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8.商人とのデート2

「良いお店ですね。」

エルミーヌが声をかける。


「最近できたカフェでね、来てみたかったんですよ。」

青年が笑顔で答えた。



彼は商人であるため、世間の流行に敏感でなければならない。

新しい店にはできるだけ足を運び、その空気を肌で感じることが重要なのだという。



「こういう店がさらに流行れば、もっと質の高い食器を取り扱うこともできるんです。需要が出てきますからね。」



青年はそう言いながら、テーブルに置かれた食器を観察している。



彼の目は商人としての鋭さを感じさせる。

食器の質感やデザインを値踏みしているようだった。



青年が取り扱っているのは主に香辛料と食器だという。

飲食店との取引が多いため、こうしたカフェやレストランを訪れるのも仕事の一環であり、彼にとっては重要な情報収集の場でもあるようだ。


エルミーヌは、そんな彼の真剣な一面に興味を引かれた。



「マルケセイン様は、お仕事以外の時間は普段何をされているのですか?」



「そうですね……完全に休みというのはあまりないかもしれませんね。」

青年は少し考え込みながら答えた。



彼は海外に商品の買い付けに行くことや、カフェやレストランに足を運び、情報を集める日々が多いという。



エルミーヌにとっては、どれも楽しそうに思える。



しかし、それが仕事として毎日続くとなれば、やはり良いことばかりではないだろうと想像する。



「すてきだけど、大変なことも多そうね。海外でのお仕事はどのようなものなの?」



「文化の違いで死にかけることがあって驚きますよ。商談相手の子どもに好かれようと思って、頭をなでたことがあるのですが……」



「微笑ましいことじゃない?」



「向こうでは奴隷にしかしない行為だったのです」



「まあ……!」



エルミーヌはあっけにとられてしまう。



「驚くことも多いですが、僕の妻になる方には、海外の買い付けでもぜひ一緒に来てほしいと思っているのです。



僕は家にいない時間も長いですし、海外でも来れるような胆力のある方ではないと、うまくいかないでしょう。」



マルケセインの海外での話はどれも興味深いものばかりだった。

彼の柔軟な考え方は、海外での異文化に触れていることもあるのかもしれない。



その話を聞きながら、異国の地で一緒に交渉をする自分の姿を想像してみる。



未知の世界を知る彼との生活はどれほど刺激的だろうと思う。

しかし貴族として安全な屋敷にいることの多かったエルミーヌは、見慣れぬ海外での生活が上手く想像できなかった。



紅茶が運ばれてくると、二人は再び会話に戻り、カップを手に取った。



***


デートの後日、エルミーヌは従者とともに、再びグレシアナ相談所へ訪れていた。



初めてのデートの感想や、問題がなかったか、考えに変化があったか、状況を報告するためだ。



「お久しぶりです。デートはいかがでしたか?」



グレシアナは紅茶を出そうとしてくれたが、エルミーヌは断って水を飲んでいる。



紅茶にはこだわりがあるため、下手なものを出されると表情に出てしまいそうだからだ。



「とても楽しかったわ!聞いたことのない異国の話ができて、彼の価値観は新鮮だった。」



エルミーヌは髪色を「売り込み方次第」と表現されたことを思い出した。あの言葉でどれほど救われたことだろう。



「だけど、2回目以降のデートはお断りさせていただきたいわ。彼は異国に付いて来られる相手を探しているようだから、私では条件が合わないと思うの。」



エルミーヌははっきりと言った。



このまま何度かデートを重ねるのも楽しそうではあった。

しかし、マルケセインが結婚相手の希望をはっきりと持っていることもあり、将来を共にすることを考えていない自分が、いたずらに彼の時間を奪うのは良くないだろうと思ったのだ。



外見について前向きな言葉をくれたマルケセインとまだ会いたい気持ちはあったが、好感をもったからこそ、誠実に対応したいと悩んだ末の決断だった。



「そうですか……。残念ですが、お伝えしておきますね。ちなみにマルケセイン様は、今後もお会いしたいというご希望でした。」



しかし、と前置きをしてグレシアナは話しはじめた。



「マルケセイン様が気にされていたことが1つございます。

エルミーヌ様とのデートはとても楽しかったけれど、あまり自分のことを話したがっていなかった、と。


質問内容も仕事の話が多く、まるでインタビューのようだったとおっしゃっていました。」



エルミーヌはぎくりとする。



確かに、貴族であることをばれないよう、自分のことをあまり話さなかった。



それに、結婚する気がないため自分の好みの異性や恋愛の話なども避けていたかもしれない。


エルミーヌからすれば、婚約破棄の傷を癒す気分転換のための出会いであり、恋愛のスイッチが入っていなかった。



「……ごめんなさい。彼の話がどれも楽しくて、質問ばかりしてしまったわ。今後は気を付けるようにするから。」



「いえ、いいのです。貴族であることを隠しながら会話するのは大変だと思います。ただ、ご自分の考えや気持ちも今後はお伝えになってみてくださいね!


次のお相手は予定通り、プロフィールをお渡しした2人目でよろしいでしょうか?」



「ええ、大丈夫よ。」

エルミーヌはうなずき、また日程の調整を始めた。



いつもお読みいただきありがとうございます。

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明日以降、毎日更新の予定です。

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