第31話 10階層の捜索/ダンジョン喫茶
「それでは行ってまいります」
「えぇ。気をつけてね」
「はい。…………───、ヒメリは?」
「部屋で仕事中。不貞腐れてイライラを仕事にぶつけてるみたいだね。まぁ、俺がフォローしとくよ」
「ありがとう。……………」
「そんなに心配しなくても平気よ。それこそ、あなたにそこまで心配されるほど、ヒメリちゃんもヤワじゃないんじゃない?」
「うっ……確かに。では二人共、この国を頼みます」
「えぇ」「あぁ」
エリィは母親であるエリアと、実弟であるエリドに挨拶をし、馬車へと向かった。
「義兄さん、姉さんを頼みます」
「うん。任せて。エリィの事は僕が守るから」
ドゥーザも挨拶を告げ、馬車へと向かった。
そして、リアン、イリン、ミュリン、エリィ、ドゥーザの五人はショタリシアス王国へと向かった。
☆ ♡ ☆
ショタリシアス王国へ到着した一行。
一度王城へ向かい、帰国した事などを伝えた後、ギルドへと向かった。
「あ、皆さん!」
ギルドに入ると、そこにはクロハとミルル、セシリアがおり、五人に気がついたクロハが声を上げ、三人が駆け寄ってくる。
「お帰りなさい!」
「クロハちゃん、ただいま!」
イリンが嬉しそうに返事をすると、リアンとミュリンもそれに続いて──、
「ただいま戻りました」
「ただいま」
と言った。
そして、エリィ達の方にクロハが視線をやろうとした瞬間──、
「エリィ! お帰りワンッ!」
「あはは! ミルル殿、ただいま。元気にしてたか?」
「うん! ものすごく元気ワンッ! クロハさん達と一緒にダンジョンに行ったりしてたワンッ!」
「そうか! それは良かった!」
ミルルがエリィに勢いよく抱きつき、頬をエリィの胸に擦り付ける。
クロハ達が【ベイビルワン城】へ向かった日、ミルルはエリィと留守番をしていた。
そこで、エリィは話しかけてもらえるまで待とうとあえて自分からは話しかけなかった。
それがミルルにはちょうどよかったのか、ミルルから積極的に話しかけるようになり、クロハ達が帰ってきた時には、ミルルはすっかりエリィに懐いていた。
しかも、クロハにですら「さん」付けなのに、エリィの事は呼び捨てにしている。
クロハは、二人が仲良くなってくれた事はとても嬉しいが、呼び方に関しては複雑な思いを抱いていた。
「エリィエリィ!」
「ん? どうした?」
「ダンジョンで起きた事、聞いて欲しいワンッ!」
「あぁ、もちろんだ。いくらでも聞くぞ」
「やったワン♪ えとねえとねぇ〜!」
ミルルはとても嬉しそうに、楽しそうにしながらエリィを近くの冒険者達が座ることのできる椅子にまで連れて行った。
「すっかり仲良くなりましたね」
リアンが、少し離れた席で楽しそうに話す二人を見て微笑みながら言う。
「だな。少し前まではめちゃくちゃ警戒してたのに」
ミュリンも微笑みながら、二人を見ていた。
「まぁ、クロハちゃんからしたら複雑でしょうけど……」
「ん〜? そんな事ないよ〜? 二人が仲良くなってくれてすっごく嬉しいよ〜……?」
「顔と言葉が一致しないんですけど……」
イリンの言う通り、クロハは嬉しいと言いながらも、唇を尖らせ少し不服そうな表情を浮かべていた。
「だって〜……私の事はまだ『さん』付けなのに、エリィさんの事は呼び捨てで呼んでるんだよ……!? 私の方が先に出会ったのに……仲良くなれたと思ってたんだけどなぁ……」
「まぁ、呼び方って結構気になりますよね。敬称があるかないかで関係性も大きく変わってきたりしますからね。でも “呼び方なんて単なるコミュニケーションの一種。真の友情に肝心なのはそこじゃない” ですから」
「イリンちゃん……めちゃくちゃいいこと言う!」
「あはは……まぁ、ハイルの受け売りなんですけど」
「ハイルさんの?」
クロハが首を傾げ尋ねると、リアンとミュリンが会話に加わってきた。
「やっぱりな。どこかで聞いた言葉だと思ったわ」
「ハイルが前に言ってましたね。呼び方なんて人それぞれでいいと。自分の呼びたいように呼べばいいと。仲良くなるのに、呼び方なんて大した壁にならないと」
「うん♪」
「ハイルさんが……」
三人の会話を聞いて、クロハは感銘を受けていた。
ハイルの言った言葉がとても心に刺さり、感動したからだ。
クロハは直接、ハイルと会った事も話した事もない。
ただ、英雄パーティーのすごい人、と話で聞いた事しかなかった。
その為、ハイルの仲間である三人からこうやって話を聞けるのは、とても貴重だった。
「あれ? そう言えばクロハちゃん達はどうしてここに? 何かあったんですか?」
「特に何かあった訳じゃないんだけど、ダンジョンの九階層まで捜索が終わったから、その報告にね」
「きゅ、九階層!? たった一日程度でそこまで進んだんですか!?」
「うん。全然モンスターが現れなかったから、スムーズに進んだんだ。…………不自然なくらいにね」
「「「っ!?」」」
クロハの最後の言葉に、リアン達三人は息を呑む。
「私達が進む先進む先、どこにもモンスターが見当たらなくてさ。まぁおかげで捜索はしやすかったんだけど、不気味でさ。今日はそこの報告も含めて来てたんだ。次から十階層になるから」
「なるほど……確かに、モンスターが一切現れないのは不気味ですね」
イリンが杖を持ち、頷きながら呟く。
「それに、次から十階層と言うことは、あれですよね?」
「うん。フロアボスがいる」
フロアボス。
それは、1〜10までが一つのフロアとなっており、その最終地点である十階層には、そのフロアで最強のモンスターが次の階へ進む扉を守っている。
それがフロアボスだ。
1〜10。11〜20。21〜30。31〜40。41〜50。51〜60。61〜70。71〜……。
このような感じでフロアは設定されている。
ちなみに、ハイル達はB級モンスターが出現するのは十階層からだと思っているが、実際は三十階層からである。
一階層〜十九階層まではD級のモンスターが。
二十階層からD〜C級のモンスターが。
三十階層からC〜B級のモンスターが。
四十階層からB級のモンスターが。
五十階層からB〜A級のモンスターが。
六十階層より下からA級のモンスターが出現する。
よって、トライデントランサータウロスやダークサンダーウルフなどのB級のモンスターが本来上の階層にいるはずがないのだ。
「クロハちゃんは、ダンジョンはどの階層まで?」
「一応、五十階層までは進んだよ。でも、フロアボスに挑戦しようと準備を整えようかと思ったら別の仕事が入っちゃって、メンバーが遠征に行っちゃったんだ」
「なるほど……でも、五十階層まで行ってるのはすごいですね。私達は十階層をやっと突破したばっかりなのに」
「あれ? ハイルさんがいたらもっとスムーズなんじゃ?」
「私達の実力に合わせてくれたみたいです。無茶をして命を落としたりする訳にはいかないと」
「すんげぇ過保護だったよな!」
「私達が先を急ごうとしたら、ものすごい剣幕で怒ってきましたからね」
「まぁ、それだけハイルが私達を心配してくれてたって事なんですけどね〜」
ハイルの事を思い出しながら話す三人。
そんな三人を見てクロハは──、
(やっぱり、ハイルさんてすごい人だなぁ。こんなにもメンバーに慕われてて、大切に思われてる。なんか、みんなに会いたくなってきちゃった。みんな元気にしてるかな〜)
と、遠征中のパーティーメンバーの事を思っていた。
「じゃああれですか? この後フロアボスを倒しに行く感じですか?」
「ううん。今日は戦闘はやめようと思って。一日ずっとダンジョンに潜りっぱなしだったからね。体を休めようって、セシリアさんとも話したんだ」
「なるほど。あ、じゃあ今から喫茶店に行きませんか?」
「「喫茶店?」」
イリンの提案に、クロハとセシリアが首を傾げる。
「はい! ものすごく美味しいコーヒーを出してくれる喫茶店を知ってるんですよ〜♪」
「あ〜あそこか」
「確かに、あそこのコーヒーは絶品ですね」
「え……みんな知ってる感じ……?」
「私達、多種多様の集まり御用達のお店ですから♪」
「まぁ、ハイルのお気に入りのお店を紹介してもらっただけなんだけどな〜」
「ハイルさんの!? イリンさん! 是非とも連れて行ってくださいませんか!」
「う、うん……も、もちろん……」
ハイルのお気に入りと聞いた瞬間、セシリアの様子が変わり、イリンの手を取り、激しく上下に振りながら喫茶店へ向かうことを懇願した。
元々連れて行くつもりだったので、イリンは若干引きながらも頷いた。
「では、皆さんで行きましょうか」
「はいっ!」
「あはは……ミルルちゃん! エリィさん! 行きますよ!」
「は〜い!」「了解した」
クロハがミルルとエリィを呼ぶ。
二人は手を繋ぎながら、クロハ達と合流し、イリン達がよく利用すると言う喫茶店へと向かった。
☆ ♡ ☆
「それでえっと……? なんでダンジョンに? 私達、喫茶店に行くんじゃ……?」
喫茶店へと向かうためにギルドから移動を開始した一行は、ダンジョンの入口に来ていた。
なぜダンジョンにやって来たのかが分からないクロハ、ミルル、セシリア、エリィ、ドゥーザの五人は首を傾げていた。
クロハがそう尋ねると、イリンが代表して答えてくれた。
「私達の行く喫茶店が、この中にあるから、ですよ♪」
その答えに、さらに首を傾げるクロハ達だった。
ダンジョンに入り、十階層へと向かう。
転移石と呼ばれる物があり、それは一度だけ、目的の階層にまで転移できる言う優れもの。
リアンが転移石を地面に落として砕く。
すると、リアン達の足元に転移技能陣が出現。
「十階層」
と、リアンが言うと、転移技能陣が光りを放ち、一行は姿を消した。
次に一行が姿を現したのは、十階層だった。
「こんな所に喫茶店なんてあるのか……?」
エリィが不安そうに呟く。
「そう思いますよね。普段は見えないようにカモフラージュされてるんですよ。なので、パッと見はただの岩壁のように見えるんですが」
歩きながら説明をするイリン。
「んですが」の時に足を止め、ただの岩壁の前で手をかざす。
「多種多様の集まり」
手をかざしたイリンがそう呟くと、岩壁がみるみる内に変化し始め、建物が出現した。
「「「「「えぇ〜……!?」」」」」
まさかの出来事に、五人は目を見開き、言葉を失っていた。
「さっ、入りましょう♪」
イリン先導の元、一行は喫茶店の中へと入って行った。
喫茶店の名前は『アクア』。
イリン達が店内に入ると、そこはただの岩壁へと戻った。
☆ ♡ ☆
「いらっしゃ〜い。あら、久しぶりじゃん!」
建物の中に入ると、カランカランと言う鈴の音が鳴り、カウンターの中にいた女性が扉の方を見る。
入ってきたのがイリン達だと分かると、満面の笑みを向けてくれた。
「お久しぶりです、マリナさん」
喫茶アクアの店主『マリナ・マーシー』。
元S級冒険者。
二人チームのパーティーを組んでおり、パーティー名は『アクア』。
冒険者を引退した後もパーティーの名前は大事にしたいと言う事で、喫茶店の名前を『アクア』にした。
パーティーメンバーだった人と結婚しており、現在はお腹に子供を授かっている。
現役時代に、引退するのは妊娠してからと宣言しており、25歳になり妊娠をしたので宣言通り引退をした。
元々喫茶店を営むのが夢だったので、イシュに店舗を探してもらい、地上のお店とダンジョン内のお店の二つを経営している。
基本的にはダンジョン内の店にいる事が多く、地上の店舗は営業している日がほとんどない。
夫は冒険者を続けてはいるが、薬草採取などの安全な依頼しか受けない。
それは、妻と子供を守る為だった。
そして、薬草などを採取すれば喫茶店に役立てられるから。
カウンター席に座ったリアン、イリン、ミュリン。
テーブル席に座るクロハ、ミルル、セシリア、エリィ、ドゥーザ。
「あ。タバコやめたんですか?」
「ううん。禁煙してるだけ。お腹の子供の為にも禁煙しなさいってお医者様に言われちゃってね〜。もうニコチン不足で大変よ〜」
「マリナ姐さんがタバコ吸ってないとか、私、怖くて近づけないわ」
「ちょっとミュー? それは聞き捨てならないわね?」
「だって姐さん、遠征でタバコなくなった時、めっちゃ不機嫌でしまいにはイライラを私達にぶつけてきたじゃんか!」
「あはは〜そんな事もあたね〜懐かし〜」
「おい、棒読みやめい」
ミュリンに指摘され、マリナは頬を掻きながら苦笑いを浮かべた。
「ワイドさんは?」
「今、地上に買い出しに行ってくれてる。冒険者の仕事もあるんだから無理しなくていいって言ったんだけどさ、『赤ちゃんのいるお前こそ、無理はするな』って言われて、反論できんかったね〜! あはは!」
「仲がいいですね」
イリンは、マリナの話を聞いて羨ましそうに微笑んだ。
「あれ? ハイル君は? いつも一緒だったでしょ? それに、後ろの方々は初めましてだよね?」
マリナが、この場にいないハイルの事を気にし、その後、テーブル席に座るクロハ達を見てイリン達に尋ねる。
「あ、そうでした。まず紹介しなきゃですね。今、とある調査で行動を共にしている方々なんです」
イリンがそう言うと、テーブル席にいるクロハ達が順番に自己紹介を始める。
「初めまして。普段は【聖なる女守護団】と言うパーティーで活動している、クロハと言います」
「初めまして。ソロで冒険者をしています、セシリアと申します。ハイルさん御用達の喫茶店に来られて、感無量です……!」
「私はロリスタンス王国のギルド【ツインヘル】で【セイヴァー】と言うパーティーのリーダーを務めています、エリィ・ロリスタンスと言います。よろしくお願いします」
「同じく【セイヴァー】に所属している副リーダーのドゥーザ・ロリスタンスです。エリィの夫です」
と、四人が自己紹介をする。が、ミルルだけは下を俯いて声を発しない。
それを見たクロハが、代わりにミルルを紹介する。
「この子はミルル。犬人族の女の子です。人と敵対したりする気はないんですけど、人が苦手で、心を許した人にしか話をしてくれないので、この態度は許してあげてください」
「もちもち。いやぁ〜まさか犬人族と会えるなんてね〜。この国で暮らしてるから色んな種族と会ってきたけど、犬人族は初めてだから嬉しいわ〜♪ 急かさないから、ゆっくり慣れていってね、ミルルちゃん♪」
「っ」
小さく頷くミルル。
クロハの服の袖を、ギュッと握っている。
「んで? ハイル君は? どうして彼がいないのよ」
「あ〜……それは……」
「ん?」
イリンが代表して、ハイルについてマリナに話をした。
☆ ♡ ☆
「ちょっとダンジョン潜ってくるわ」
「駄目〜〜〜〜〜!!! マリナさんっ! 落ち着いて! その体でダンジョン探索は危険ですってばっ!」
「そうだぜ姐さんっ! お腹の赤ちゃんの事考えてくれっ!」
「ワイドさんに叱られますよっ!」
イリン達から話を聞いたマリナは、話を聞きながらどんどん真顔になり、そしてどんどん怒気を全体に纏わせていった。
そして、話を聞き終えた瞬間、マリナはカウンターから出て、ダンジョンに向かおうとした。
それを、リアン、イリン、ミュリンの三人が必死に止めていた。
「離しなさい……! 私はハイル君に助けられたのっ! そんな彼が助けを求めてるなら、今度は私が助ける番でしょうがっ!」
三人の制止を振り切ろうとするマリナ。
冒険者を引退し、さらにはお腹に赤ちゃんを抱えている身なので、危険な真似はさせられない。
どうにかして暴走を止めようとしていると──、
「赤ちゃんがいるのに、危険な事しちゃ駄目ワンッ!」
ミルルが扉の前に立ち、両手を大きく広げて行く手を阻みながら声を上げた。
「ミルルちゃん……」
そんなミルルを、クロハはどこか嬉しそうに見つめていた。
「赤ちゃんは……赤ちゃんはすっごく大切なんだワン……! 乱暴に扱ったりしちゃいけないんだワンッ! それに、大事な命なんだワンッ! あなたのその体には、一つの命が宿ってるんだワンッ!」
「あ……」
ミルルのその言葉に、マリナがハッとする。
すると、カウンターの脇にある別の扉が開いた。
「彼女の言うとおりだ、マリナ」
「ワイド……」
その扉から入室して来たのは、マリナの夫であるワイドだった。
「君の体は今、君だけのものじゃない。新たな命を授かっているんだ。だから、今までみたいに考えなしに行動してはいけない」
「……………そうだね……。ごめん、冷静さを失ってた。ミルルちゃん」
「…………」
「大事な事、気づかせてくれてありがとう!」
「っ! ワフ……///」
ミルルは、マリナが向けてきた笑顔に照れ、クロハの元へと向かい、クロハの膝にダイブした。
「あはは。照れ屋さんなんだから」
「ワフ〜〜〜///!」
「マリナ」
「ん?」
「もっと自分の体を大事にしてくれ。じゃなきゃ、俺は君の側から離れられない」
「うん。ごめん。ちゃんと大事にする。だからもう心配しないで。あ、でも。どこにも行かずにずっと側にいてくれるのはいいんだよ? 仕入れは依頼を出したりすればいいんだから♡」
「そ、それは……その……」
「あははっ! ワイド照れてる〜! もう寡黙でクールなくせにこういう所は可愛いんだからっ♡ 好きよ、あなた♡」
マリナはワイドの頬にキスをする。
「俺も好きだ、マリナ」
ワイドもマリナの頬にキスをする。
「えへへ〜♡」
そんな甘いやり取りを見せられた皆は──、
「あの〜そろそろコーヒーをもらってもいいか?」
「あ、そ、そうよね! 今淹れるわ! みんなコーヒーでいい?」
『はい!』
顔を真っ赤にしながら、マリナはコーヒーを淹れ始めた。
ワイドは厨房に回り、料理を開始する。
「さぁ、召し上がれ!」
しばらくしてコーヒーが出てきた。
皆はそのコーヒーを飲み、口を揃えてこう言った。
『美味っ!!!』
と。
「えへへ〜! ありがとっ!」




