハルさんは、ハイルさん……なんですよね?」
「っ!?」
耳元でそう囁かれる。
その瞬間、ハルの心臓は心拍数を増した。
やっぱりバレていた。やっぱり気づかれていた。
ハルは嫌な汗を浮かべながら、セシリアに問いかける。
「い、いつから気づいて……?」
「ハルさんを見た時から、何か違和感を感じてはいたんです。ですが、その違和感が確信に変わったのは謎のモンスターに襲われた時です」
(やっぱりか……)
「あの時、私はハルさんが謎のモンスターを退ける一部始終を見ていました。ハイルさんしか使えないはずの力、そして魔法。それらをハルさんが使っていて、戦い方も、ハイルさんそのもの。そしたら、それまで感じていた違和感が全て確信に変わったんです。ハルさんは、ハイルさんなのだと」
「……………黙っていてすみ──」
「謝る必要はないんです」
「え……」
ハルの言葉を遮り、セシリアが言葉を紡ぐ。
「どうして子供の姿になっているのか、どうして本当の事を言わないのか。それは私には分かりません。ですが、何か事情があると言うことは分かります。なので、謝らないでください。ハルさんは、何も悪くないのですから」
「でも……本当は子供じゃないのに、子供のようにしていて……こうやって女の人とお風呂にだって入って……こんなの……」
ハルが喋り終わる前に、セシリアが再びハルの耳元で囁く。
「ハイル様、私です。シリシアです」
「っ!?」
ハルを抱きしめ、胸をより強くハルの背中に押し付けながら自分の正体を明かしたセシリア。
ハルが横を見ると、ピンクのボブヘアだった髪が、青色の中に銀色が混ざった、耳たぶに毛先がかかるくらいのショーットカットへと変わっていた。
「し、シリシアちゃんっ!?」
「はい♡ シリシアです♡ お久しぶりです、ハイル様♡」
セシリアならぬシリシアは、先程とは違った声音でハルの名を呼び、より一層強く抱きしめた。
「はぁ〜……♡ こうしてハイル様を抱きしめられる日が来るだなんて……♡ こんな幸せがあっていいのでしょうか……♡」
「な、なんで……」
「私、ハイル様に憧れて冒険者になったんです。でも、シリシアとして冒険者に登録する訳にはいきません。お父様にも心配をかけてしまいますし、何より、冒険者ギルドが許してくれないでしょう」
「だから、姿や名前を変えて……?」
「はい。前にこの国に遠征で来た時に、なぜかトリタンさんには速攻でバレてしまったんですよ……こっぴどく叱られて、危うくお父様に報告されそうになりました」
「あはは……あの人は勘が鋭いからな……あ、鋭いですから」
「無理に敬語にしなくて大丈夫ですよ。ハイル様だと知っている私の前では、『ハル』としてではなく、『ハイル』として振る舞ってください♡ 私も、その方が嬉しいですから♡」
シリシアは、離さないと言わんばかりにハルを抱きしめる。
シリシアはハイルに恋をしており、ずっとアピールを続けていた。
ハイルも、シリシアの気持ちには気づいており、あえて距離を取ったりしていたのだが、シリシアの恋心はそんなものじゃ止まらず、いつ暴走してもおかしくなかった。
それが今、こうして合法的に一緒にお風呂に入れる状態にあり、合法的にハイルの裸も見れる。
そのチャンスを逃すまいと、シリシアはいつも一緒にお風呂に入るチャンスを狙っていた。
なので前にダンジョンで水浴びをした際も、密かに興奮していたのだった。
なので、ハルが気にしているみんなを騙している事や、一緒にお風呂に入ってしまっている事。
それら全ては、シリシアにとっては幸運でしかなかった。
なので、ハルに謝罪をさせなかったのだ。
「セシリアがシリシアちゃんって事、他には……?」
「誰も知りません。トリタンさんは知っていますが、トリタンさんを除けば、知っているのはハイル様だけです」
「そ、そっか……でも、なんで急に……?」
「う〜ん……我慢ができなくなったから、でしょうかね」
「え?」
「だって、こんな近くに大好きなハイル様がいるんですよ!? 一緒にお風呂だって入れるのに、それをずっと我慢し続けるなんて、拷問過ぎます! それに、私はハイル様の正体に気づきました。なので、それを利用して私の正体も打ち明けようと思ったんです。そのおかげでこうして、一緒にお風呂に入れてますし〜♡ 私の大きなおっぱいも、やっと押し付けられました♡」
シリシアは、わざとハルの背中でおっぱいを弾ませる。
「っ……!」
「下からだとお尻しか見えないですからね、今度からはちゃんと、おっぱいも見てください♡」
「み、見るなじゃなくて、見て、なんだ……」
「はいっ♡ 私の体は、全部ハイル様のものですからぁ〜♡」
(相変わらず怖い事を言うな……)
「ま、まぁ、胸とかお尻を見る見ないは置いといて、シリシアちゃん、俺の事は悪いけど……」
「はいっ! 誰にも言いません! 二人だけの秘密、です♡」
「ありがとう。俺も誰にも言ってない事、今から話すよ」
「誰にも言ってないっ! ありがとうございます! 私とハイル様だけの秘密が増えるなんて、感激過ぎます!」
「あはは……」
ハルは、シリシアに夢で見た力を使うと何か代償を払わなければいけない事。
その代償がなんなのか分からない事。
力を使うと、頭に電流が走ったような痛みが生じる事。
そのせいで倒れてしまうこと。
それらの理由から、剣を学んでいること。
それらを全て話した。
「任せてください! 私ができるだけ、いえ、完璧にサポートしてみせます!」
と、シリシアは言ってくれた。
誰にも話せなかった事なので、ハルはようやく話せたと、心が少し軽くなるのを感じていた。
この後、二人は昔話などに花を咲かせ、長風呂をした。
二人とものぼせてしまったのは、言わずもがな。
いかがだったでしょうか……?
セシリアの正体はなんとシリシアでした!
気づいていた方もいらっしゃいましたかね……?
少しではありますが、シリシアとセシリアが同一人物のように思える瞬間を散りばめておりました。
どこがそうだったのか、もしお気づきでない方はこれまでのエピソードを読み返していただけますと嬉しいです……!
そして! ついに次話の35話にて、プロローグに登場していた三人のヒロインの最後の一人が登場いたします!
エルフのクロハ、犬人族のミルル。
果たして最後の一人はどんな子なのか。
次話を楽しみにしていていただけますと幸いです……!
ブックマーク、本当にありがとうございます……!!!
とっても嬉しいです……!!!
この感謝をしっかりと作品の更新を持って、返させていただきたいと思っておりおますので、今後もよろしくお願い致します!




