第33話 ロリスタンス王国へ/弟子入り
「ハル君っ!」
「うわっ!?」
ハルが目覚めてから数時間後。
連絡を受けたクロハ達が、治療院へとやって来ていた
(セシリアは用事があるとの事で離脱した。ハルの所に行けないのをかなり悔しがっていた)。
全員が駆け足で廊下を進む中、クロハだけが駆け足ではなく全力疾走。
ハルの部屋のドアを開けると、ハルがベットの上で座っていたので勢いのままに抱きつく。
抱きつかれたハルは、勢いが良すぎた為、そのまま後ろに倒れ込んでしまう。
「クロハちゃん、それじゃハル君が苦しいですよ」
「あっ!? ご、ごめんねハル君!? 大丈夫? どこか痛くない……?」
「だ、大丈夫です……」
イリンから注意を受けたクロハは、すぐに飛び退き、ハルの背中を支えながらゆっくりと上体を起こす。
「ハル様……よかったワン……!」
ハルが起きて、喋って、動いている姿を見てミルルは、涙を浮かべながら喜んでいた。
「本当によかった。一時はどうなる事かと思った」
エリィとドゥーザも、安堵したような表情を浮かべ立っている。
「私達がギルドへ報告に向かう為に外に出ている間に、まさかこんな事になっていたなんて、クロハちゃんから話を聞いた時は驚きましたよ……」
「えぇ……」「あぁ……」
イリン、リアン、ミュリンの3人も心配そうな声音はしつつも、表情は安堵のものだった。
しかし、そんな皆を見るハルの表情は浮かないものだった。
「ん? ハル君、どうしたの? どこか具合でも悪い?」
クロハがそう尋ねる。
と、ハルから驚きの返事が返ってきた。
「皆さんは、誰ですか……?」
「皆さんは、誰ですか……?」
ハルから告げられたその言葉に、その場にいた全員が驚きのあまり硬直する。
「だ、誰って……。え……じょ、冗談だよね……? わ、私だよ……? クロハだよ……?」
「み、ミルルワンッ……!」
ショックを受けながらも、なんとか思い出してもらおうと、クロハとミルルの二人が名乗る。
一気に名乗っても混乱するだけだと、他の人達は名乗らずにしている。
「クロハ……? ミルル……? うぐっ……!?」
「ハル君!?」「ハル様!?」『っ!?』
二人の名前を聞き、思考を巡らせた瞬間、ハルは頭を抱えて後ろに倒れ込んでしまった。
「がっ……!? あぁ……!? ぐぅぅ……!?」
「ハル君!? どうしたの!? 落ち着いて……!」
クロハがハルを抱きしめる。
しかし、ハルは横になりながらも頭の痛みに耐えようと暴れまくる。
「わ、私、先生呼んできます!」
「お願い!」
イリンが医師を呼びに向かう。
数分もしない内に、医師を連れて戻ってきたイリン。
「先生! ハル君がっ!?」
「大丈夫。私に任せて」
そう言って医師は、クロハと場所を入れ替わり、ハルを抱きしめるようにして押さえ込む。
「精神の技能・精神安定波」
「ぐっ……!? うっ……うぅ……」
医師がハルに技能を使うと、ハルはゆっくりと落ち着きを取り戻していく。
そしてそのまま眠りに就いた。
「先生、ハル君は……」
「大丈夫。今はただ眠っただけです。じきに目を覚ましますよ」
「よかった〜……」
医師の言葉に、クロハや他の皆も安堵の表情を浮かべた。
☆ ♡ ☆
ハルが眠ってから数時間後。
ハルはゆっくりと目を覚ました。
「ん……んん……?」
「あ、ハル君!」
目を覚ましたハルに気がついたクロハが、椅子から勢いよく立ち上がる。
「私の事、分かる!?」
「え……? 何言ってるんですか? クロハさんですよね。分かりますよ……?」
「はぁ〜〜〜〜……! 良かった〜〜〜……!!!」
「うわっぷ!?」
クロハは、目元に涙を浮かべながらハルに抱きついた。
「ひょ、ひょっと、ふろははん!?」
クロハの爆乳に顔を圧迫されている為、ハルは上手く喋れない。
「よがっだ〜……! よがっだよぉぉ〜〜〜……!」
クロハがなぜこんなに泣いているのかが分からず、ハルは困惑していた。
そんなハルの元に──、
「わふっ!」
ミルルが加わった。
ミルルはハルの右腕に抱きつき、絶対に離さないと言わんばかりにガッチリホールドしている。
「あはは……これはしばらく離れないですね……」
そんな光景を見て、イリンが呆れたように小さく呟いた。
「ハル殿、我々の事は分かるか?」
「ぷはぁ! は、はい……。エリィさんにドゥーザさん。リアンさん、イリンさん、ミュリンさん……ですよね? クロハさんにミルルさん」
「うんっ! クロハだよ〜〜〜!」
「ミルルワン〜〜〜〜!」
「ぎゃぁぁぁぁぁ!?」
クロハとミルルが両方から抱きつき、大きな胸でハルを圧迫していく。
「今度はしっかりと覚えている……先程のはどういう事だったんでしょうか……?」
イリンが顎に手を当てて考え込む。
「よくは分からないけど、私達の事を覚えているんだからそれでいいじゃない。ね?」
「そうだな。リアンの言う通りだ。なんでさっきは覚えてなかったのか、気になることはあるけどよ、今はそれよりハル君が目覚めた事を喜ぼうぜ」
「そう……ですね。今は6日ぶりの再会を喜びましょう」
そうイリンが言うと──、
「ぷはぁ! む、6日ぶり!?」
二人の胸圧から抜け出したハルが、驚いたように言う。
「はい。ハル君は約6日間眠ったままだったんですよ」
「そ、そんなに……」
「そうだよ! だからずっと心配してたんだからねっ!」
「そうだワン!」
「す、すみません──ぎゃぁぁぁぁぁ!?」
再び二人の胸圧に包まれたハル。
いつまで繰り返すんだと、この場にいる全員が思っていた。
☆ ♡ ☆
なんとか二人を落ち着かせた後、皆はハルとの会話を楽しんでいた。
そんな中でハルが、クロハにとあるお願いをする。
「クロハさん」
「ん?」
「僕、一つお願いがあって……」
「何々! ハル君のお願いならなんでもしてあげるよ! ぱふぱふ? チューチュー? モミモミ? スリスリ? それとも、パ──」
「なんで全部エッチな方に持っていくんですかぁ!!!」
「ごめんごめん……!? つい妄想が暴走しちゃって……!?」
「それで? クロハちゃんにお願いって、なんですか?」
このままじゃ一向に話が進まないので、イリンが助け舟を出す。
「実は……僕、剣を習いたいんです」
「駄目です」
「え!? 今、なんでもしてくれるって……」
「エッチな事ならね。でも、危険な事なら許可はできない。戦いも剣も、全部駄目。もうハル君を危険な目に遭わせたくないから」
珍しく声を低くして答えるクロハ。
今回の一件で、ハルを失う恐怖を再確認し、ハルを戦場に出したくないと思ったのだろう。
「そんな……でも僕、どうしても剣を学びたいんです!」
「駄目なものは駄目です! もうハル君には、危ない事はさせません! ね、ミルルちゃんも同じ気持ちだよね?」
「ミルルは……ハル様の気持ちを優先させたいワン」
「ミルルちゃん!?」
ミルルなら同意してくれると思っていたクロハ。
しかし、ミルルはクロハの意見ではなく、ハルの気持ちに同意をした。
「ミルルは、ハル様と一緒に戦って分かったワン。ハル様の力はものすごく大事だと」
「で、でもさ! それでまた倒れちゃったら元も子もないじゃん!」
「そうワンけど……ハル様が剣を学びたいって言った時、倒れないようにする為なんだなと、思ったんだワン」
「え……? そ、そうなの……?」
「は、はい……。剣を使えば、倒れないで済むような気がしていて……。でも、剣を使った事があまりないので、できるならしっかりと学びたいなって……これ以上、皆さんに、クロハさんに心配をかけたくないですし」
「う〜ん……」
クロハは悩んでいた。
倒れないようにする為に剣を学びたい。その気持ち、思いは分かる。
でも、そもそもがダンジョンに行ったり、戦ったりしなければ倒れたりする可能性があるなどの事を考える必要がない。
でも、ハルの気持ちはできるだけ優先したい。
でも、危険な目には遭わせたくない。
色んな思いがクロハの中で渦巻いて、クロハは悩んでいた。
そんな時、エリィが口を開いた。
「ダンジョンにこれからも同行させるかどうかは一旦置いといて、一度剣を学ばせてみるのも、有りなんじゃないかな?」
「エリィさん……」
「幸い、剣を教えるのに相応しい人もいるからな」
「エリィさんですか?」
「いいや。ユズィだ」
☆ ♡ ☆
ハルが目覚めてから一週間後。
ハル、クロハ、ミルル、イリンの四人はロリスタンス王国へとやって来ていた。
エリィとドゥーザは、ハイルを見つけるまで帰国しないと誓ったのでショタリシアスで留守番。
リアンとミュリンは、そんな二人と共にダンジョンの捜索を進める為にショタリシアスへと残った。
「ハル君はロリスタンスは初めてだよね?」
「は、はい」
ハイルの時に来たことがある。とは、言えない為、ハルはぎこちなく頷いた。
「なんかここ最近、頻繁に両国を行き来しているような気がしますね」
イリンが苦笑混じりに呟く。
それもそのはず。イリンはついこの間、ロリスタンスに行き、帰ってきたばっかりだ。
「私もあんまり来たことがないんだよね……ショタリシアス以外、自分を受け入れてくれる国はないと思ってたから」
「同じ国でも、こんなに違うワンね……」
「クロハちゃん、ミルルちゃん……では、私がお城まで案内します! はぐれないようにしっかりとついて来てくださいね!」
「うん!」「はい」「ワンッ!」
少し暗い表情を見せながら独り言ちるクロハを見て、イリンはあえて明るく声を張り、三人を【ベイビルツー城】へと案内した。
【ベイビルツー城】へと到着した四人は、会議室へと通されていた。
「なんか最近、会議室にいる事が多い気がするね」
「ですね。報告ごとだったりが重なりに重なってましたからね」
会議室の中。
椅子に座るクロハとイリンは、苦笑交じりに話していた。
クロハの左側にミルルが座っていて、クロハの右側にハルが座っている。ミルルの左側にイリンが座っている。
「ごめんね〜待たせちゃって。別の会議が長引いちゃって〜」
そんな元に、国王であるエリアと側近であるトリタンが入室してきた。
部屋の最奥にある椅子にエリアが座り、エリアの左斜め後ろにトリタンが立つ。
二人が入室してきた際、四人は立ち上がる。
が、それを見たエリアがすかさず「座ってくれ」と言ったので、四人は戸惑いながらも座った。
「それで? 今日はどうした、の……って、何その可愛い子!!!」
「「っ!?」」
エリアが尋ねてきた理由を聞こうとした時、クロハの隣に座るハルが目に入り、興奮気味に声を上げた。
「エリア様、落ち着いてください。お二人が驚かれています」
「ご、ごめんごめん! でもさ! こんな可愛いショタ……ううん! 子供がいるんだよ!? 興奮しない理由ないよね!」
「全く……これだからショタコンは……」
全く落ち着かないエリアに、トリタンは呆れ気味に溜息をついた。
「それでそれで! この子はなんなの!」
「落ち着いてください、エリア様。この子はハル。この前話していた男の子ですよ」
「はぁ〜〜〜〜〜!!! この子が! う〜〜〜ん! 想像通り、ううん! 想像以上に可愛い〜〜!!! ねぇ、もっと近くで見ていい!? 触っていい!? 頭撫でていい!? 抱っこしていい!?」
エリアが椅子から降り、座っているハルに近づきながらまくし立てる。
ハルは顔を引き攣らせながら、椅子を徐々に後退させていく。
「あ、あの……」
クロハが止めに入ろうとすると──、
「落ち着きなさいって言ってるでしょう、がっ!」
「ぐげぇ!?」
トリタンがエリアの頭にげんこつを落とした。
「いだい……何すんのよぉ〜……」
「エリア様が暴走するからです。少年が引いているでしょう」
「あ……」
トリタンに言われ、ようやくハルが困惑している事を理解したエリア。
「ご、ごめんね……私、ちっちゃくて可愛い男の子を見ると、どうしても興奮しちゃって……」
(この人、クロハさんと同じ……? 若干危ない人なんじゃ……)
と、思いながらクロハを見る。
「ん? な、なんか変な事考えてない!?」
「…………別に」
「今の間は何!? 何も考えてないならなんで私とエリア様を交互に見つめてるのっ!?」
「あはは! 君にはどこか、私と似たものを感じるね〜!」
「…………光栄なはずなのに、なんでこんなに複雑なの……」
「ハル君、あの方はこの国、ロリスタンス王国の国王、エリア・ロリスタンス様です」
「こんなですが、一応国王です」
「トリタン!? こんなって何!? こんなって!?」
「うるさいです。少し黙りなさい」
「ひどい!? 一応、国王なのに!?」
「『一応』と言う自覚はあるんですね」
「うぐ〜〜〜〜〜!!!」
トリタンとエリアの会話。
それは国王と側近と言うものではなく、気の知れた友人と言った感じだった。
誰もいない時のデリアとリュークもこんな感じだろう。
「うぐ〜〜〜〜〜……」
「あ、あの……」
「んへぇ……?」
「は、初めまして……は、ハルと言います……」
「あっ!? は、初めまして! ロリスタンス王国の国王、エリア・ロリスタンスです! よろしくね!」
(な、なんか距離感が近いな……そう言えば昔会った時もこんな感じだったな……)
ハルはエリアの態度を見て、かつてエリアと会った時の事を思い出していた。
「それで、本日はどのようなご用件で? ただ少年を紹介する為、ではないですよね?」
トリタンがイリンに尋ねる。
それを受け、エリアが衣服を正し、椅子に座り直した。
これだとどちらが国王なのか分からない。
「あ、はい。実は一つお願いがございまして……」
「「お願い?」」
☆ ♡ ☆
「断る」
【セイス近衛騎士団】の訓練場へとやって来たエリア、トリタン、ハル、クロハ、ミルル、イリン。
訓練場にいた指南役のユズィに声をかけたエリア達。
そして、ここに赴いた理由である『お願い』をしたのだが……。
「そ、そこをどうか……!」
「何度も言わせるな。断ると言っている」
先程からハル、クロハ、イリンが頼み込んでいるのだが、ユズィの答えは『ノー』。
首を縦には振ってくれなかった。
「ど、どうしても駄目ですか……?」
イリンが涙目で訴えるも……。
「駄目だ。そもそも私は騎士団の指南役だ。その他の者を指南するつもりはない。それに、私は右腕と左足がない。そもそも指南役ですらする資格はないんだ。そんな私が剣を他の人に教えるなど、する訳がない」
ユズィは椅子に座った状態で、騎士団員達の訓練を見ながら言う。
「そう、ですよね……。すみません……、急にこんなお願いをしてしまって……」
ハルが項垂れながら謝罪をする。
そんなハルを横目に見るユズィ。
「き、君の実力は確かなものだ。それは認めている。だが、いや、だからこそ、なんで剣を学びたいんだ。君には特別な力があるだろう?」
「それは、その……」
「何か言えない事情があるのか……。剣を学びたいと言うが、君は剣の基礎はあるのか?」
「す、少しだけですが……とりあえずの扱いなら……」
「むぅ……」
思案するユズィ。
ハルを指南するか否か。迷っているのだろう。
「ユズィ、別に指南くらい──」
エリアが助言をしようとした時──、
「ユズィさん、教えるくらいいいじゃないですか」
「っ、リュミ……」
ユズィの妻であるリュミが入ってきた。
「騎士団であろうと、そうでなかろうと、あなたに指南して欲しい人がいる。だったら、教えてあげればいいじゃないですか。戦えなくても教えることができる。そう言って騎士団の指南役を引き受けたのはあなたでしょう?」
「うっ……そ、そうだな……」
「だったら、ワガママ言ってないで教えてあげなさいな」
「はい……」
ユズィはリュミの言葉に素直に頷き、ハルに向き合う。
「君に剣の指導をしよう。だが、子供だからと言って手を抜いたり、甘やかしたりはしない。剣は戦闘の為であり身を守る為の手段だからな」
「は、はい! よ、よろしくお願いします!」
「よかったですね、ハル君!」
「あんまり危険な事はしてほしくないんだけど……」
ユズィに弟子入りを許可され、喜ぶハルとイリン。だが、クロハだけは複雑な表情を浮かべていた。
「では、明日から特訓を開始する。遅れるなよ?」
「は、はい! よろしくお願いします!」
ユズィとハルのやり取りを、エリア、トリタン、リュミ、イリン、ミルルの五人は微笑ましく見つめていた。
しかし、クロハだけは一向に浮かない表情だった。
ようやく目を覚ましたハル。
しかし、記憶の混濁があるようで……?
ハルの記憶が今後、どう関わってくるのか。
ハルは今後、魔法を使わずに済むのか。
謎が深まっていく展開ですが、話が進むにつれてどんどん明らかになっていきますので楽しみにしていてくださると嬉しいです!
「面白い!」「続きが気になる!」と少しでも思っていただけましたら、ブックマークなどしていただけますと、とっても嬉しいです……!




