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## 第11話「記憶の暴君」

第二層と第三層の境界。


そこには、門ではなく深い谷があった。


底が見えない、記憶の深淵。


「どうやって渡る?」


真田先輩が谷を覗き込む。


「飛び越えるには広すぎる」


幅は100メートルはあるだろう。


「橋は…ないみたいね」


鈴音も周囲を見回す。


その時、美咲が何かに気づいた。


「あれ」


指差す先に、小さな石碑があった。


『真実の記憶を持つ者のみ、道は開かれる』


「また謎かけか」


「真実の記憶…」


何のことだろう。


俺たちが悩んでいると——


『その意味なら、私が知ってるわ』


Systemの声が響く。


『真実の記憶とは、偽りのない純粋な記憶のこと』


『偽りのない?』


『そう。人は無意識に記憶を美化したり、歪めたりする。でも、ありのままの記憶を持つ者は少ない』


なるほど。


「みんな、ありのままの記憶を思い出してみよう」


俺の提案に、全員が目を閉じる。


偽りのない、純粋な記憶。


俺が思い出したのは——


葵との思い出。


初めて妹が生まれた日。


小さな手が、俺の指を握った瞬間。


その時の、純粋な喜び。


カッ


突然、谷に光の橋が現れた。


「やった!」


でも、橋は不安定で、今にも消えそうだ。


「急いで渡ろう」


一列になって、光の橋を渡る。


途中、何度か橋が揺れたが、なんとか全員が渡り切った。


そして、ついに——


第三層に到着した。


### ◆◇◆


「これは…」


第三層は、他の層とはまったく違っていた。


荒廃した大地。


空は赤く染まり、至る所に記憶の残骸が散らばっている。


まるで、戦場の跡のようだ。


===================================

【エリア情報】

記憶の深層界・第三層

危険度:S

生息する記憶体:Lv.40~60

特殊環境:記憶汚染度・高

===================================


「気分が悪い…」


鈴音が顔をしかめる。


確かに、ここは空気が違う。


記憶が腐敗したような、嫌な感じ。


「中心部を目指そう」


残留思念の言葉を信じるなら、そこに目的のものがある。


慎重に進む。


途中、いくつかの記憶体と遭遇したが、なんとか戦闘を避けた。


そして——


「あれは…」


中心部に、巨大な建造物があった。


黒い結晶でできた、歪な城。


「あそこに、暴君がいるのか」


「多分な」


真田先輩が剣を確認する。


「覚悟はいいか?」


「ああ」


全員が頷く。


城の門は、開いていた。


まるで、俺たちを待っていたかのように。


中に入ると——


「ようこそ、記憶喰らい」


声が響いた。


玉座の間。


そこに、『それ』はいた。


===================================

【記憶の暴君】Lv.65

職業:堕ちた記憶王

HP:5000/5000

MP:3000/3000


かつて最強の記憶屋だった者の成れの果て

===================================


人の形をしているが、もはや人ではない。


全身が黒い記憶結晶で覆われ、赤い目だけが光っている。


「待っていたぞ、朝倉蒼」


「!」


俺の名前を知っている。


「なぜ、俺を」


「決まっている」


暴君が立ち上がる。


「私が、お前を呼んだからだ」


「なんだって?」


「依頼人は、私だ」


衝撃の事実。


この化物が、500万メモの依頼主。


「なぜ、そんなことを」


「お前の力が欲しかった」


暴君が一歩前に出る。


「記憶を喰らう力。それは、私がかつて求めて、得られなかったもの」


「だから、俺を」


「そうだ。お前を喰らえば、その力も手に入る」


なるほど、罠だったか。


「悪いが」


俺は記憶武装化を発動する。


「大人しく喰われるつもりはない」


「ほう」


暴君が嗤う。


「レベル差が分からないか?」


確かに、レベル差は42。


普通なら、瞬殺される差だ。


でも——


「一人じゃないから」


仲間たちも戦闘態勢を取る。


「ふん、雑魚が何人いようと」


暴君が手を振るう。


瞬間、凄まじい圧力が襲いかかる。


「ぐっ!」


全員が膝をつきそうになる。


これが、レベル65の力。


「どうした?もう終わりか?」


暴君が嘲笑う。


だが——


「なめるな!」


真田先輩が吼える。


「記憶剣・解放!」


先輩の全力の一撃が、暴君に迫る。


しかし——


ガキィン


片手で受け止められた。


「この程度か」


暴君が剣を砕く。


「があっ!」


先輩が吹き飛ばされる。


「真田先輩!」


「次は誰だ?」


暴君の赤い目が、俺たちを見下ろす。


絶望的な力の差。


でも、諦めるわけにはいかない。


「鈴音、美咲、同時攻撃だ!」


「了解!」


「うん!」


三人で同時に攻撃を仕掛ける。


記憶調律、記憶創造、記憶喰らい。


三つの力が、暴君に向かう。


「無駄だ」


暴君が両手を広げる。


すると、黒い障壁が現れ、すべての攻撃を防いだ。


「私の番だ」


暴君の反撃。


黒い槍が無数に現れ、俺たちに降り注ぐ。


避けきれない。


「くそっ!」


===================================

【大ダメージ】

全員のHPが50%減少

蒼:HP 175/350

鈴音:HP 200/400

美咲:HP ???/???

真田:HP 300/600

===================================


「はぁ…はぁ…」


一撃で、ここまで削られるとは。


「どうだ?力の差が分かったか?」


暴君が嗤う。


「もう諦めろ。お前たちでは、私に勝てない」


確かに、正面から戦って勝てる相手じゃない。


でも——


『蒼、思い出して』


Systemの声。


『残留思念が言っていたこと』


そうだ。


暴君の『核』となっている記憶。


それを見つければ——


「記憶探査・全開!」


俺は全力で能力を発動した。


暴君の記憶を探る。


膨大な記憶の渦。


その中心に——


「見つけた」


一つの記憶が、核として存在していた。


それは——


幼い少女と過ごした、幸せな日々の記憶。


「娘…?」


「なに?」


暴君の動きが止まる。


「お前の核となっている記憶。それは、娘との思い出」


「黙れ!」


暴君が激昂する。


「その記憶に触れるな!」


凄まじい攻撃が飛んでくる。


でも、今度は違う。


動きに隙がある。


「今だ!」


俺は全速力で暴君に向かう。


「記憶喰らい・核心摂取!」


娘の記憶に手を伸ばす。


「やめろおおおお!」


暴君の絶叫。


でも、遅い。


記憶に触れた瞬間、ビジョンが流れ込んできた。


——幸せだった頃の記憶。


まだ人間だった頃の暴君。


最愛の娘と過ごす日々。


しかし、娘は病に倒れた。


治療には、膨大な記憶が必要だった。


暴君は、娘を救うため、他人の記憶を奪い始めた。


最初は悪人から。


次に、罪人から。


そして、無関係な人々からも。


でも、間に合わなかった。


娘は、父の腕の中で息を引き取った。


絶望した暴君は、さらに記憶を求めた。


もしかしたら、死者を蘇らせる記憶があるかもしれない。


そんな妄執に取り憑かれ、ついには——


人ではないものになってしまった。


「ああ…」


ビジョンが終わる。


暴君が、膝をついていた。


「私は…何を…」


核の記憶を揺さぶられ、正気を取り戻しつつある。


「娘を…救いたかっただけなのに…」


「…………」


俺には、痛いほど分かる。


大切な人を救いたいという気持ち。


俺も、葵のために——


「でも」


俺は言った。


「それでも、他人を犠牲にしていい理由にはならない」


「分かっている…分かっているんだ…」


暴君が、いや、一人の父親が泣いていた。


「もう…疲れた…」


暴君の体が、崩れ始める。


核の記憶を揺さぶられ、存在を保てなくなったのだ。


「最後に、一つ頼みがある」


「なんだ?」


「この記憶を…娘の記憶を…」


消えかけた手が、小さな結晶を差し出す。


「誰か、優しい人に…渡してくれ…」


そして、暴君は光となって消えた。


後には、小さなピンク色の結晶だけが残った。


===================================

【記憶の暴君撃破】

獲得経験値:10000

レベルアップ!

Lv.23 → Lv.28


獲得アイテム:

・少女の幸せな記憶(特級)

・記憶王の力の欠片

・500万メモ

===================================


「終わった…のか」


真田先輩が立ち上がる。


「ああ」


でも、俺の胸には重いものが残った。


暴君も、元は俺と同じ。


大切な人を救いたかっただけ。


「蒼」


鈴音が肩に手を置く。


「あなたは、彼とは違う」


「…………」


「だって、仲間がいるもの」


美咲も頷く。


「一人じゃないから、道を踏み外さない」


「そうだな」


真田先輩も豪快に笑う。


「お前は俺たちがいる限り、化物にはならねえよ」


「みんな…」


胸が熱くなった。


そうだ、俺には仲間がいる。


だから、暴君のようにはならない。


「帰ろう」


「ああ」


城を出ると、第三層の空が少し明るくなっていた。


暴君が消えて、記憶の汚染が薄まったのだろう。


手の中の少女の記憶が、優しく輝いている。


これを、どうするか——


「あ、そういえば」


美咲が思い出したように言う。


「結局、本当の依頼って何だったの?」


確かに。


暴君は俺をおびき寄せるために依頼を出したが、それだけだったのか?


その時、城の奥から光が漏れてきた。


「何か、まだあるみたい」


確認しに戻ると、玉座の後ろに隠し部屋があった。


そこには——


「これは…」


巨大な記憶結晶が安置されていた。


金色に輝く、見たこともない美しい結晶。


===================================

【発見】

始原の記憶(しげんのきおく)

世界最初の記憶

価値:計測不能


WARNING:危険度不明

===================================


「始原の記憶…」


これが、本当の目的だったのか。


でも、誰が何のために——


『それに触れてはダメ』


Systemの声が、初めて焦りを見せた。


『それは、まだ早い』


「System?」


『お願い、今は触れないで』


必死な声に、俺は手を止めた。


「…わかった」


今は、Systemを信じよう。


「でも、ここに置いておくのも」


「持ち帰ろう」


鈴音が提案する。


「厳重に保管すれば」


結局、始原の記憶も持ち帰ることにした。


これが後に、どんな意味を持つことになるか。


この時の俺たちは、まだ知らなかった。

【更新予定】

毎日更新を目指します!

最低でも週5は更新したいと思ってます。

【お願い】

★(評価)や感想をいただけると、作者のMPが回復します!

特に感想は、次話を書くエネルギーになります。

「ここが良かった」「ここはこうして欲しい」など、どんなことでも嬉しいです!


批判的な意見も大歓迎です。

初心者なので、皆様のご意見で成長していきたいと思ってます。

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