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Cosmos of Penguin  作者: 祖父江直人
#4.UNDERGROUND
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15/20

星の秘密

もう転載とか関係ない展開です。

「私は、ナイグル・ジェグルズ。お前の言ったような職業の者だ。」


 ナイグルの筋肉質で傷だらけな背中を見ながらジンが言う。


「報酬があるのなら、俺も革命家になりたいもんだな。」


 地下水が浸み出し、湿った暗い道を歩いていく。


「かつて、ここは天然の水を浄化する処理施設だったらしい。今ではもう必要のないものだがな。」


 ナイグルが話すように、人口植物が育ち、人口水が流れ、人口動物が闊歩するこの星には必要のないものだった。天然のものは、ほぼすべて『ダスト』に汚染されている。


「俺はたまに飲んでいたがな。おかげで、胃が丈夫になった。」


 へらへらと言うジンにナイグルが「外した腕輪で口を塞いでおくべきだったな」と言った。


 やがて、開けた場所に出た。ジンが驚嘆の声を上げる。


「これは随分と大がかりだな。」


 二つのシェルターの間に挟まれた“地下外円”は、さながら巨大渓谷にできた集落だった。


 ジンは内側のシェルターに沿って幾重にも組み上げられた鉄骨と木材でできた足場の上に立つ。いくつものライトや松明の炎に照らされた数千メートルの眼下には広大な地下河川が流れ、人の姿が見える。


「ジン、SBは操作できるな。来るんだ。私の仲間に会ってもらう。」


 言いながら、ナイグルが置いてあった流線型の機体に乗り込む。


「ほう、大気中での航行仕様になっているのか。腕のいい大工がいるな。」


 ジンがやや煤けたSBに乗り込みながら感心する。ナイグルは少し笑ったような声で言う。


「作ったのはお前の親父だ。」


 余裕のある表情はそのままに、しかし黙ったジンに可笑しそうな笑みを投げかけると、付いて来いと言うようにSBを発進させた。


※※


 本来はB5がある地点よりももっと地下だろうか。流れの緩やかな川が流れる最下層に着いたジンは、地表以上に襤褸の服を着た子供たちの好奇の視線を受ける。


「将来の革命戦士か。地表の方がいくらかマシな気がするが。」


 ジンの嫌味とも取れる発言には構わず、ナイグルは川辺に停めたSBを降り、歩き出す。


 文化レベルが相当下がっている地表で暮らしてきたという自覚があるジンから見ても、木材を組み上げただけの住居が並ぶ光景は、前時代的と言うよりは原始的とさえ思えた。


 シャツやズボンといった、衣服と呼べるものを纏っているのならまだ良い方で、中にはよく分からない布を体に巻き付けているだけの者もいる。ダストの異臭こそしないものの、衛生的にも最悪の部類に入る。


 きょろきょろと地下外円を見まわすジンに、ナイグルがたまりかねたように声を上げる。


「どうした?」


「いや、さっきは“地下外円都市”と言ったが、これはもう村だな、と思ってな。」


 下は砂地であり、歩くたびに“ザッザッ”という音がする。


「地表の方が暮らす分には楽と言いたいのか。しかし、奴らの喉元にいることの意味は大きい。何かが起こった場合、いつでも噛みつけるようにな。」


 ジンはよく分からない、とでもいうように両手を上げた。それ以降は黙って歩いていたが、ふと何かを見つけ、走り出した。


「あ、おいジン!勝手に動くな!」


 ナイグルが巨体に見合わぬ俊敏な動きで追いかけるが、それ以上にすばしっこいジンは目標に向かって一気に距離を詰める。


 そこは、ある高床式住居だった。軽い身のこなしでそれを登り、さらに上の、長屋のようになっている場所に向かう。


「おい、何をやって―――」


 長屋の前の鉄板で作られた通路を通る途中、軍服を着た男たちに出くわすが無視し、風のように走り過ぎていく。男たちは追いかける。


「止めろ、殺すんじゃないぞ!」


 息を切らしながら追うナイグルが叫ぶ。ジンがある住居の前に立ち止まった。丁寧にその玄関(扉は無いが)にノックをする仕草をしてから、中に入る。


「ごめんくだ―――」


 しかし、言っている途中に幾人もの男たちがのしかかってきた。うつ伏せに捉えられたジンを、中にいた女が状況を把握できていない様子で驚愕している。


「な、なんなの?あなた。」


 ジンは男たちがのしかかっていることなど何でもないという表情で、言う。


「そちらのお嬢さんに話がある。」


 ジンが言った方には、あの下水施設で会った少女の顔があった。あの時は光源が足りなくて分からなかったが、よく見ると髪と肌が白い。年齢は十歳くらいと見えた。


「この子に、何の用ですか?」


 母親と思わしき女が子供を後ろに隠しながら言う。


「いや、大したことじゃない。ただ、B4にいた彼女に、少し訊きたいことがあってね。」


 そう言うと、ジンは母の背中から顔を出す少女の目を見て、言った。


「B4で、スパナを見なかったかな?」


「スパナ……。」


 少女が何を指すものか分からないと言った風に復唱する。


「先が変な形をしている、鉄製の物だ。」


「見た。」


 ジンの顔が晴れる。


「拾ったか?」


「拾わないよ。あんな汚い物。」


 ジンが、がっくりと床に顔を付けた。


※※


 半分連行されるような形でジンが連れてこられたのは、“外円村”には珍しい現代技術を使った建物だった。ドアがあり、窓がある。中には、イスと机、そして奥には、ある女が胡坐をかいて座っていた。


「あんたが、レジスタンスのリーダーかな?」


 ジンが訊くと、男のように短髪にした、しかし体の線や顔の輪郭から女性だと分かる女は頷く。


「そこにお座りください。あと、少し汚れていますが、この服を着て。」


 立ち上がり、自分の羽織っている軍服を渡す。中はタンクトップ一枚で、より女性らしい曲線が露わになった。


「美人から服を手渡されるとは光栄だな。ありがたく受け取っておく、名前は?」


「エイラ。ジン・クライドですね。ペークドック・クライドの―――」


「養子。どうやら人気者のようだ。」


 ナイグルたちをまとめるボスにしては丁寧な口調のエイラに言う。だが、褐色の肌は恐らくネルと同じ人種。怒らせると怖そうだった。


「彼は、古くからの戦友でした。地表にいながら、我々を援助してくれた。」


「ウチが貧乏だったのも頷けるな。出世払いも期待できそうにない。」


 だが、そこを敢えて地雷原を走るのがジンという男である。エイラは少し表情を変えたが、口調は穏やかなままだった。


「彼は無償で、我々にSBを提供してくれました。感謝しています。」


「まぁ、ドクが自分の造った船をどうしようと勝手だが。ところでエイラ、俺はもう帰らないといけないんだが、いつまでいればいいのかな?」


 ジンは時計もしていない腕を見る仕草をして言う。


「一つの物を提供して頂ければ、すぐにでも。」


「デートであれば、こちらからお願いしたいくらいだ。」


 全く表情を変えず、エイラが「情報です。」と言い、ジンの顔が変わった。


「なるほど、まずはお互いを深く知ってからってわけか。」


「―――いちいち茶化さないと会話ができないの?」


 どうやら我慢の意図が切れ始めた様子のエイラが、若干砕けた口調で言う。


「女性と話すときは駆け引きを楽しむようにと義父から教わっていてね。」


「彼がそんなこと言うはずないでしょう。いえ、そんなことはいいわ。私たちが知りたいのは、あなたが読んだイノウ・ケンゴ氏の情報です。あなたのPCと記憶媒体を調べさせてもらったけど、プロテクトがかかっていて読めなかったの。」


 時間を変えれば個人レベルのプロテクトなど破れそうだが、どうやら急ぐ用があるらしい。ジンは「構わないが。」と言いながら、エイラに場所を指定した。


「二人きりになって話したいな。別に変な意味ではないさ。全部話した途端に撃ち殺されるんじゃたまらない。」


 そんなことはしない、と言いかけたエイラは、周りにいる殺気立った男たちを見回し、黙って頷く。


「付いてきて。確かに、これじゃあ話しにくいわね。」



※※


「おっと、また会ったな。」


 通された場所は先程侵入した住居だった。


「おばさん、カルラ、悪いけど、少しだけ出てくれる?」


 血縁者らしい二人に言い、カルラと呼ばれた少女と母親が外に出ると、床に座り込んでエイラが言った。


「あまりプライバシーは無いけれど、二人きりにはなった。話して頂戴、ジン。」


 ジンも座り、口を開く。


「何から話せばいいかな。」


「あなたの話したいように。こちらの方で解釈するから。」


 エイラは頭が切れそうだった。ジンは納得するように頷き、話し始める。


「なら、まずはあのカルラというお嬢さんのことから。」


「ちょっと!関係ないでしょう。」


 しかし、その声を手で制し、ジンは話を続ける。


「色素を失った髪と、同じように白い肌。かなりお転婆なようだが、彼女はDSだな。」


 ダスト・シック。DSと呼ばれる先天性の病気の特徴は、髪と肌の色、いずれも生まれつき白い。


 目に見える障害、疾患や運動機能の低下は見られないが、およそ短命で、20歳を迎える前後に死を迎える。


「俺の知り合いもそれで、若い頃に死んだ。奴は24までしぶとく生き残ったが。」


「ジンは、いくつなの?」


 若い頃、という言葉に反応したエイラが言う。


「さぁな。15辺りから数えるのをやめたから、よく分からない。」


 話を戻す。


「DSの原因は分かり切っている。ダスト、さらに言えばその基となった人造燃料。」


 人造燃料自体は低コスト高パフォーマンスな良資源だが、一旦使い切ると有害な物質を生成する欠陥品だと気付いた頃には、もう遅かった。


「星は汚染され、人は住めなくなった。―――まだ住んでいるがな。―――住民は地下に逃げ込み、惑星脱出を夢見ながら、今に至る。そのストーリーで、ほぼ間違っていないはずだ。」


ストーリー、という言い方に引っ掛かりを憶えつつ、エイラは頷く。


「俺にとっては、星外脱出なんて興味のない話だ。地下に住む上流階級の皆さんがやっていることなんて、どうでもよかった。だが、どうしても気になっていることがあった。地下の人間が、悠々と地上に出てくることだ。」


 アヤのような“物好き”だけでなく、地下の人間が地表に出て活動することは、往々にして、ある。


「汚染されている地表に、申し訳程度の汚染情報を持って防護服も無しに出てくる人間たちを、汚染した空気を盛大に吸った人間を、果たして星外脱出なんてさせるのか。」


「考え過ぎなんじゃない?DSだって、そこまで数多く出ているわけじゃないのだし。」


 エイラの言葉に、ジンは首を振る。


「地下の連中の潔癖っぷりを見ると、そんなルーズな対応をするとは思えない。入ってくる奴らには厳しく、出るのはご自由にってのも、引っかかる。この地下政府ってのがやっている目的は、本当に他の惑星のテラフォーミングと、その後の脱出なのか。と、思っていたら、これだ。」


 ジンは履いていた靴の底に隠していた小型チップを取り出す。


「今のうちに言っておくと、エイラたちが持っている記憶媒体はダミーだ。徒労に終わった後のナイグルたちの表情も見てみたいが、貸してくれた服に免じて教えておいてやるよ。」


 エイラは、やれやれという仕草をしながら「それはどうも。」と言った。


「それで、その中身がイノウ・ケンゴの秘密ファイルの内容ね。何が書いてあったの?」


「超光速ワープ航法エンジンの設計図。」


 ジンが言ったその言葉に、エイラが首を傾げる。


「それ、だけ?」


 ワープエンジン自体は、SLIの船にも実装されている。莫大な費用と多くの改良した人造燃料を必要とするため、ありふれたものではないが、地下の造船技師であったイノウ・ケンゴならばその設計図を持っていても不思議ではないと思えた。


「それだけさ。しかし、重要なのは、このエンジンをイノウ氏が何に取り付けようとしていたかだ。」


「何なの?」


「今、彼の娘が俺に作らせている輸送船さ。かなり完成してきたんだが、どうも何かが足りない。丁度巨大なエンジン一個分がね。だからこうして地底深くまで来たんだが、中身を見て驚いた。大気中、飛んでもSB程度の宇宙航空しかしないはずの輸送船にワープ装置を取り付けようとしていた。そして、それをしようとしたイノウ氏は、何者かに―――いや、SLIと地下政府の管理局に殺された。」


「イノウ・ケンゴは、ワープを使って、より遠くへ飛ぼうとしていたってこと?何故?」


 ジンは少し黙る。自分に考える時間を与えているのだと思ったエイラは、頭を働かせた。


 輸送船にワープをさせる利点。それは無論、普通の航行では行けない場所まで行けるところだ。つまり、SLIがやっているように、他の惑星へ飛ぼうとしていた。その目的も、SLIと同じくテラフォーミングだろう。しかし、それを個人レベルでやろうとしていたことが看過され、消された。それは何故だ?SLIは本当に―――まさか。


 衝撃的な解答に行き当たったエイラを見て、ジンが口を開く。


「SLIは、テラフォーミングなんか行っていない。そして、地下政府は住民を騙し続けている。」


 かつて、盗賊稼業をしていた頃、何度もSLIの船を襲った。テラフォーミングをするなどという事業の大きさの割に少ない船員と物資、パイロットたちは乗組員が惑星に降りても船内で待っていなければならず、事情を知らなかったのだろうが、不自然な点は、いくつもあった。自分には関係のないことだと考えないでいたが。


「どうしてそんなことを、いえ、一体、地下政府とSLIは何をしているの。」


 エイラが頭を抱える。理不尽な不平等の下で行われる管理社会を打倒し、地表の人間たちも地下の安息で暮らせるようにと戦ってきた。そして今回、ここで手に入った“カード”で政府と交渉を行うつもりだったのだが、ここにきて敵の正体が分からなくなってしまった。


「現体制の維持、ということは間違いないと思うが、それ以外のことについては全く分からないな。」


 ジンも言う。しかし、一つ付け加える。


「宇宙を飛ぶと分かるんだが、思ったより、俺たちの生きている世界は小さい。」


 エイラは顔を上げ、ジンの目を見た。何も映していないような黒い目は、まるで暗黒の広がる宇宙そのもののように思えた。


「視野を広げる必要があるかもしれないな。俺たちは、空に憧れて地面をヨチヨチ歩いている、ペンギンだ。」


「ペンギン……。」


「さて、エイラ。話は尽きないが、そろそろお客さんが来たようだ。迷惑かけちゃ悪いから帰るとするよ。」


 ジンが言った瞬間、警戒アラートが鳴り響いた。






次回はあの変態じゃなくて狂人が登場します。

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