第12話
「……優一……」
彼女の声が聞こえた、彼女に名を呼ばれた、次の瞬間。
優一は、肩を掴む〈旦那様〉の腕を、振り払っていた。
「ーーお前たちの思い通りになんか、なるものかっ!」
そして、手に持っていた果実を、敵の顔面めがけて投げつけた。
『グオオッ⁉︎』
相手が怯んだところを、間髪入れず、銃を持っている方の手を蹴り上げる。相手の手から離れ、宙を舞う銃を掴み取り、銃床で鳩尾を殴りつけた。
男の霊は、潰れた蛙のような声を上げながら前のめりに倒れ、そのまま動かなくなった。それを見届けた優一は、振り返りざま、銃口をもう一体の悪霊に向ける。
「さあ……俺たちを、この異世界から解放しろ!」
ところが、夫の霊を戦闘不能に追いやられ、自らも銃口を向けられたにも関わらずーー〈奥様〉は、ニヤリ、と口角を吊り上げた。
『まだ分からないのかしら? ここは死者の領域、どれだけ上手く立ち回ろうと、生者に勝ち目はないわ』
「何だって? ……うっ⁉︎」
途端ーー強奪した銃が、ぐねり、と形を変えた。あたかも黒い蛇のように腕に巻きつき、身動きが取れなくなる。
『ほらね? だからもう、巫山戯た真似はよしてちょうだーー』
「ふざけてるのはあんたの方よっ!」
だが、ここで更に、新たな動きがあった。セーラー服姿の可憐な少女が、少年と女の霊との間に割り込んだのだ。
「千夏⁉︎ 目が覚めたのか!」
「ええ。いつまでも眠ってたら、こいつらを殴れないもの!」
『いっちー! あたしも起きたよ!』
「メイ子さんも⁉︎ 良かった……!」
幼馴染の少女ーー千夏が、強気に笑う。その隣にメイも駆けつけてきた。『幽霊パーンチ!』と言って拳を振るい、優一の腕に絡みついていた黒い蛇を吹き飛ばす。
それを見て、優一の顔にも笑みが浮かんだ。胸の痛みはもう気にならない。だから、息を吸い込み、もう一度、声高に叫んだ。
「俺たちは、お前たちの思い通りにはならない。ーーお前たちを倒して、この呪いを終わらせる‼︎」
嗚呼、うわべだけみれば、確かに素晴らしい物語だろう。
死んだ一人娘を生き返らせんとする、世界一美しい親の愛の物語。かの童話の筋書そのままに、王子様の口付けによって目を覚ますお姫様。奇跡と愛によるハッピーエンド。
……嗚呼、その実態は、なんて巫山戯た物語だ。
使用人たちと大勢の犠牲者の骸を積み重ね、その上で、狂った【お妃】と【狩人】が嗤う。本物のお姫様などどこにもいやしない、血と蛆虫にまみれた舞台。
ふざけるな。
そんなもの、ここで終わらせてやる。
さあ、今こそ、この呪術の結末を叩き壊せ!
『させるものか、させるものかサせるモノかサセるモノカらサセルモノカサセルモノカーー!』
〈奥様〉が、絶叫した。
その姿に、既に先程までの美しさは微塵もない。いつのまにか彼女の肌もまた蛆虫に覆われ、黒い着物はぼろぼろになっている。眼球の腐り落ちた眼窩から赤黒い血を流すその様は、醜悪な化け物以外の何物でもない。
凄まじい執念と怨念に突き動かされ、腐臭を撒き散らしながら、血と膿を垂れ流しながら、化け物が襲いかかる。
だが、そんな悪霊に向けて。
最後まで【王子】にならなかった少年は。
何かに突き動かされるように、握りしめたスマートフォンをーーかつて少女の幽霊が、『光』と称したそれをーー振り下ろした。
◆
781:小説にあった怖い名無し
>>700では、あんな不穏なことになってたけど…それでも…
1たちは今も、怪異に負けずに戦っている、そんな気がする!
782:小説にあった怖い名無し
ああ、そうだろうとも!!!!
あんなマイペースでフリーダムな連中が、そう簡単にやられてたまるか!!
そうだとすれば、オレたちは信じて待つだけだ!!!
783:279
そうだ! 怪異が掲示板越しに、こちら側に干渉することができるなら……逆に、おれらの方からあちら側に干渉することも可能なんじゃないか!?
784:57
>>783
なるほど、確かに!
ここに応援の言葉を書き込めば、その言霊の力によって、敵にダメージを与えられるかもしれません!
785:小説にあった怖い名無し
>>783-784
よーし、そうとくれば応援合戦じゃあ!!
みんな、思いの丈をここに書き込むぞ!!
786:小説にあった怖い名無し
よしきた!
1、聞こえてるかーっ!?
俺たちはここにいるからな!
お前らを待ってるからな!!!
787:小説にあった怖い名無し
イッチ頑張れええええぇぇぇ‼︎
788:小説にあった怖い名無し
1たちいっけええええっ!!!
789:60
こわいけど、いまも寒気とまらないけど、にげない
ここで1たちを応援する
ちゃんと塩のあめをもってきたから、きっとだいじょうぶ
790:278
俺も塩飴を用意したから平気だぜっ!
塩飴うめえ
791:56
>>790 食うなw
もとより霊感ゼロの私に恐れるものなどないわっ!
1さんたち、頑張って!
792:小説にあった怖い名無し
メイちゃん!
あの心霊写真を見てから、ぼくはずっと貴女のファンです!
悪霊など貴女様の幽霊キックでぶちのめしちゃって下さい、何ならぼくにも幽霊キックをお願いします!!
793:小説にあった怖い名無し
>>792
ここは幼馴染の「破ぁ!!」だろ!?
俺は、「寺生まれってスゴイ」を体現する幼馴染の活躍に期待してるぜっ!
794:小説にあった怖い名無し
>>792 >>793
二人とも分かってねえな!ここはやっぱり、1の塩飴パンチだろうが!!?
795:小説にあった怖い名無し
>>792-794
何でもいい。
とにかく1たちが勝って戻ってこれるのなら、それで良い。
796:小説にあった怖い名無し
>>795 それな!!
とにかく、三人とも頑張れえええぇぇっ!!
797:10
もうこれ以上脱ぐものがない \(^o^)/
だが、応援は続けるぜwwwwww
798:小説にあった怖い名無し
>>797 不覚にもワロタ
799:小説にあった怖い名無し
イッチ頑張れ。イッチ超頑張れ
800:小説にあった怖い名無し
1の代わりに800ゲット!
この掲示板が、あの時、メイちゃんを起こす“光”になっていたのだとしたら……
もう一度……私達の応援が、奇跡を起こしますように!
◆
振り下ろしたスマートフォンの画面から、まばゆい光が溢れ出す。
巨大な柱と化した白い光は、前方へと勢いよく打ち出されーー悪霊を、吹き飛ばした!
続く
これは余談ですが、第7話での会話に出てきたイザナギとイザナミの物語は、白雪姫の童話と似ている(?)ような要素があって興味深いと思います。
それはそうと、次回で完結です。