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第28話 真実の報告/国王の優しさ

「はぁはぁはぁ……!」


 薄暗く狭い路地裏。

 そこを、焦燥の表情を浮かべて一心不乱に走る男がいた。


(ふざけんな……! ふざけんな……! なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけねぇんだ……!!!)


 その男とは、ガイルだった。


 大量の汗を額に浮かべ、激しく息を切らしながら後方や頭上を気にして走っている。

 疲れてきているのか、走る速度はどんどん減速していた。


「はぁはぁはぁ……こ、ここまでくりゃ、とりあえず平気、か……?」


 ギルドからかなり離れた場所で、ガイルは足を止め呼吸を整えようとした。

 が、そんな時、一人の男の声が聞こえてきた。


「ギヘ。ギヘヘッ。大変な事になったなぁ〜」

「テメェ……なんでここが分かった……?」

「ギヘッ。あんたの能量(エネルギー)を追えば簡単な事だ」

「チッ……! んで? 俺を捕らえるのか?」

「ギヘッ。捕らえて欲しいか?」

「んな訳ねぇだろうが! 俺はこんなとこで捕まる訳にはいかねぇんだ……! 俺には、やらなきゃいけない事がある……!」

「復讐か?」

「あぁ。俺をコケにしたハイルやイリン達、あいつら全員、ぶっ殺す!」

「ギヘ。ギヘヘッ。まぁ頑張れ。追っ手には嘘の情報を流してあるから、2日程度は猶予がある。その間にこの国を出るんだな」

「あぁ。そうさせてもらうよ」


 ガイルは歩き出す。

 が、一度立ち止まり、声をかけてきた男へ振り返り、睨みながらこう言った。


「次、舐めた動き取ったらただじゃおかねぇからな。デルズ(・・・)


─────────────────────────と。

「ん〜……」

「あ、ミルルさん、おはようございます」

「っ! お、おはようワン……」

「驚かせてすみません。今、朝食の準備をしているので、待っててくださいね」

「わ、ワン……」


 クロハとミルルは、多種多様の集まり(ワイドバラエティ)の活動拠点である一軒家に泊まっていた。


 (さく)(じつ)、イリンの告発でガイルの罪が暴かれた。

 そして、ガイルは逃亡犯になりさらに指名手配犯になった。

 現在は国が総力を挙げて捜索している。


 ガイルがいなくなった事で自由になったリアン達は、ハイルが買った一軒家をこれまで通りに活動拠点にする事に。

 しかし、ガイルが好き勝手家を使っていた為、掃除が必要だった。


 その掃除を、昨日の内にクロハとミルルに手伝ってもらい終わらせたのだった。

 そして、二人は家に泊まり、ワイワイと楽しく騒ぎ、今に至る。


「んん……あ、リアンさん、おはようございます……」

「クロハさん。おはようございます。昨日はありがとうございました。よく眠れました?」

「はい……もうぐっすりでした。ふわぁ〜……」

「ふふ♪ それはよかったです。顔を洗ってきてください。もう少しで朝ご飯ができますので」

「ふぁ〜い……ミルルちゃん、行こう……」

「わ、ワン」


 二階から寝ぼけ眼のまま降りてきたクロハは、ミルルと共に洗面所へと向かった。


 洗面所のドアを開けると──、


「キャッ!?」

「え……? あ、イリンちゃん」


 そこには水色のパンツ一枚だけを穿いたイリンが、バスタオルを持って立っていた。


「ごめんね、驚かせちゃって。いるとは思わなくて」

「い、いえ……! 気にしないでください。私も使用中の札を出し忘れていたので。ガイルがいなくなった途端、油断するのはよくないですね……」

「そんな事ないでしょ」

「え……?」


 クロハとミルルは洗面台へ。

 ミルルが顔を洗っている間、クロハはイリンと会話をする。


「ずっと警戒していた相手がいなくなったんだから、ホッとして気を抜くのは、決して悪い事じゃないよ? それに、今、ここには女の子しかいないんだから、何も警戒する必要ないんだよ。いくらでも隙を見せてよ。私達は仲間、なんだから」

「クロハちゃん……はい……! ありがとうございます……!」


 イリンはクロハの言葉が嬉しく、バスタオルを抱きかかえ泣きだしてしまった。


「クロハさんが泣かせたワン」

「え!? み、ミルルちゃん、違うよ!? 何言ってるの!? ほら、イリンちゃんも泣き止んでっ……!」

「うぅ〜……! うぇ〜ん……!」


 この後、数十分は泣き止まなかった。


 ☆ ♡ ☆


 洗面所で色々あった後、皆は朝食を取った。

 そして、後片付けなども終え、皆は王城へ向かう事に。


「正直、デルズさんがああ言ってくれても、国王様が許してくださるか分からなくて、不安です……」

「大丈夫だって! 王の秘書官であるデルズが言ったんだ。悪いようにはならないって!」


 今朝、ポストにデルズからの手紙が入っていた。

 そこには、国王がリアン達と話したいので王城まで来て欲しいと書かれていた。


 なので、皆は国王に会いに行くことにした。

 何を言われるかは分からないが、呼び出しを無視する方が不敬であるし、そもそも断る理由がないから。


「ミルルは、行きたくないワン……」

「そう、だよね……王国のど真ん中だし、騎士団達がいる場所だもんね……」


 ミルルはこの話題が出てからずっと、行きたくない。行かないと言っていた。


 犬人族にとって人間とは警戒すべき相手。

 ハルやイリン達が特別なだけであって、実際は敵対する関係だ。

 なので、ミルルは敵の本拠地とも言える場所には行きたくなかった。


「でも、一人で置いていく訳にはいかないし……」


 クロハは、ミルルを一人で家に残していくのが心配でしょうがなかった。

 騎士団の護衛もあるので、何かある心配はないだろうが、それでも万が一と言う事はある。

 クロハは心配が拭えずどうしていいのか、答えが出ていなかった。


 そんな時、家のインターホンが鳴る。


「ん? 誰でしょう」


 リアンが玄関へと向かい、対応をする。

 数十秒して、リアンは戻ってきた。とある人物を連れて。


「え、エリィさん!?」

「やぁ、クロハ殿」


 尋ねて来たのは、エリィ・ロリスタンスだった。


 ☆ ♡ ☆


「え、エリィさん!?」

「やぁ、クロハ殿」

「ど、どうしてここに……?」

「この近くを散歩していたんだ。そしたら、やたらと騎士団の姿が多かったので、気になって見に来たんだよ」

「な、なるほど。…………あっ」

「ん?」


 クロハは一つ、何かを思いついたらしい。


「あ、あの〜ちょっとこっちいいですか?」

「あぁ」


 クロハはエリィだけを呼び、部屋の端っこへと向かう。

 そして、ヒソヒソ声で話し始める。


「私達、この後王城に行かなきゃいけないんですけど、ミルルちゃんが行きたくないと言ってて、その気持ちを汲んでお留守番してもらおうと思ってるんですけど、一人じゃその……」

「確かに。一人での留守番は少し心配だな」

「はい……。なので、もし、エリィさんさえよければまたミルルちゃんを見ていてもらえないでしょうか……?」

「もちろんだ。私なんかでよければ」

「ほ、本当ですか!」

「あぁ。ただ、ミルル殿に受け入れてもらえるかが分からないが……」


 前回のお留守番の時、エリィは一言もミルルに口を利いてもらえなかった。

 それがあるので、エリィとしては一抹の不安があった。


「ちょっと聞いてみます。ミルルちゃん」

「わふ?」


 クロハはエリィの元を離れ、ミルルの元へ。

 そして、ミルルに事情を説明する。


「どう、かな……?」


 クロハは心配そうにミルルを見つめ、不安そうに尋ねる。

 少し俯くミルルは、小さな声で答えた。


「その人なら、大丈夫ワン……」

「っ!」

「本当!」


 ミルルの答えはOKだった。

 エリィとなら、留守番してもいいと言ってくれた。


 ミルルのその答えに、エリィは目を見開き驚いていた。

 前は一言も話してくれなかった。

 心を開いてもらえてるとは思えなかった。

 だから、今回は駄目だろうなと、内心は思っていた。


 だからこそ、ミルルのこの答えはエリィにとっては嬉しいものだった。


「じゃあ、ミルルちゃん。エリィさんと一緒にお留守番しててね♪」

「はいワン♪」


 クロハに頭を撫でられて幸せそうなミルル。

 そんな様子を見て、自分も撫でたいなぁと思うエリィだった。


「エリィさん、ミルルちゃんをお願いします」

「あぁ。任せてくれ。ミルル殿は何があっても私が守る」

「ありがとうございます」

「それでは、行きましょう」


 クロハ達は、ショタリシアス王国の王城──【ベイビルワン城】へと向かった。


 ☆ ♡ ☆


【ベイビルワン城】へと到着した四人は、謁見室へと通されていた。


「よくぞ来てくれた。急な召集にも関わらず応じてくれて、感謝する」

「もったいないお言葉、恐悦至極に存じます」


 国王──デリアの言葉に、恭しく跪く四人の内、代表してリアンが答えた。


 数瞬の沈黙が流れた後──、


「面を上げ、楽にせよ。堅苦しいのは苦手だ」

『はっ!』


 その言葉を受け、四人は立ち上がる。


「お久しぶりでございます、デリア国王陛下、リューク様」

「えぇ、お久しぶりです」

「あぁ。少し見ない間に、顔つきが変わったか? 戦士のような顔つきをしている」

「ガイルの件で、覚悟を決めたからでしょうか」

「ふっ。なるほどな。リューク、シリシアを呼んできてくれ。報告会を開く」

「畏まりました」


 デリアから指示を受け、リュークはシリシアを呼びに向かう。


「では、会議室へ移動するか」

『はいっ!』


 デリアの後ろをついて行き、皆は会議室へと向かった。


 ☆ ♡ ☆


 会議室へと入った四人。

 席が用意されているのだが、四人はどこへ座っていいか分からず立ち尽くしていた。

 そこへ、リュークとシリシアがやって来る。


「お待たせいたしました」

「皆様、本日はお越し下さり誠にありがとうございます。リアンさん達とは以前お会いした事がありますが、クロハさんは初めましてですよね。初めまして。私はショタリシアス王国第二王女、シリシア・ショタリシアスと申します。以後、お見知りおきを」

「は、初めまして! クロハです! よろしくお願いします!」


 と、シリシアとの自己紹介を終えてからクロハは──、


(あれ? 名前を言う前から私の名前、知ってた……? でも、今日が初対面だしな……)


 と、思っていた。


 しかし、特には指摘したりはせず、クロハはシリシア達が座るのを待って席に着いた。


 会議室には、中央に0のような形をした机が設置されており、それに沿うように椅子が設置されている。


 最奥には国王であるデリアが座り、その右側にシリシアが座る。リュークはデリアの斜め左に立ったまま。


 そして、シリシア達から少し離れた位置にリアン達が座る。


「それでは、全員揃ったようですので報告会を始めたいと思います」


 リュークがそう言い、報告会が始まった。


 ☆ ♡ ☆


「そうか。ガイル氏が自分の罪を……」

「はい……」


 リアン達から、ギルドで起こった事の全てを聞いたデリアは、椅子に深く腰をかけ、ため息交じりに呟いた。


「それにしても、まさかS級モンスターの出現まで嘘だったとは……」

「黙っていて、申し訳ありませんでした……!」


 イリンが立ち上がり、デリアに向かって頭を下げる。


「イリン嬢。頭を上げてくれ」

「ですが……」

「確かに、本来であれば虚偽の報告は重罪だ。しかし、今回は事情が事情だ。イリン嬢も沢山悩み苦しんだはずだ。だから、今回は何も罪には問わない」

「国王陛下……」

「イリン嬢にはこれからより一層、ハイル殿の捜索に力を入れて欲しい。よいか?」

「はい……! はい……! 寛大なお心遣い、感謝いたします……!」


 イリンは涙を浮かべながら席に着いた。

 リアンとミュリンの二人は、イリンの背中を優しくさすってやる。


「さて、リューク」

「はい」

「S級モンスターの件、早急に虚偽だったと関係各所に連絡。S級モンスターの調査は中止にし、ハイル殿の捜索に力を入れる事を報告しろ」

「畏まりました」


 リュークは、デリアから指示を受け部屋を退室する。


「さぁ、堅苦しい話はこれで終わりだ。せっかく来てくれたんだ。色々話そうじゃないか」

「お父様、あまり引き止めてはなりません。皆様お忙しいんですから」

「そ、そうか……?」

「あ、わ、私達なら大丈夫ですよ? ねぇ?」


 クロハがリアン達に尋ねる。


「も、もちろんです!」

「全然大丈夫です!」

「もちろんだ!」

「皆さん……ですって。良かったですね、お父様」

「あぁ! お前達! 彼女達に食事を!」

「お父様! それは調子に乗りすぎです!」


 このあと、豪華な食事をご馳走になったリアン達だった。


 ☆ ♡ ☆


 リアン達が王城【ベイビルワン城】へ向かい、報告をした翌日。

 治療院にて。


「ん……んん……」


 一つの病室で、目を覚ます人物がいた。


 強大な敵に怯まず立ち向かい、右腕の肘から下を失い、左足を失った人物。


「俺は、生きている、のか……」


 ロリスタンス王国のセイス騎士団団長、ユズィ・アギマが目を覚ました。

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