第22話 襲いかかる敵/ユズィの覚悟
時は僅かに遡り、クロハ達がミルルと出会う少し前。
ユズィ達は別の道からダンジョンの二階層を捜索していた。
一人、前を先導して歩くユズィに、モリーとメザリが声をかける。
「あの、団長」
「そんなに急ぐ必要ありますか……?」
先程から、ユズィは一切休まず、ずっと歩き続けている。
自分達が休みたいのもあるが、二人はいつも気負いすぎてしまうユズィを心配していた。
「当然だ。我々はハイル殿の捜索、そしてS級モンスターの調査をする為にここに来た。休んだりなどしている時間はない。少しでも調査を進め、有益な報告を持ち帰る。それが我々の役割であり仕事だ。貴様らも騎士団であればくだらないことを言うな」
「「は、はい……すみませんでした……」」
そんな二人の心配も通じず、ユズィは厳しい言葉で突っぱねてしまった。
突っぱねられてしまった二人は、落ち込みながらもこれが団長だと自分達を納得させ、ユズィの背中についていった。
☆ ♡ ☆
探索開始から数時間。
三人は全く休まずに歩き続けていた。
と、これまで一歩も足を止めなかったユズィが突然足を止めた。
「団長……?」
「どうしたんですか……?」
急に足を止めたユズィを不思議に思った二人は、同じく足を止め、恐る恐る尋ねた。
「この岩壁、何か変だと思わないか?」
「「え……?」」
ユズィの視線の先にあるただの岩壁。
二人もそこを見るが、特には何も感じない。
至って普通の岩壁だった。
「いえ……特には……」
モリーが答えると──、
「だとするならば、貴様らは観察眼を鍛え直さなければならないな。ほんの僅かの違和感にも気づく鋭い観察眼を」
「「っ……!?」」
ユズィに睨まれながらそう言われ、二人の背中には冷や汗が流れた。
ユズィの特訓は厳しく、特訓最中に騎士団を辞めていく者が後を絶たない。
しかし、ユズィはとある面から部下や様々な人達に慕われており、頼られている。
なので、ユズィの部下になりたい人も後を絶たないのだ。
「ここに感じる違和感。それは、この岩壁が作られた物だからだ」
「「作られた、物……?」」
「あぁ」
ユズィがゆっくりと壁に触れる。
「この岩壁は、精密に作られたダミー。触れなければ決して崩れる事のない映像だ」
「「っ!?」」
ユズィが触れた壁は、ユズィの手が触れた瞬間、ジジジジ……と乱れ、消失した。
まるで映像が乱れ消えたかのように。
「まさか……」
「岩壁自体がダミーだったなんて……」
「岩壁に細工など、本来であれば考えられないからな。我々の思い込みを利用したよくできたカモフラージュだ。これを行った者は優秀なんだろうな。さぁ、行くぞ」
「「は、はい!」」
二人は、消失した岩壁の先に続く道に向かっていくユズィの後を追い、中へと入って行った。
悲惨な運命が待ち受けているとも知らずに……。
☆ ♡ ☆
「ここは……」
「何かの研究所……でしょうか……?」
ユズィ達が足を進める事数分。
辿り着いたのは、水の入った巨大なポッドが複数並び、紙が散乱した机、壊れた椅子、マネキンのような物など、色んな物が置かれた場所だった。
そこはメザリが言ったように、何かの研究所のようだった。
「メザリの言う通り、ここは研究所だろう」
「では、一体なんの……」
「人体実験」
「「っ!?」」
ユズィの返答に、二人は驚愕し硬直する。
「どうやらここでは、様々な人体実験を繰り返しているようだな。机の上に散らばった紙は、研究結果をまとめた書類のようだ」
ユズィは机の上に散らばる紙を手に取り、内容を確認していた。
その為、後ろを見ていなかった。
ザシュ。グシュ。
そんな、戦場で幾度となく聞いてきた嫌な音が聞こえた次の瞬間、この場にいる誰のものでもない声が聞こえてきた。
「ご明答。君の言う通り、ここは人体実験を行う研究所だよ。でも、なんでここに君達のような人間がいるの? どうやって入ってきた?」
ゴク……と、ユズィは生唾を飲んだ。
後ろから聞こえてきた声。
幼さの中に、人を威圧し、卑下し、圧迫するような空気が混じっている。
そして、何より殺意が溢れており、これまで様々な戦場を経験してきたユズィでも、感じたことのない恐怖心を抱いてしまうほどの殺意を感じていた。
その為、ユズィは思わず生唾を飲み込んでしまった。
「ねぇ、答えてよ。不法侵入のおじさん」
ゆっくりと近づいてくる後ろの人物。
ユズィは、汗を額に浮かべながら、ゆっくりと後ろを振り向く。
すると、そこにいたのは──、
「こ、子供!?」
「む。失礼な」
そこにいたのは、純白のワンピースを着た少女だった。
純白の髪色が特徴的で、おでこが出ている。
髪型はロングなのだが、背が低いため、毛先が地面スレスレとなっている。
見た目的には十歳くらいの容姿だった。
ユズィは知らないが、この少女はデルビーズ達の前に姿を現した少女、ヘルズダールだった。
つまりは、悪の組織の者であって……。
「悪いけど、ボクはこう見えてもう大人なんだ。君達人間で言う所の十五歳を超えている」
「確かに、ショタリシアスでは十五歳を超えたら成人だが……いや、とは言え君は明らかに子供だ。こ、こんな所にいてはいけない。さぁ、親御さんの所に行こう」
ユズィは恐怖心を抱えながらも、なんとか平静を保ち、ヘルズダールに声をかける。
この間にモリーとメザリを逃がし、外に情報を伝えようとしているのだ。
だが──、
(はっ!?)
ユズィが視線だけを左右に動かし、モリーとメザリの様子を見る。
すると、そこには背中に穴が開き大量に血を溢れさせながらうつ伏せで倒れるモリーと、頸動脈を切られ血を流し倒れるメザリの姿があった。
(二人共、即死か……)
ユズィの技能には、とある特殊な力があった。
それは、自分が仲間と定めた者の生死の即判別。
この力がある為、ユズィには誰が生きていて誰が死んでいるのかを瞬時に把握できてしまう。
よって、モリーとメザリが即死してしまった事も分かってしまった。
「くっ……」
「ふふ。ボクが敵であることは理解しているよね? だったら、さっきの音が聞こえた時点で君は逃げるべきだった。それなのに、ボクの方を振り返り、仲間の無事を確かめた。無駄な時間だったね」
ヘルズダールは不敵な笑みを浮かべながら、ゆっくりとユズィに近づく。
「ここに入ったからには、生きては帰さないよ」
「っ……!」
ヘルズダールの背筋が凍るような声に、ユズィは思わず後ずさりをした。
(逃げる隙は、ない……! いや、そもそも逃げるなど私の選択肢の中にはない! 私は、敵がどんなに強大であろうとも──)
「立ち向かう!!!」
ユズィは、腰に携えている剣を抜刀し、ヘルズダールと対峙した。
☆ ♡ ☆
「ぐはっ!?」
「あはは! さっきまでの威勢はどうしたの〜? おじさん!」
「ぐっ……!」
ユズィは壁に衝突し、剣を地面に突き刺し片膝を突いて体を支えていた。
口から血を流し、全身はボロボロ。
騎士服もあちらこちらが破損している。
腕や足からも出血している。
「はぁはぁ……ここまでの力を持っているとは……」
「おじさん、もしかして自分が強いとでも思ってる? だとしたら勘違いも甚だしいよ。おじさん、超ザコいよ?」
「くっ……」
ヘルズダールは、不敵な笑みを浮かべながらユズィを貶していく。
ユズィは体の痛みに耐えながら、ヘルズダールへの対策を考えていた。
(どうする……この子供、思っていた以上に強い……このままでは負ける……)
しかし、そんな思案する時間を与えてくれるような相手ではなく──、
「ほら!」
「ぐっ……!」
ヘルズダールが右腕を突き出すと、ユズィが上空に飛び上がり天井へ激突した。
まるで何かが手から飛び出て、ユズィに直撃したかのように。
「ぐはっ……!」
地面に落下するユズィ。
そんなユズィに近づき──、
「えいっ♪」
「ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
ユズィの左足をもぎ取ってしまった。
ふくらはぎから下がもぎ取られ、ユズィは絶叫を上げた。
「がっ……!? あっ……!?」
「あはは♪ ねぇ、痛い? 痛い? ねぇ♪」
(この子供……人を痛めつけて楽しんでる……!? 頭が、狂ってる……!?)
ユズィはなんとか力を振り絞り、剣を力強く握る。
が、それを見たヘルズダールが──、
「まだ動けるのか。だったら、こっちも♪」
「なっ……!?」
「え〜い♪」
「ぐああああああああああああああああ!? ぐっ!? ぐふっ……!?」
剣を掴む右手首を掴んだヘルズダール。
少女のものとは思えないほどの力で、ユズィの体ごと右手を持ち上げる。
そして、持ち上げたまま左へ一回転しながらユズィを壁に向かって放り投げた。
壁に激突したユズィは、大量に吐血しながら、壁に背中を擦り付けながら座り込む。
「がっ……がはっ……!?」
「う〜ん……本当は肩ごと取るつもりだったんだけど、まぁいいか」
ヘルズダールが持つ物。
それは、ユズィの腕だった。
本来、ユズィの体になければならない肘から下の腕。
それが、ヘルズダールの手に持たれていた。
ユズィの右腕があった箇所からは、大量の血が溢れ出している。
「はぁはぁ……」
ユズィの息は、どんどん浅く過呼吸に近いものになっていく。
(私は、ここで死ぬのか……)
ユズィはゆっくりと目を瞑り、まどろみの中へと意識を手放して行った……。
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『……! ……!』
なんだ……? 誰かが私を呼んでいる……?
『…長! 団長!』
っ!?
『よかった〜やっと目を覚ましてくれた……!』
モリー……それに、メザリまで。お前達は、その……し、死んだはずじゃ……。
『えぇ。ですからこうやって出てきたんです』
ど、どういう事だ……?
『団長、団長はこのままでは死んでしまいます』
モリー……あぁ、そうだな。お前達の元に行くのも、時間の問題だろう。
『なんで諦めてるんですか!!!』
め、メザリ……?
『なんで、命を一番に考えていた団長が、こんな簡単に命を諦めてるんですか!!!』
し、しかし……私はもう……手足ももがれ、何度も壁に打ち付けられ、内臓も骨もボロボロ。
出血も尋常じゃない。私の意思に関係なく、命はもう……。
『ふざけんな!!! 団長は、俺達に教えてくれたじゃないですかっ……!!! それを忘れたんですかっ……!?』
私が教えた事……あぁ、そうだったな……。
命を懸けても敵を討ち取れ。だったな。
『『ちっがぁぁぁぁぁぁうっっ!!!』』
っ!? ち、違ったか……?
『そんな馬鹿みたいな事、教わった覚えないですよ』
『俺達が団長に教わった事。それは──』
『『どんな状況にあったとしても、自身の命を最優先にする事。いかなる場合でも、無謀は許さない』』
ふっ……。我ながら、逃げ腰な言葉だ。死ぬのを恐れすぎているな。
『別に怖がったっていいじゃないですか』
え……?
『人間、生きていれば誰だって死ぬのは怖いです。いえ、人間だけじゃない。他の種族だって、生きているものは全て、死ぬのは怖い』
『でも、俺達はその命を懸けなきゃいけない。だから、余計に怖い。でも、俺達は団長のその教えに、救われたんです』
『無理して命を懸けなくてもいいんだ。自分の命を優先してもいいんだって、そう思えて、心が軽くなりました』
『だから、それを教えてくれた団長が簡単に自分の命を諦めようとしてるのが、許せないです!』
メザリ……そうだな。お前達に教えた私自身が、諦めてはいけないな。
『『はい!』』
状況を打破する打開策はまだ思いつかないが、命を諦める事だけはしない!
『それでこそ団長だ!』
『団長』
ん?
『僕達の力を使ってください』
そ、それは……。
『団長の技能なら、それが可能ですよね』
知っていたのか……。
『はい。なので、僕達の力を使って、命を諦めないでください』
『俺達の無念、団長に託します!』
モリー……メザリ……分かった。お前達の気持ち、受け取った!
『『じゃあ、行って! 団長!!!』』
───────────────────────────
「うっ……うぅ……」
ユズィはゆっくりと瞼を開ける。
どれほどの時間が経っていたのか。ユズィにはそれが把握できない。
実際は数十分間程度なのだが、ユズィにとっては数時間のように感じられている。
(奴は……)
ユズィが視界だけを上にやる。
掠れてよく見えないが、ヘルズダールはユズィの腕と足をポッドに入れ、何かを行っていた。
よって、ユズィが目を覚ました事に気がついていない。
(私は、いつから死を恐れるようになったのか……いや、違うな。私は、死にたくないと思うようになっていたんだな、いつの間にか)
ユズィがそう考えていると、左手の所に自身が付けていたネックレスが落ちているのに気がつく。
ユズィは、それをヘルズダールに気づかれないように手に取り、前の部分を開く。
それは、ただのネックレスではなく、写真を入れられるものだった。
ユズィのネックレスに入っている写真。そこに写っているのは──、
(こんな所でそんな簡単な事にも気づけず、命を諦めていたら、君に怒られるな)
ユズィの10歳になる娘と5歳になる息子、そしてユズィと同い年の妻だった。
(でも、すまない。命を諦めないことを、諦めざるを得ないんだ。こんな身勝手な私を許してくれ)
ユズィは写真を閉じ、握りしめた。
(右腕と左足を失った……本来であれば、こんな状態じゃ勝ち目はない。だが、まだ左腕と右足が残っている。まだ動ける。いや、例え四肢を全て失おうと、心臓が止まらない限り、私は戦い続ける!)
ユズィは痛む首にムチを打ち、頭を上げる。
そして、こちらに背を向けるヘルズダールを睨みつける。
(奴のような危険人物を野放しにしては、いずれ世界に危機が訪れる……! それだけはさせてはならない……! だから、奴だけは私がここで、この命を懸けて、絶対に──)
「止めてみせる!!!」
「っ!?」
ユズィの叫びが聞こえ、驚き振り返るヘルズダール。
そこには、片足だけで立つユズィの姿が。
「モリー、メザリ。お前達の忠告を無視する私を許してくれ……。いや、許さなくてもいい。恨んでくれていい。だが、今だけは力を貸してくれ! 奴を討ち取る力をっ!!!」
ユズィは左手を前に突き出す。
すると、離れた場所にあったユズィの剣がひとりでに動き、ユズィの左手にやって来た。
「なっ!?」
突然の出来事で戸惑うヘルズダール。
しかし、そんなヘルズダールをよそにユズィはヘルズダールを討ち取る為の行動を起こす。
「頂の技能・命の切り替え!」
「っ!?」
ユズィが技能を発動させる。
ユズィがそう叫んだ瞬間、倒れているモリーとメザリの二人の体から、キラキラと輝く球体が出現。
その球体が、ユズィの剣に吸収され、剣に宿った。
「何が……」
何が起こったのか分からず、ヘルズダールは呆然としていた。
「これは、貴様を滅する力だ……! 本来であれば使いたくない力だ……! だが、貴様のような危険分子を野放しにする訳にはいかない! よって、使わせてもらう。仲間の覚悟、そして、私の覚悟をその身に浴びるがいい!!!」
ユズィは剣先をヘルズダールに向け──、
「頂の破壊おおおおおおおお!!!」
と、叫んだ。
すると、剣先から赤と黒の渦を纏った閃光が放たれる。
その閃光は、ヘルズダールに一直線に向かっていき──、
「くっ!? 全反射!」
ヘルズダールは直撃寸前で、力を使い、楕円形の鏡のようなものを出現させた。
その楕円形の鏡のようなものが、ユズィの放った閃光を受け止める。
「くっ……何、この威力……! 今までのとは比べ物にならない……!」
「あいつらの覚悟が乗った攻撃だ! それが軽いわけないだろ!!! さぁ、ここで敗れろ!!!」
「くっ……!」
閃光が楕円形鏡をどんどん押していく。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああああああああああ!!!!!!」
最後の力を振り絞るかのように、ユズィは雄叫びを上げた。
この雄叫びを上げた瞬間に、ミルルとハイルは何かに反応を示していた。
長くなってしまい、申し訳ございません……!
この話数ではここまで、と決めていたのでそれを全部書いたら少し長くなってしまいました……!
長いので読みづらく感じてしまわれるかもしれないのですが、それでも楽しんでいただけておりましたら幸いです……!
ユズィはどうなるのか。ハイルとミルルは何に気がついたのか。ヘルズダールとの決着は着くのか。
それらを全て次話で書かせていただきます!
なので、次話も中々に長くなってしまうと思います……!
ですが、その分、皆様の納得のいく内容に仕上げさせていただきますので、楽しみにしてくださると嬉しいです……!




