16.
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公爵が帰った後、フレデリカはへとへとのままベッドへダイブした。
まさかの降って湧いた理想的な結婚相手に、フレデリカの心臓は高鳴っていた。
(まさかこんなに理想的なお方が声をかけてくださるなんて。)
フレデリカはこれからの明るい未来を想像し、同時に胸の端に、チクリと傷む部分があることに気がついていた。
(結婚さえできれば、それで安心じゃない。
身分も高く、お金持ち。申し分ないわ。)
フレデリカはディートリヒに言われた言葉を思い出していた。
そうだ、彼の言った理想の相手じゃないか。
公爵様は呪いも気にしないと言ってくれている。
それなのに、フレデリカの気持ちは浮かなかった。
ディートリヒの顔がちらりとよぎる。
それがなぜなのか、フレデリカ自身にもよくわからない。
フレデリカは自分の気持ちにふたをして眠ることにした。
***
その後も何度か、公爵は屋敷を訪れた。
そのたびにプレゼントを用意してくれ、フレデリカに愛の言葉を伝えてくれる。
ついにその日は来た。
「フレデリカ、うちの屋敷に来ないか?」
恐れていた外出のお誘いだった。
この外出で公爵に何かあれば、首が飛びかねない。
フレデリカのこれまでの経験から言えば、絶対に何か不幸が起きる。すでに対策方法は判明しているとは言え、今回ばかりは問題を起こすわけにはいかなかった。
「公爵様、あの、ご存じかと思いますが、わたくし少し不思議な現象が起きていまして……」
「知っているよ。交際相手に不幸が降りかかるというものだね?」
「ええ、それで、最近その解決方法がわかり始めまして……。お見苦しいかと思うのですが、全身を隠す姿で伺ってもよろしいでしょうか?」
「もちろんどんな姿でも構わないよ。僕は君のせいなら不幸にも巻き込まれたいけどね」
「やだわ、公爵様ったら……」
ヴォルカニア公爵はフレデリカにとても優しくしてくれる。
何度も会うことでようやく緊張もほぐれ、フレデリカはヴォルカニアの隣に並ぶ未来が見えるようになった。
まずは第一の関門は通過した。真っ黒な服装で公爵の屋敷を訪れるなど不吉だと思われかねないが、ヴォルカニア公爵の身の安全のためには必須なのだ。
フレデリカはどうにか安心して屋敷にお邪魔することができそうだった。
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ヴォルカニア公爵の屋敷はもはや小さな村ほどではないかと思うほど広く、領地に入ってからもいくつもの門を超えてようやく屋敷にたどり着いた。
「ようこそフレデリカ。やっと君をこの場所に迎えることができて感激だよ。気に入ってくれると嬉しいんだけど」
「お招きいただきありがとうございます。素敵なお屋敷で圧倒されていますわ」
ヴォルカニア公爵はフレデリカの真っ黒なかっこうを見て、一瞬表情をこわばらせたが、すぐに笑顔になり出迎えてくれた。
「驚くのはまだ早いよ。ちょうどバラがきれいだから庭を歩こう」
ヴォルカニア公爵は庭を案内してくれた。彼の従者が日傘を持ってくれる。フードをかぶっているというのに、気遣いを忘れない。
庭として紹介された目の前には広大な緑が広がっており、どこまで続いているのか先が見えない。
美しいバラの生垣が並び、迷路のようになっている。
「圧巻ですわ。こんなに手入れのされたお庭は見たことがありません。」
「離れないようにね。僕が子供のころは、母の言いつけを破り何度も迷子になったものだ。」
公爵はそっと手を取り、そのまま手を引いて歩き進めていく。自然なエスコートだった。
日差しは強くない?大丈夫?と聞きながら、ヴォルカニアは庭園を案内してくれる。
幸いにもフレデリカの呪いは発生していないようだった。
平和な公爵との時間をフレデリカは楽しんだ。
途中、何人かの庭師が作業しているのが見えた。広大な庭のため、やはり常に手入れは欠かせないようだった。
何人目かの庭師を横眼にした時、フレデリカははっとした。
通り過ぎようとしたところを慌てて見直し、二度見する。
「どうかしたのかい?」
フレデリカの動揺を目ざとく見抜き、公爵が声をかけた。
「いえ、なんでもありません……!」
フレデリカの目に映ったのは、ディートリヒだった。
こんなところにいるはずがない。よくよく見直すと、おそらく人違いだった。以前見たディートリヒよりもずっと日焼けしている。
公爵様と手をつないでいるというのに、気がそぞろになっているのかもしれない。フレデリカは自分の勘違いを恥じた。




