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第25話 クロハとミルル

「おはよう。今日はいい天気だよ。雲一つない、晴天。こんな気持ちの良い日にはお出かけしたくなるね」


 クロハは、治療院のベッドの上で眠るハルに話しかけていた。


 ハルはまだ目を覚ましていない。よって返事はない。

 クロハはそれが分かっていながらも、ハルに話しかけていた。


「私、お出かけしてくるね。ハル君に必要な物を揃えなきゃだし。……………」


 クロハはベッドの脇で前かがみになり、ハルの頭をそっと撫でる。


「ずっと、待ってるからね」


 そう言って、額にそっとキスをし、クロハは部屋を後にした。


 ☆ ♡ ☆


「ただいま〜。エリィさん、ありがとうございました──うわぁ!?」


 クロハは自宅に帰ってきていた。

 玄関を開け、中に入ると、突然ミルルが勢いよく抱きついてきた。


「み、ミルルちゃん!? ど、どうしたの!?」

「寂しかったワン〜〜〜!!!」

「ご、ごめんね……? え、えっと……」


 クロハが部屋の中にいるエリィを見ると、エリィは魂が抜けたような表情を浮かべて、力なく壁に寄りかかっていた。


「え、エリィさん!? ど、どうしたんですか!?」

「わ、私には、話し相手は務まらなかったらしい……はは……昨日から一度も口を利いてくれなかったよ……」

「あ〜……」


 どうやら、昨日から今朝にかけて、ミルルはエリィと一切口を利かなかったらしい。


 犬人族は元々警戒心が強く、特にそれが人間相手だと余計に高まる。

 そんな中、全く接点のない人間と二人っきりになったのだ。ミルルが口を利かないのも無理はない。

 むしろ、エリィを攻撃したり、逃げ出したりしなかっただけ偉いとも言える。


「すみません、ご迷惑をおかけして……」

「いや……気にしないでくれ。私の役目は、彼女を守る事だからな。詳しい事は今は聞かない。だが、後で教えてくれると助かる」

「もちろんです。後で必ず」

「うん。では、私は一旦ショタリシアスの王城へ向かうよ」

「はい。ありがとうございました」


 エリィが玄関で靴を履き、ドアを開け外に出ようとした瞬間──、


「…………あ、ありがとうワン……」

「「っ……!」」


 ミルルが小さな声で、ボソッと呟いた。


 その呟きを聞き逃さなかった二人は、同時にミルルの方を見る。

 と、ミルルは、両手でクロハの袖をギュッと握って俯いていた。

 その様子から、かなり勇気を出して言ったであろうことが伺えた。


 たった一言。たった一言だが、その一言が何よりも嬉しかったエリィは、優しい笑みを浮かべて──、


「またな、ミルル殿」


 そう言って、部屋を後にした。


「わふ……」


 緊張が解けたからなのか、はたまたエリィへの返事なのかは分からないが、ミルルは小さく声を漏らした。


「じゃあ、ミルルちゃん」

「わふ?」

「お出かけしよっか♪」

「わ、わふ……?」


 クロハが何を言ってるのか分からず、ミルルは首を傾げた。


 ☆ ♡ ☆


「ミルルちゃん、大丈夫?」

「は、はい……ちょっと人が多くて怖いワンけど……」


 クロハとミルルの二人は、手を繋ぎながら歩いている。

 ミルルは、道を歩く人達に少し恐怖心を抱いていた。

 その為、ミルルはキョロキョロと怖そうに辺りを見回していた。


「大丈夫。この国は人間族だけじゃなくて、他の種族達も平穏に暮らしてるから。だからまぁ、すぐには無理かもだけど、そこまで怖がらないで大丈夫だよ」

「わ、わふ……」


 繋いでいた手に、クロハが優しく力を入れてくれたので、ミルルはそれが嬉しくなり、少し顔を赤らめた。

 そして、ミルルも少し力を込めてクロハの手を握り返した。


「ん? ふふ♪」


 握り返してくれたのが嬉しくて、クロハは満面の笑みで歩みを進めた。


 ☆ ♡ ☆


「とうちゃ〜く♪」

「わふ? ここは……お洋服屋さんわふ?」

「うん。まずはミルルちゃんのお洋服を買おうかなって思ってさ」

「あ……そう言えばミルル、着ていた服ボロボロだったワン……すっかり忘れてたワン」

「まぁ、色々大変だったからね。じゃあ、可愛いお洋服、選びに行こう♪」

「わふ♪」


 ミルルは、クロハと手を繋いだまま洋服店の中へと入って行った。



「どう、ワン……?」

「うん! 可愛い!!!」

「ほ、本当ワン……? 変じゃないワンか……?」

「全然変じゃないよ! 花柄のワンピースがこんなに似合うの、ミルルちゃんくらいしかいないんじゃないかってくらいに似合ってる! ミルルちゃんの茶髪に、薄ピンクのワンピースが映えて、ものすごく可愛い!」

「わ、わふ……/// そんなに褒められるとは、恥ずかしいワン……/// でも、クロハさんがそう言ってくれるなら、ミルル、これにするワン!」

「うん! 色違いも多めに買っておこう♪」

「ワン!」


 そうして、薄ピンクのワンピースはそのまま着ていく事にして(店員さんにタグを切ってもらった)、他のワンピースをカゴに入れ、レジへと向かった。

 そこで、ミルルは重大な事に気がつく。


「あっ!?」

「な、何……!? ど、どうしたの……?」

「み、ミルル、お、お金持ってないワン……」

「あ〜。そういう事。それなら気にしないで。お金は私が払うから」

「で、でもそれは申し訳ないワン……!」

「大丈夫。こう見えても私、ギルドでそこそこ活躍してるから、蓄えはそれなりにあるんだ〜。だから、何も気にしないで──」

「そうじゃないワン!!!」


 ミルルの大声に、クロハも店員も驚く。


「た、助けてくれた命の恩人に、お金を払わせるなんて、しちゃいけないワン……! 甘えちゃいけないワン……! お家だって、ご飯だって用意してもらってるのに、その上洋服を買ってもらうなんて、しちゃいけないんだワン……!」

「ミルルちゃん……」


 クロハはミルルの事がもっと好きになっていた。

 普通であれば、甘えていればいい所を、ミルルは甘えず、自分の立場を把握し、迷惑をかけないようにしようとしている。

 自分の事ばかりを考えるのではなく、他人の事を優先的に考えられる。

 それは、どの種族であっても中々できる者は少ない。

 しかし、ミルルはそれを当然のようにしている。

 そこに、クロハは感激していた。


「ミルルちゃん」

「わふ……」


 ミルルは怒られると思ったのか、目を瞑り頭を下げている。

 そんなミルルの頭を、クロハは優しく撫でる。


「わふ……?」


 なぜ撫でられたのかが分からず、ミルルはゆっくりと頭を上げ、クロハの顔を見る。

 すると、そこには嬉しそうに優しく微笑むクロハの顔があった。


「そういう気遣いができる所、すごく素敵だよ。ミルルちゃんの事、もっと好きになっちゃった♪」

「わ、わふっ!?」


 突然告白され、ミルルは顔を真っ赤にした。


「でもね、ミルルちゃん。こういう時は素直に甘えるの。遠慮してばっかりがいい事って訳じゃないんだよ?」

「わ、わふ……?」

「ふふ♪ そういうのは、そのうち覚えていけばいいよ。ミルルちゃんはミルルちゃんのまま、変わらずにいてくれればいいから♪」

「わ、わふ〜……?」


 クロハが何を言ってるのかイマイチ理解できず、ミルルは眉を八の字にしながら、首を傾げながら頷いた。


「それにさ、そもそもお金を持ってたとしても、ミルルちゃんの村が使ってるお金ってどんなの?」

「わふ? ミルルの村では金貨とかの硬貨だワン」

「やっぱり……だとすると、お金を持っていたとしても、この国じゃ使えないよ」

「わふっ!?」


 クロハの衝撃的な発言に、ミルルは目を見開き驚愕した。


 ☆ ♡ ☆


「お、お金が使えないってど、どういう事ワン……?」

「正確には『金貨などの硬貨が使えない』なんだ」

「わふ……?」

「この国……と言うか、人間族が暮らす国では、数百年前からお金の種類や使い方が変わったの」

「種類、使い方……?」

「うん。口で説明するより、実際に見せたほうが早いね」


 そう言って、クロハは財布を取り出し、中からお金を取り出し始めた。


「店員さん、お会計ちょっと待ってもらってもいいですか?」

「はい。もちろんです。ゆっくり説明してあげてください」

「ありがとうございます」


 店員の許可も取り、クロハはミルルに現在のお金について説明を始めた。


「今、使われているお金は硬貨じゃなくて貨幣。今までは金貨、銀貨、銅貨、白金貨などのコインしかなかったけど、今はこういったお札って呼ばれる紙があるんだ」

「紙、ワン……?」

「うん。この大きいのから1万円、5千円、千円。それぞれ使える額が違うんだ。どれが一番高いと思う?」

「う〜……い、一万ワン……?」

「うん。正解」

「やったワン♪」

「このお札を使って、お洋服とか食材とかの高めのものを買ったりするんだ」

「コインはもうなくなっちゃったワン?」

「ううん。完全になくなった訳じゃないよ? ほら」

「な、なんかいっぱいワン!」


 台の上に広げられたコインの種類に、ミルルは興奮気味に声を上げる。


「この一番小さい銀色のが1円。この中だと一番安い。次に金色? で真ん中に穴が空いているのが5円。次にこの銅色のが10円。次に、真ん中に穴の空いた銀色のが50円。その隣にある銀色のが100円。そして、金色? で一番大きいのが500円。このコインの中で一番高いんだ」

「わ、わふ〜……いっぱいあって、何がなんだか分かんないワン……」

「そうだよね。私も最初は全く分からなかったよ。そもそもこんなに種類がある必要ある? って思って、中々受け入れられなかった。でも、慣れちゃったらこれじゃないともう違和感しか感じなくなっちゃうんだよね」

「そ、そうなんわふか……」

「まぁ、これはこれからゆっくり覚えていけばいいよ。焦る必要はないから。ね?」

「は、はいワン……! ミルル、人間族の暮らしのお勉強、いっぱい頑張るワン!」

「うん。じゃあ、お会計しちゃうね」

「よ、よろしくお願いしますワン……」


 自分が何も役に立てない事を実感したミルルは、申し訳なさそうに俯きながら、引き下がった。


「お待たせしてしまってすみません。お会計お願いします」

「いえいえ。全然。えっと、お会計、12,850円です」

「はい」

「わふ!? なんかよく分かんないワンけど、お値段高い気がするワン!?」

「大丈夫だよ。気にしないで。お洋服なんて、こんなもんだから。それに、五着買ってこの値段なら、安い方だよ」

「そ、そうなんわふか……?」


 二人には伝えてないが、実は店員のサービスで2万円超えの所を割り引いてくれていたのだ。


「それじゃあ……これでお願いします」

「はい、13,050円お預かりします。200円のお返しと、レシートは?」

「あ、もらってもいいですか?」

「はい。レシートのお返しです」


 クロハがお財布にお釣りをしまっている間、店員は袋を持って待機する。

 そして、クロハが真正面を向いた瞬間に──、


「こちら、お品物です。ありがとうございました!」

「ありがとうございます。ミルルちゃん、行くよ」

「わ、ワン! お、お姉さん、ありがとうだワン!」

「はい! こちらこそありがとうございました!」


 二人は店を出る。


「クロハさん」

「ん?」

「さっき何か紙をもらってたワンけど、あれは何ワン?」

「あ〜。これね。これはレシートって言うんだ」

「レシート……?」

「うん。自分が何を買ったのか、買ったものは幾らだったのか、いつ、どこで、どのくらい買ったのかを管理できるものなんだ。これができたおかげで、冒険者達は活動資金の管理がしやすくなったんだ」

「な、なるほどワン……」

「それじゃあ、次のお店行こう♪」

「つ、次ワン!?」

「うん♪ だって、何よりも大事な物、買ってないでしょ?」

「大事な物?」

「そう♪ 下着♪」

「っ!」


 クロハの一言に、ミルルは顔を少し赤らめた。


 ☆ ♡ ☆


「い、いっぱいあるワンね……」

「そりゃあね。下着専門店ですから」


 二人は女性下着専門店にやって来ていた。

 様々な種類のブラジャーやパンツが置いてあり、サイズやカラーバリエーションなど、とにかく豊富な品揃えだった。


「お、男の人もいるワンね」

「うん。最近は増えてるよ。まぁ、私達も男性下着がある売り場に行ったりするから同じ事だし、それに男性だって女性下着買っても何も問題はないからね」

「は、穿くワン……?」

「まぁ、そういう人もいるだろうね。女装が趣味とか、そもそも男性下着が自分に合わないとかね。ショタリシアス王国とロリスタンス王国では、種族の差別だけじゃなく、男女差別や性別などの差別もなくしてるんだよ」

「な、なるほどワン……」

「さ、ミルルちゃんに合う下着、探そう〜!」


 クロハはミルルに合う下着を探し始めた。

 ミルルは、初めて来る下着専門店にドキドキしながら店内を見て回った。


「そう言えばさ」

「わふ?」

「ミルルちゃんって尻尾があるから、Tバックとかじゃないと穿けないよね?」

「そ、そう、ワンね……」

「ちなみに今穿いてるのは?」

「ふ、普通のパンツに穴を開けたやつを穿いてるワン」

「なるほどね……店員さん」


 クロハは、店員を呼ぶ。


「犬人族や獣人族の方々が穿けるパンツってあります?」

「はい。ございますよ」


 そう言って、店員が二人を案内してくれる。

 そこは、ドワーフや獣人などの人間族とは違う体をした人に合う下着が売られているコーナーだった。


「こちらにございます」

「ありがとうございます」

「いえ。ごゆっくりお探しください」

「はい」


 店員が去っていく。

 クロハは、ミルルに声をかける。


「ここならミルルちゃんに合う下着も見つかるはずだから、自由に探してみて?」

「わ、分かったワン……!」


 ミルルは、少し緊張した面持ちで下着を見始めた。


「く、クロハさん……」

「ん? 何?」

「は、ハル様が好きな色とかって、な、何か分かりますかワン……」

「ハル君が好きな色? そうだな〜ハル君は……」


 ハルの話題を出され、あまり考えないようにしていた事が頭に浮かんでしまった。



 治療院での事。

 クロハが、ハルを治療院に運んだ日。

 その日の夜に、治療院の先生からハルに関しての話をされていた。


『脳波の乱れ……ですか?』

『はい。身体的な異常がなく、問題点を探すためにくまなく検査を行っていたんですが、その際、脳を検査した時、ほんの僅かではあったのですが、脳波が乱れていたんです。

 現在は問題なく正常な脳波に戻っているのですが、長い医者人生の中で、初めて見る脳波の乱れ方だったので、どうしても気になって。

 なので、なんの確証もないですし、原因や正体も何も分かっていないのですが、保護者の方には一応、伝えておくべきだと思い、お伝えさせていただきました』


 クロハは俯きながら、先生の話を聞いている。


『すみません。余計な報告であるというのは分かっているんですが……』

『い、いえ……! 伝えてくださってありがたいです。そういうのを知っていれば、何かあった時に対処できますし、それに、無理をさせないようにもできます』

『うん。もし、少しでも違和感などを感じたら、すぐに連れてきてください。すぐに診させていただくので』

『はい。ありがとうございます』



「………さん?」


(ハル君……大丈夫かな……)


「……ハさん?」


(脳波の乱れって、一体なんなんだろう……)


「…ロハさん? クロハさん!」

「っ!? え? な、何……?」

「だ、大丈夫ワンか……? すごく深刻そうな顔してたワンけど……」

「え!? あ、だ、大丈夫! ちょっと考え事してただけだから」

「ほ、本当ワン……?」

「うん! それより、ハル君の好きな色だったよね! ハル君が好きな色はまだ分からないんだけど、エッチなやつだったら喜んでくれると思うよ?」

「エッチなやつワン?」

「うん。ハル君も男の子だからね〜。エッチなやつが大好き……あぁ……」

「ど、どうしたワン!?」

「ハル君、絶対に私の着替えとか下着姿とか見てくれないんだよね……」

「そ、そうなのワン!?」

「うん……むしろ、早く着替えろって怒られちゃう……」

「じゃ、じゃあ、見てもらう事はできないワン……?」

「うん。かも……。でも、慣れてくればもしかしたらって事もあるから、今のうちにエッチな下着、いっぱい買っておこう♪」

「わ、ワン!」


 二人は、ハルを誘惑する為の下着を大量に購入した。

 クロハは透け感のあるブラとパンツとTバックを。

 ミルルは、締め付けがキツくないブラと、ソングショーツとTバックを購入した。


 買い物を終えた二人は、食事を取り、家へと帰宅した。

 いかがだったでしょうか……?


 文字数が多く、読みづらく感じてしまうかもしれないのですが、沢山楽しんでいただけておりましたら幸いです……!


 今回は、クロハとミルルのショッピングの様子をお届けさせていただきました!

 ここまで中々に重たい展開が続いていたので、ここで一旦箸休め的な感じのお話を挟ませていただきました!


 楽しんでいただけておりましたら嬉しいです♪


 次話からはまた、重たく苦しい展開が続いて行く事になってしまいますので、この話数を読んで少しでも癒されていただけたら嬉しいです……!


 次話では、なぜかダンジョンにいなかったリアン、イリン、ミュリン達のお話となっております!

 三人は一体何をしていたのか、この先何が待ち受けているのか。

 その辺を含め、楽しみにしていてくださると幸いです!


「面白い!」「続きが気になる!」「読んでやってもいい」と少しでも思っていただけましたら、ブックマークなどをしていただけますと幸いです……!


 それでは、次話をお楽しみに♪

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