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第30話 報告会/エリィの決断

「なるほど……謎の少女が……」


 ユズィから報告を受けた一同。


 その報告を聞いたエリアは、口元に手を当てて難しい表情を浮かべていた。


「人を二人、一瞬で殺害できるほどの実力を持ち、騎士団の団長に重傷を負わせる力を持つ謎の少女……少女とは、具体的にどのくらいの年代で?」

「そうですね……見た目的には十歳くらいなのですが、本人は十五歳を超えた大人だと。君達『人間』のと言っておりました」

「『人間』の……まるで自分は人間ではないかのような言い草ね……」

「あの強さ……恐らくは人間ではないでしょう」

「では、モンスター?」

「モンスター……とも言えないような感じはします」

「そう……」


 流れていく会議に、リアン達はただ黙って聞いている事しかできなかった。


「それに、助けに来た少年と犬人族の少女の事も気になるわ。犬人族って基本的に人間とは行動を共にしないのではなかったかしら?」

「えぇ。私もそう記憶しております。なので、目の前に少年と共に現れ、逃げた少女の代わりに出現したモンスターを共に撃退した時は、本当に驚きました」

「モンスターはA級、だったのよね?」

「はい。A級のブラッドタウロスでした。本来であればA級冒険者が複数で立ち向かい、討伐する相手です。それを、犬人族の少女とハルと名乗る少年は、たったの二人で倒してしまった」

「そう……とりあえず、謎の少女の事は要注意で、危険がない範囲で調査することにしましょう」

『はい』


 エリアの言葉に、全員が返事を返す。


「それで、ハルと言う少年の事だけど、リアンちゃん達は知ってるのよね?」

「は、はい!」


 急に話を振られたため、リアンは裏返った声を上げながらも、なんとか返事をした。


「そのハルと言う少年の事、教えてもらってもいい?」

「も、もちろんです! ハルさんは、クロハさんと言う冒険者の方と共に過ごしている男の子です。なぜかダンジョン内で倒れていたらしく、そこをクロハさんが発見し、救助したとか」

「ダンジョンで……ダンジョン()(みん)と言うこと?」

「すみません。そこまで詳しくは……」

「ううん。気にしないで。でも、もしダンジョン遭民だとしたら、警護院とかで保護するのが普通なのだけど……」

「それは……クロハさんが許さないだろうな……」

「ですね……」


 ミュリンとリアンが苦笑いを浮かべながら言う。

 次いでイリンが──、


「クロハちゃん、ハル君にゾッコンですから」

「あらまぁ! そうなの〜! それは素敵ね〜! ねぇ、トリタン!」

「はい」

「ハルと言う子はどんな少年なの? ものすごく気になるわ!」

「ハル君はですね〜……」


 厳格な報告会であるはずが、ハルの話になった途端、厳かな空気がなくなり穏やかなものになった。

 その空気になり、エリィやドゥーザ達はフッと一息つき、紅茶を飲みながらハルの報告が終わるのを待った。


 ☆ ♡ ☆


「あ〜会ってみたいわね〜! 今度連れてきてくれないかしら!」

「はい♪ もちろんです♪」

「まぁ、目覚めてくれれば、ですが」

「え?」


 リアンの言葉に、エリアが戸惑った顔を浮かべる。


「彼は今、意識を失っており、治療院に入院しているんです」

「そ、そうだったの……ご、ごめんなさい……そうとは知らずに私ったら、一人で騒いで……」

「い、いえ……! そんな、気にしないでください……! 先にお伝えしてなかった私が悪いので……!」

「ありがとう……でも、意識を失ってるって事は、ブラッドタウロスとの戦いで重傷を負った、と言う事よね?」

「いえ。それが違うんです」


 イリンが答える。


「ハル君とミルルさん……犬人族の少女の事です。二人は無傷でブラッドタウロスに勝利したと聞きました。ですよね、ユズィさん」

「あぁ。その通りだ」

「では、なぜ?」

「なぜなのか、理由はよく分からないのですが、ハル君は頭を押さえ、苦しそうに倒れて意識を失ったと。クロハちゃんは先生から何かお話を聞いていたようでしたが……それを私達が聞いていいものなのかどうか……」

「それは……そうね……」

「すみません。曖昧な答えで──」

「全く、そんな曖昧な答え、誰も求めてませんの」

「この声は……!」


 イリンの言葉を遮り、入室しながら悪態をついてきたのはエリィの義理の妹で、第一王子の婚約者、ヒメリ・ロリスタンスだった。


「全く……部屋で仕事をしていろと言っておいたのに……」


 ヒメリの姿を見た瞬間、エリィは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。


「相手がどう思おうと、そういう大事な事は聞かなければなりませんの。そんなの、冒険者として当然ではないんですの?」

「す、すみません……」


 ヒメリの詰めに、イリンは申し訳なさそうに俯く。

 そんなイリンを見て──、


「ヒメリ! いい加減にしないか! 全くお前はいつもいつもいつも! 口が減らないと言うか口うるさいと言うか! そもそも重要な会議に参加はするなと、いつも言っているだろう! 今日だって部屋で仕事をしていろと、口酸っぱく言っていただろう!」

「で、でもお義姉(ねえ)様……! 私はお義姉(ねえ)様が心配なんですの! いつも冒険者として活動していて怪我をしないか、命の危機に遭わないか、とても心配なんですの! それに、私だってもうこの国に関わる王族ですの! 国に関しての話なら心配になりますの!」

「お前に心配されるほど、この国はヤワではないわ!」

「っ!?」


 エリィのその言葉に、ヒメリは悲しげな表情を浮かべる。


「え、エリィ……ちょっと言い過ぎだよ。ちょっと落ち着いて。ヒメリちゃんも、エリィの気持ちは分かってるよね?」

「ふ、ふん! そ、そんなのあなたに言われなくたって分かってますの!」


 そう言ってヒメリは、部屋を出ていった。


「はぁ〜……。我が義妹(いもうと)がすまない……」

「い、いえ……」

「エリィ? ヒメリちゃんだけのせいにしちゃ駄目だよ? エリィも酷い事言ったんだから、反省しなきゃ」

「うっ……あ、あぁ、分かってる……」


 エリィはドゥーザには弱いのだと、再認識した全員だった。


「なんか緩んでた空気が引き締まった感じね。もし他に報告がなければ終わりにしようと思うけれど、何かある?」


 と、エリアが尋ねると、イリンが手を上げた。


「あら、イリンちゃん。ハル君以外にも何かあるの?」

「は、はい……あの……は、ハイルの事です……」

「「っ!?」」


 イリンがそう言った途端、リアンとミュリンは息を呑んだ。


 ハイルの事。


 ロリスタンスにもハイルの事は報告していた。

 が、それはあくまで『ハイルが行方不明になった』と言う事のみ。

 元々の報告であった『ハイルがガイルを殺そうとした』事すら報告していないのに、いきなりハイルが『ガイルに刺し殺された』事を報告する事になり、さらに『S級モンスターの出現が虚偽である』と言う事も合わせて報告する事になってしまう。


 リアンとミュリンは、エリア達が、何よりエリィがどんな反応をするのかが怖くて仕方がなかった。


 イリンは、ゆっくりと口を開きハイルについての報告を行った。


 ☆ ♡ ☆


「まさか、ハイル様が殺されたなんて……!」


 エリアは机に肘を突き、額を手で押さえ俯いていた。


「ご報告が遅れ、大変申し訳ございません……!」


 イリンは先程から何回も謝罪を繰り返していた。


 自分だけは先に真実を知っていた事も伝えた。

 なので、罪悪感があり、イリンは俯いたまま謝罪を述べ続けていた。


「イリン殿」

「は、はい……!」


 そんな中、エリィがイリンの名を呼ぶ。

 その声は低く、怒っているような声音だった。


「ハイル様のご遺体などは、確認されたのか?」

「い、いえ……! これまでダンジョン内を捜索してきましたが、ハイルの遺体は発見されていません……! それに、ハイルの所持品なども発見されていません……!」

「なら、まだハイル様が生きている可能性はある、と言う事だな……?」

「は、はい……!」

「そうか……!」


 エリィは、大粒の涙を流す。

 その涙が紅茶の中に入り、水紋となって広がった後、エリィは立ち上がり──、


「私は決めた! 明日にでも私は再びショタリシアスへ向かうと! そして、ハイル様を必ず見つけ出す! お母様!」

「な、何かしら……?」


 エリィの圧に、エリアは押されながらもエリィの言葉に耳を傾ける。


「私は、ハイル様を見つけ出すまで、ロリスタンスには帰りません!」

「「「「っ!?」」」」


 エリィのその発言に、リアン、イリン、ミュリン、ユズィの四人が目を見開き驚く。

 しかし、エリア、トリタン、ドゥーザの三人は全く驚いた様子は見せず、むしろ軽く微笑んでいる。


「エリィならそう言うと思ったわ。いいわ。あなたの気が済むまで、いいえ。ハイル様を見つけ出すまでショタリシアスで思いっきりやって来なさい。その代わり、ハイル様を見つけ出すまで帰国は一切許しませんから」

「お母様……ありがとうございます……!」

「もちろん、僕もついて行くからね」

「ドゥーザ!? し、しかし、ついて来たらお前まで帰国できなくなるんだぞ……!?」

「うん。分かってるよ。前に言ったこと忘れちゃった? 僕は、エリィがどんな選択をしても、どんな道を選んでも、必ず側にいるって。必ず一緒に進むって。だから、ショタリシアスへ行くって言うなら、僕も一緒に行く」

「ドゥーザ……ありがとう……!」

「トリタン、関係各所へ至急、S級モンスターの出現は虚偽だったと報告してちょうだい。それと、ハイル様の事に関しても報告をお願い。頭でっかちな馬鹿共がいたらシバいていいから」

「畏まりました」


 エリアから指示を受け、トリタンは部屋を出ていった。


「さて、他に報告はあるかしら?」


 エリアが見渡すと、全員が首を横に振る。


「そう。じゃあ、報告会はこれにて終了。あ〜、一気に情報が入ったから頭パンパンだわ。これは一回リフレッシュしないと駄目ね。リアンちゃん達は客室をしっかりと用意してあるから、今日はそこに泊まってね」

「「「はい! ありがとうございます!」」」

「じゃ、解散。あ〜疲れたわ」


 そう言いながら、エリアは部屋を出ていった。


「エリィ様、あの……」

「イリン殿、あなたは何も悪くない。だから、気に病むな」

「は、はい……」


 イリンは、部屋を出ようとするエリィに近づき、謝罪をしようとした。

 が、それを遮り、エリィが励ましの言葉を送った。

 それを受けても、イリンの心が晴れる事はなかった。


 ☆ ♡ ☆


 報告会を行った日の夜。


「はぁ〜……」


 自室のベランダで、エリィが空を眺めていた。

 赤色の半袖短パンと言う、シンプルなパジャマ姿で。


「夜は冷えるよ?」

「ん? ドゥーザ。ありがとう」


 そんなエリィに、ドゥーザが少し薄手のひざ掛けを肩にかける。


 ドゥーザは、エリィと同じデザインのパジャマで色はオレンジだった。


 エリィの隣に立ち、空を見上げるドゥーザ。

 そんなドゥーザにエリィが、優しい声音で語りかける。


「本当によかったのか? 私と一緒に来て……。この国にしばらく帰って来れないんだぞ……?」

「もちろん、いいに決まってる。僕はあの日、一生エリィの事を支えよう、側にいようって決めたんだ。だから、エリィが決めた事なら、僕はなんだって受け入れるよ」

「それは嬉しいけど……それだと、ドゥーザの自由を奪っている事にならないか……? 私との時間だけじゃなく、他にももっと──っ!」


 ドゥーザがエリィの頬を両側から優しく圧迫する。


「あはは。エリィ、オクパーみたい」

「ひ()()()うな……! おまえ()やっ()()ろ」

「そうだね。ごめん。でも、こうしてエリィの言葉を遮りたいくらい、あの続きは聞きたくなかった」

ふぅ(ドゥ)()……」

「エリィが僕の事を考えてくれているのはすごく嬉しい。でもね、僕は好きで君と一緒にいるんだ。好きで君に人生を捧げると決めたんだ。これは、僕自身の決断なんだ。だから、僕の自由を願うなら、エリィは何も言わず、僕が一緒にいる事を許して? エリィといる事が、僕にとっての一番の自由だから」

「……………わ()()

「ありがとう」


 ドゥーザはエリィの頬から手を離す。


「全く。ドゥーザは本当に私の事が好きだな」

「うん。大好きだよ。世界一、ううん、宇宙一愛してる」

「ぐっ……お前は昔から、本当そういう事を恥ずかしげもなく言えるよな……!」

「だって、思った時に、言える時に言っとかないと。後になって後悔しても遅いんだから」

「そ、それはそうだが……」

「エリィは? 僕の事、好き?」

「そ、そんなの、言わなくても分かるだろう……」

「ううん、言ってくんないと分かんない」


 そう言って、ドゥーザはエリィの顔を真正面に持っていき、目と目を合わせる。


「い、今顔を見るな……は、恥ずかしい……」

「照れてるエリィも可愛いよ」

「う、うるさい……!」

「僕はエリィの事が好き。大好き。愛してる。エリィは?」

「わ、私だって……」

「ん?」

「………………あ〜もう! 好きだ! 大好きだ! 宇宙一ドゥーザの事が大好き──っ!」


 ドゥーザはエリィの唇を唇で塞ぐ。


「っ……不意打ちは卑怯ではないか?」

「ふふ、エリィが可愛いのが悪い」

「むっ。人のせいにするとは。だったら、私だって!」


 今度はエリィからドゥーザの唇を唇で塞ぐ。


「っ。どうだ? 不意打ちは卑怯だと分かっただろ?」

「う〜ん、来るって宣言をされたから不意打ちではなかったかな?」

「屁理屈を……! もういい! ドゥーザとはもうキスしてやんない!」

「ごめんごめん。うん。不意打ちしてくるエリィ、可愛かったよ」

「可愛いと言えばなんでも許されると思ってないか? お前は……」

「可愛いって、言われたくない?」

「む、昔は嫌だったが……今は……」

「今は?」

「う、嬉しい、な……。特に、ドゥーザから言われるのは……」


 そっぽを向いたエリィを、ドゥーザは後ろから優しく抱きしめる。

 月明かりが二人を照らし、まるでそこは二人だけのステージのようだった。


「エリィ」

「ん?」

「大好きだよ」

「あぁ。私も大好きだ」

「愛してる」

「わ、私も……」

「私も?」

「私も、あ、あい、あい……」

「ん?」

「くっ……これで許せ!」


 エリィは再びドゥーザの唇を塞ぐ。


「ありがとう。ごめんね、意地悪して」

「いや、私の方こそすまない。たった一言なのにずっと言えず……」

「ううん。いいんだ。エリィのタイミングで、エリィが言えるなって思った時に言って」

「あぁ。ありがとう」


 二人は、月明かりに照らされながら、お互いの愛を確かめ合うように口づけを交わした。

※『オクパー』とは『オクトパス:タコ』の事です。

 異世界ではあるので、あえて名前は変更してあります。


 ここ数話、ラブ要素強めですみません……!

 次話からは……おそらくは大丈夫だと思います。

 重たい展開が来る前の箸休めだと思って、お読みいただけますと幸いです……!

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