18(最終話)
「はぁ、皆シビアだな」
目の前を通り過ぎていったクラスメートの会話を聞きながら、清太郎が呟く。
「そりゃそうでしょ、そのためにいま一生懸命勉強してるんだし。…あ、椿木君」
人影もまばらになった講堂からようやく出てきた待ち人を見て手を上げる。
講堂から姿を見せた椿木はどこかぼんやりとして、ジョージから声かけられた事に気がついて顔を上げた。
「清太郎にジョージ…。待っててくれたんだ」
二人の顔を見てほっとしたように表情を緩める。
「当然」
「お疲れさん」
近づいてきた椿木の頭を交互にわしわしと撫でまわしてやる。
「まだまだ終わったわけじゃないけど、これで一応精神的には余裕ができるだろ?」
取りあえずは椿木に対するリコールは却下されたは却下されたが、だからと言って溜まった書類は無くならないし、これからも学園の行事は続くので生徒会役員としての仕事も終わったわけではない。
それでも、前役員が手伝ってくれるし、新しい役員を決めるための選挙をすれば、うまくすれば書記を他の誰かに押し付けることもできる。
選挙の為のアレコレを考えるとまた頭が痛いが、それはそれだ。
「月曜日からなんだけど、今晩部屋でお疲れさんのパーティしよう。椿木君の好きな小龍包つくってあげるから」
ジョージの言葉に椿木がピクリと反応する。
「…エビ入り?」
「エビ入り」
「……揚げ出し豆腐は?」
「たっぷりトロみ餡かけでしょ?作ってあげるよ」
「お願いします」
椿木が頭を下げると、意外と料理男子なジョージがにこにこ腕がなるなぁと笑った。
「よし、じゃあ戻るか」
まだまだ夕飯には早い時間ながら、今日はもう授業もないし何時までもここに立ち止まってる理由もないので、三人はそろって寮へ足を向けた。
「しかし、蝶名林先輩とかてっつんとか出た時はびっくりした~」
ジョージが先ほどの様子を思い出して口を開く。
「あー、アレはな。でもよく考えたら、この状況を見て先輩たちが黙ってる訳もないんだよな」
この学校で6年間過ごした蝶名林にしてみれば、学園に対する愛着はあるだろうし、自分たちの次の代の生徒会が学園に混乱を引き起こしたとなれば、引継をした先代としても放っておくことはできなかっただろう。
何より、問題を起こしたのが同じグループの遠縁になるとはいえ親戚だ。
恥を知るのであれば黙っているわけがない。
「思ったより生徒会もバカだったし」
「あ~…。うん、僕もバカだと思った」
数々の反論を思い出しながら椿木も同意する。
「さっきのSクラスの先輩たちじゃないけど、あんなのが将来社長だとかって無理でしょ」
先日で終了したテストの結果も今週返されるし、間もなく始まる夏休みに帰省するとなれば、両親からなんと言われるか戦々恐々だろう。
「っていうか、今回のこの騒ぎがさ、何年かしたら「書記の乱」とかなんとか伝説になってたりして」
清太郎が冗談めかしてそんな事を言う。
「いやいや…そりゃないでしょ」
乱だなんて、椿木から問題起こしたわけじゃないし。
そんな話をしていた三人が卒業して後、「ある書記によるリコール返し~Sクラスの矜持~」という、恥ずかしくて転げまわりたい伝説名がついてしまうのは、もう数年先の話。
もっと短編の予定だったんですが、思いがけず長くなり、しかも広げた風呂敷のたたみ方を忘れました…。勢いだけで書いた学園モノで、結局BLになってませんが。これにて終了です。