第三十七話 奪還
第三十七話 奪還
がくりと体から力が抜け、僕は膝をついた。
抱き抱えていたリスタルが地面を転がり、巨人のもとへと戻ろうとゆったりと立ち上がる。
そう簡単に彼女を取り戻せないことはわかっていた。
だからと言って、ここであきらめたくはない。
(だ……け、ど。これは―――)
自身の感覚が徐々にマヒしていくのが分かる。
それと同時に何者かが僕の体を操ろうと命令を出してくる。
(命令? もしかして――)
僕は薄れていく思考の中で、ガネットを内蔵したゴーレムのことを思い出していた。
あれは始め生み出されてから、命令を求めその通りに動いていた。
その一因だったのは――モンスタースキル【ゴーレム】だったはずだ。
(まさか、この毒は強制的にモンスタースキルを付与させるものなのか!?)
僕は目を閉じて、集中した。
自身の体に何度もスキルを使っているので要領は理解していた。
体内に流れる魔力素、その中に青い輝きを放つものがある。
予測は確信に変わり、僕は一か八かの賭けに出た。
(この魔力素を体外へ放出すれば……!)
毒素は体の血に溶け始め、その毒素に含まれている魔力は同じく全身に回ろうとしている。
合成時、魔力素が完全に消えた物体は砂へと還っていった。
今からやろうとしていることは、それを自分にやるということだ。
(だけど、何もしなければどのみちどうしようもない)
最悪のパターンを想像して怯む自分を叱咤し、僕は作業に入った。
頭に上がろうとする青い魔力素を慎重に弾いていく。
青い魔素は力が弱いからか、集中しないと色の識別がうまくできない。
(けど、腕が動くようになってきた)
予測は正しかったようで、まだ痺れこそあるもの、何者かの命令が弱まるのを感じる。
気が遠くなるような、だがしかしわずか数秒の格闘の末、僕は自身の主導権を取り戻し、立ち上がることに成功した。
ポロポロと、カサついたものが、肩に落ちてくる。
若干失敗したのか、僕の頬から少量の砂がこぼれ落ちてくる。
『約束してくれ、この技術は人には使わないと』
その砂を見て、ガネットの言葉を思い出した。
(そういうことだったのか)
未熟なあの頃、合成を人に使っていたら、恐らく僕は大変なことになっていただろう。
この技術は使い方によっては人をも殺すことができる技術だ。
(だけど、ガネット! 許してほしい)
僕は走りだした。
毒がまだ残っているのか、胃の中身がひっくり返りそうなほど、僕のコンディションは最悪だった。
だけど、休むわけにはいかない。
「リスタル!」
僕の問いかけにピタリと動きを止め、リスタルはまるで見えない糸に抗うようにゆっくりとこちらを振り向いた。
(毒に抵抗した。この段階で! リスタル、君はーー)
やはり、強い人だ。
僕は彼女の胸に手を当て、魔力素の反応を探る。
心臓に青い光が集まっている。
モンスタースキル【サイレントウォーカー】
こいつをーー!
「これでええ!!」
僕は全身全霊を賭して、彼女から青い光を操作し排出する。
ポロリと彼女の胸から、青い水晶が浮かび地面に落ちた。
「ラ、ル……ド…?」
「リスタル、よかった」
膝から崩れ落ちかけたリスタルを僕は抱きとめた。
今度こそ僕は彼女を取り戻せたのだ。
リスタルはゆっくりと立ち上がると、じっと僕を見つめてきた。
怒っているのだろうか、すっと力なく僕の頬を触れてくる。
「リスタル、忠告を無視してごめん」
僕の彼女はきょとんとして、柔らかく微笑んだ。
「違うの……ありがとう、ラルド」
それは水晶のように透明で、何物にも変えられない笑みだった。
「ア”ァーーー!?」
唸るようにロードクロは叫び声を上げる。
まるで、この事実を認めないと言わんばかりに。
僕とリスタルは奴を見上げた。
「倒しましょう、ラルド」
「うん、やろうリスタル」
相手は神を模した化け物かもしれない。
しかし、僕は負ける気がしなかった。




