## 第12話「500万メモ」
記憶屋ギルド東京支部。
転送装置から出てきた俺たちを、楓が驚きの表情で迎えた。
「無事に帰還…それに、この記憶反応は」
楓の測定器が激しく反応している。
「始原の記憶…まさか、本当に実在したなんて」
「知ってるんですか?」
「伝説としては。でも、実物を見るのは初めてです」
楓が慎重に結晶を受け取る。
「これは…ギルドで厳重に保管させていただきます」
「頼みます」
正直、俺も持て余していた。
Systemがあそこまで警戒するものを、個人で持っているのは危険だ。
「それと、報酬の500万メモ」
楓が記憶カードを差し出す。
「確かに」
受け取った瞬間、その重みを実感した。
500万メモ。
葵の治療費の半分。
やっと、ここまで来た。
### ◆◇◆
病院。
俺は真っ先に主治医の元へ向かった。
「500万メモ、用意しました」
「本当ですか!」
医師も驚いている。
「これで、第一段階の治療が始められます」
「第一段階?」
「はい。記憶欠損症の治療は段階的に行う必要があります」
医師が説明を始める。
まず、進行を止める治療。
次に、失われた記憶の一部を再構築。
最後に、完全な治癒。
「全部で、どのくらい…」
「順調にいけば、1000万メモで完治します」
やはり、あと500万メモ必要か。
「でも、これで進行は止められる」
「はい。今すぐ治療を始めましょう」
希望が見えた。
葵の病室へ向かう。
「兄ちゃん!」
ベッドの上で、葵が笑顔で迎えてくれた。
でも、前よりも顔色が悪い。
「葵、いい知らせがある」
「なあに?」
「治療が、始められることになった」
「!」
葵の目が輝く。
「本当?」
「ああ」
「やった!」
葵が両手を上げて喜ぶ。
でも、すぐに心配そうな顔になった。
「でも、お金…大丈夫なの?」
「大丈夫だ」
葵の頭を撫でる。
「兄ちゃんが、ちゃんと稼いだから」
「無理してない?」
「してないよ」
また嘘をついた。
でも、葵のためなら、どんな無理も——
「約束して」
「え?」
「無理しないって、約束して」
葵が小指を出す。
「…約束する」
指切りをする。
小さな指が、俺の指にしっかりと絡まった。
### ◆◇◆
病院を出ると、美咲が待っていた。
「お疲れ様」
「ありがとう」
二人で並んで歩く。
「良かったね、治療が始められて」
「ああ。でも、まだ半分」
「大丈夫」
美咲が俺の手を取る。
「きっと、残りも集められる」
「…ああ」
その温かさに、少し救われた。
「ところで」
美咲が話題を変える。
「始原の記憶のこと、気になる?」
「正直、気になる」
「Systemは、なんて?」
「『まだ早い』としか」
美咲も考え込む。
「きっと、重要な意味があるんだろうね」
「だろうな」
でも、今は葵のことが最優先だ。
学園に戻ると、鈴音と真田先輩が待っていた。
「おかえり」
「治療の件、上手くいった?」
「ああ、なんとか」
「よかった」
鈴音が安堵の表情を見せる。
「これで一安心ね」
「いや、まだ半分だ」
「わかってる。だから」
鈴音が何かを取り出した。
依頼書の束だ。
「これ、全部蒼への依頼」
「え?」
「深層界から帰ってきたことが広まって、依頼が殺到してるの」
確認すると、20件以上の依頼があった。
報酬も、それぞれ10万〜50万メモ。
「これなら、すぐに残りも」
「でも、無理は禁物だ」
真田先輩が釘を刺す。
「深層界の疲労もある。少し休んでからにしろ」
確かに、体はまだ重い。
レベルは上がったが、精神的な疲労は残っている。
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【朝倉 蒼】Lv.28
職業:記憶喰らい(C級)
HP:420/420
MP:250/250
状態:精神疲労(軽度)
所持金:10万メモ(残金)
次の目標:500万メモ
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「わかった。2、3日休んでから」
「それがいい」
みんなで訓練場のベンチに座る。
夕陽が、俺たちを照らしていた。
「なあ」
真田先輩が口を開く。
「暴君のこと、考えてたんだ」
「…………」
「あいつも、最初は俺たちと同じだった」
確かに。
大切な人を救いたい一心で。
「でも、一人だった」
「ああ」
「だから、道を踏み外した」
真田先輩が俺の肩を叩く。
「お前は、俺たちがいる」
「うん」
鈴音も頷く。
「私たちがいる限り、大丈夫」
「絶対に、一人にはしない」
美咲も約束してくれる。
「みんな…」
目頭が熱くなった。
こんなにも、支えてくれる仲間がいる。
「ありがとう」
「礼はいらねえ」
真田先輩が豪快に笑う。
「仲間だろ?」
その時——
ブロロロロ
エンジン音が響いた。
訓練場に、黒い車が何台も入ってくる。
「記憶統制局…」
車から降りてきたのは、見覚えのある顔。
氷室冴子だった。
「また会いましたね、朝倉蒼」
氷室の隣には、新たな人物が。
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【風間 十蔵】Lv.70
職業:記憶統制局局長
HP:8000/8000
MP:5000/5000
最高権力者にして最強の記憶能力者
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「局長自ら…」
真田先輩が警戒態勢を取る。
レベル70。
暴君を超える強さだ。
「初めまして、朝倉蒼君」
風間と呼ばれた男が、穏やかに微笑む。
「君のことは、よく聞いている」
「何の用ですか」
「簡単なことだ」
風間が一歩前に出る。
「君に、統制局に入ってもらいたい」
「は?」
予想外の申し出だった。
「君の能力は素晴らしい。その力を、正しく使って欲しい」
「正しく?」
「そう。社会の秩序を守るために」
風間の笑顔は変わらない。
でも、その奥に冷たいものを感じる。
「断ります」
「即答か」
「俺には、やることがある」
「妹さんのことかな?」
ドキリとした。
なぜ知っている?
「我々なら、すぐに治療できる」
「!」
「最高の医療チーム。最新の技術。すべて無料で提供しよう」
甘い誘惑。
確かに、それなら葵は——
「その代わり」
風間の目が細くなる。
「君は、我々の『道具』になってもらう」
「道具…」
「記憶を狩る、最強の道具に」
やはり、そういうことか。
「それも、断る」
「残念だ」
風間がため息をつく。
「では、仕方ない」
パチン
指を鳴らすと、統制局の人間たちが包囲網を作った。
「力ずくでも、連れて行く」
「やってみろ」
俺も構えを取る。
仲間たちも、戦闘態勢だ。
でも、相手が悪すぎる。
レベル70に加えて、この人数。
勝ち目は——
「待ちなさい」
凛とした声が響いた。
空から、誰かが降りてくる。
白い翼を持つ、美しい女性。
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【セラフィム】Lv.???
職業:記憶天使
所属:記憶守護協会
記憶統制局と対立する組織のトップ
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「セラフィム…」
風間の顔が歪む。
「なぜ、ここに」
「この子たちは、私が保護します」
セラフィムが俺たちの前に立つ。
「手出しは許しません」
「記憶守護協会が、なぜ介入する」
「始原の記憶が動いたからです」
!
始原の記憶。
やはり、重要なものだったのか。
「それに」
セラフィムが俺を見る。
「この子は、『予言の子』ですから」
予言の子?
また新しい単語が。
「ちっ…」
風間が舌打ちする。
「今日のところは引き上げる」
「賢明ね」
風間たちが車に乗り込む。
去り際、風間が言った。
「朝倉蒼。君は必ず、我々のものになる」
そして、統制局は去っていった。
「ふう…」
緊張が解ける。
「あの、あなたは?」
「セラフィムです」
天使のような女性が微笑む。
「記憶守護協会の代表をしています」
「記憶守護協会?」
「記憶の自由と尊厳を守る組織です」
セラフィムが説明する。
統制局が記憶を支配しようとしているのに対し、守護協会は記憶の自由を守ろうとしている。
「そして、あなたは特別な存在」
「予言の子、ですか?」
「はい」
セラフィムが俺の手を取る。
瞬間、ビジョンが見えた。
古い予言書。
そこに書かれた一節。
『記憶を喰らう者が現れし時、世界は大きく変わらん』
「これは…」
「1000年前の予言です」
セラフィムが言う。
「あなたこそ、その予言の子」
重い話だ。
俺はただ、妹を救いたいだけなのに。
「でも、今はまだ早い」
セラフィムが手を離す。
「いずれ、すべてを話します。それまで」
光に包まれて、セラフィムの姿が薄れていく。
「強く、なりなさい」
そして、消えた。
「…なんだったんだ」
真田先輩が頭を掻く。
「さあ…」
俺にもわからない。
予言の子。
始原の記憶。
記憶守護協会。
謎ばかりが増えていく。
『大丈夫よ』
Systemの声が響く。
『一つずつ、解決していけばいい』
そうだな。
今は、目の前のことを。
葵を救うこと。
それが最優先だ。
夜が近づいている。
長い一日だった。
でも、確実に前進している。
仲間と共に。
一歩ずつ。
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