## 第13話「日常と依頼」
深層界から戻って3日後。
俺は久しぶりに普通の学生生活を送っていた。
「朝倉くん、この問題わかる?」
美咲が数学の教科書を見せてくる。
「ああ、これは…」
普通に勉強している。
平和だ。
でも——
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【未処理の依頼】
現在:23件
推定報酬総額:約600万メモ
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頭の片隅では、依頼のことが離れない。
「集中してない」
美咲に指摘される。
「ごめん」
「依頼のこと?」
「…ああ」
美咲が教科書を閉じる。
「今日の放課後から、始めるんでしょ?」
「うん」
3日間の休息は十分だった。
体調も回復し、精神的にも落ち着いている。
「一緒に行くよ」
「でも、授業が」
「大丈夫。私、もう全部理解してるから」
さすが人工記憶体。
学習能力も人間を超えている。
「ありがとう」
その時、教室のドアが開いた。
「朝倉〜、ちょっといいか?」
真田先輩だった。
「どうしました?」
「依頼のことなんだが」
先輩が書類を見せる。
「この中に、ちょっと気になるのがある」
確認すると、一つの依頼が赤丸で囲まれていた。
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【特殊依頼】
依頼人:天宮財閥
内容:失われた家宝の記憶を探す
場所:天宮家本邸
報酬:200万メモ
備考:危険度A
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「天宮財閥って」
「日本有数の大財閥だ」
真田先輩が説明する。
「記憶ビジネスで財を成した一族。でも」
「でも?」
「裏では、違法な記憶売買にも手を出してるって噂がある」
きな臭い話だ。
「断った方がいいですか?」
「いや、むしろ受けるべきだ」
「え?」
「こういう大口の依頼を成功させれば、信用が上がる」
確かに、200万メモは大きい。
「それに」
真田先輩がニヤリと笑う。
「俺も興味がある。天宮家の秘密に」
結局、最初の依頼はこれに決めた。
### ◆◇◆
放課後。
俺、鈴音、美咲、真田先輩の4人で天宮家本邸へ向かった。
「でかい…」
門の前で、全員が息を呑む。
まるで城のような豪邸だった。
「朝倉蒼様ですね」
執事らしき老人が出迎える。
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【執事・山田】Lv.15
職業:記憶管理人(E級)
忠誠心:高
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「お待ちしておりました。どうぞ、中へ」
案内されて、屋敷の中へ。
廊下には、高価そうな記憶結晶が飾られている。
「お嬢様がお待ちです」
通されたのは、広い応接室。
そこには——
「初めまして」
俺と同年代の少女が座っていた。
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【天宮 玲奈】Lv.19
職業:記憶鑑定士見習い(D級)
性格:高飛車だが根は優しい
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「私が天宮玲奈。依頼人よ」
金髪縦ロールの、いかにもお嬢様という感じ。
「それで、探してほしい記憶とは?」
「単刀直入ね。いいわ」
玲奈が立ち上がる。
「ついてきて」
案内されたのは、地下の宝物庫。
厳重な警備を抜けて、最深部へ。
「これよ」
そこにあったのは、空の台座。
「何もないですが」
「そう、無いの」
玲奈が苦い顔をする。
「3日前まで、ここに『始祖の記憶』があった」
始祖の記憶。
天宮家の始まりに関する、重要な記憶らしい。
「それが、忽然と消えた」
「盗まれた?」
「それが、わからないの」
玲奈が説明する。
警備システムに異常なし。
侵入者の形跡もなし。
なのに、記憶だけが消えた。
「内部犯行の可能性は?」
鈴音が聞く。
「…否定はできないわ」
玲奈の表情が曇る。
「でも、信じたくない」
なるほど、複雑な事情がありそうだ。
「とりあえず、調査させてください」
「お願い」
俺は記憶探査を発動した。
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【スキル発動】
記憶探査 Lv.3
探査範囲:半径200m
残留記憶反応を感知…
3日前の痕跡を発見
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「反応がある」
「本当!?」
「ああ。でも、変だ」
痕跡は確かにある。
でも、それが示す方向は——
「上?」
真田先輩が天井を見上げる。
「記憶の痕跡が、真上に向かってる」
「どういうこと?」
痕跡を辿ると、屋敷の最上階に行き着いた。
そこは——
「父の部屋…」
玲奈が青ざめる。
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【天宮 総一郎】Lv.55
職業:記憶商人(S級)
天宮財閥現当主
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「お父様が…まさか…」
「まだ決めつけるのは早い」
俺は慎重に言う。
「確認させてもらえますか?」
「…わかったわ」
玲奈がドアをノックする。
「父様、玲奈です」
「入りなさい」
中から、威厳のある声。
部屋に入ると、初老の男性がデスクに向かっていた。
「これは、記憶屋の方々ですか」
総一郎が微笑む。
でも、その笑顔は目に届いていない。
「始祖の記憶の件で」
「ああ、あれは困りましたね」
他人事のような口調。
怪しい。
「お父様」
玲奈が震え声で聞く。
「本当に、何も知らないの?」
「当然だ」
総一郎の声が冷たくなる。
「私を疑うのか?」
「いえ、そんな…」
重い空気が流れる。
その時——
『蒼、彼の後ろ』
Systemの声。
言われて見ると、総一郎の後ろの壁に、見覚えのある輝きが。
始祖の記憶!
隠してある。
「失礼」
俺は総一郎に近づいた。
「何を——」
「これですね」
壁の隠し扉を開ける。
そこに、金色の記憶結晶があった。
「!」
玲奈が息を呑む。
「父様…なぜ…」
「…………」
総一郎が立ち上がる。
そして、深いため息をついた。
「バレてしまったか」
「なぜこんなことを」
「守るためだ」
総一郎の表情が変わる。
疲れたような、悲しそうな顔。
「始祖の記憶には、天宮家の闇が記されている」
「闇?」
「我が家が、どうやって財を成したか。その真実が」
総一郎が語り始める。
天宮家の始祖は、他人の記憶を奪い、それを売ることで財を築いた。
犠牲者は数知れず。
「それが公になれば、天宮家は終わりだ」
「だから、隠した?」
「ああ」
「でも」
玲奈が前に出る。
「それでも、私たちの歴史です」
「玲奈…」
「闇も含めて、受け入れなければ」
玲奈が父を見つめる。
「逃げてばかりじゃ、前に進めない」
「…………」
総一郎が、娘を見つめ返す。
そして、小さく微笑んだ。
「成長したな」
「父様…」
「すまなかった」
総一郎が記憶結晶を差し出す。
「これは、お前が継ぐべきものだ」
玲奈が、震える手で受け取る。
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【依頼完了】
『失われた家宝の記憶を探す』
報酬:200万メモ獲得
追加報酬:天宮家の信頼
レベルアップ!
Lv.28 → Lv.29
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「ありがとうございました」
玲奈が深々と頭を下げる。
「おかげで、大切なことに気づけました」
「いえ、俺たちは仕事をしただけです」
「それでも」
玲奈が微笑む。
さっきまでの高飛車な態度が嘘のようだ。
「また、何かあったら依頼させてください」
「もちろん」
握手を交わす。
帰り道。
「いい依頼だったな」
真田先輩が満足そうに言う。
「金も入ったし、何より」
「家族の絆が深まった」
鈴音が続ける。
「そうだな」
記憶は、時に人を傷つける。
でも、向き合うことで、前に進める。
「次は、どの依頼にする?」
美咲が依頼書を見る。
まだ22件も残っている。
「とりあえず、今日はここまで」
「そうね、お疲れ様」
200万メモ。
着実に、目標に近づいている。
あと300万メモ。
きっと、集められる。
仲間と一緒なら。
### ◆◇◆
その夜。
俺は自室で、葵からの手紙を読んでいた。
『お兄ちゃんへ
治療が始まって、少し楽になりました。
お医者さんも、順調だって。
だから、お兄ちゃんも無理しないでね。
約束だよ。
葵より』
涙が出そうになった。
必ず、治してみせる。
そのために——
コンコン
ドアをノックする音。
「入っていいよ」
入ってきたのは美咲だった。
「まだ起きてた」
「ああ」
「葵ちゃんから?」
手紙を見て、美咲が微笑む。
「いい子だね」
「ああ、自慢の妹だ」
「きっと、治るよ」
美咲が俺の隣に座る。
「私も、協力するから」
「ありがとう」
しばらく、静かな時間が流れる。
「ねえ、蒼」
「ん?」
「予言の子って、どう思う?」
急な質問だった。
「正直、実感がない」
「だよね」
美咲が膝を抱える。
「でも、きっと意味がある」
「そうかな」
「うん。蒼が選ばれたのには、理由があるはず」
「…………」
「でも」
美咲が俺を見る。
「予言がどうあれ、蒼は蒼だから」
「美咲…」
「私は、蒼自身が好き」
顔が熱くなった。
「あ、いや、その…」
美咲も顔を赤くする。
「友達として!友達として好きってこと!」
「あ、ああ」
気まずい空気。
でも、悪くない。
「俺も、美咲が好きだ」
「え?」
「友達として」
「…うん」
また静かになる。
でも、今度は温かい静寂。
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみ」
美咲が部屋を出ていく。
一人になって、俺は天井を見上げた。
予言の子。
まだ、その意味はわからない。
でも、今は目の前のことを。
一つずつ、確実に。
明日も、依頼が待っている。
【更新予定】
毎日更新を目指します!
最低でも週5は更新したいと思ってます。
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