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10.

***


フレデリカと植物学者ディートリヒの初めての面会は、ディートリヒの屋敷で行うことになった。

相手はどこかへ出かけることを提案したが、経験から言って、外の方が危険が多い。屋敷の中の方がまだ問題が起きにくいと考え、フレデリカからディートリヒの屋敷に行くことを提案した。


ディートリヒは貴族家の四男で、領地をもらって細々と生活しているらしい。

屋敷はフレデリカの領地からそう遠くない場所にあった。


屋敷につくと、とにかく長い長い庭が特徴的だった。巨大な植物が生え、まるで異国のようだ。

屋敷の門に入ってからも、なかなかたどり着かない。

見ごたえはあるが、来客をもてなすためではないことは明白だった。


「研究熱心なのかしらねぇ」

フレデリカは侍女として付いてきたルチルへ、聞くともなしに声をかけた。


「事前に調べたところ、水不足でも育ちやすい植物の開発で王国勲章を授与されています。実績は十分のようです。」


「そう、いい人だといいんだけど」


フレデリカからすれば、実績や地位などは大した問題ではなかった。

呪いがかからないか、解決につながるかどうかの方がよほど大切だ。


あまり気が進まないが、占い師の結果を信じるのであれば、この男が何か将来のための手助けになるはずだ。

緊張と少しの期待がまじりながら、フレデリカは長い道のりが終わるのを待った。


***

長い道のりが終わり、屋敷につくと、案内されたのは書斎のようだった。


ドアを開けると、長身で神経質そうな男が座っている。


「ディートリヒだ。はじめまして、フレデリカだね。君のことは聞いているよ。婚約をした相手に不幸が続くんだって?」


ディートリヒは立ち上がり握手を求めてきた。カツカツとした靴の音がいらついているように聞こえる。


「すでにいくつか理由の検討はついているが、あらためて内容を聞かせてくれるかい?」


フレデリカは『はじめまして』と挨拶を返そうと思ったが、すぐさま質問をされ、あいさつすら挟む隙が無かった。


「ええ、えっと、出かける日は大雨になったり、婚約者の馬車のドアが外れたり、デート中に外で泥をかぶったり、火傷をしかけたりしまして……」

「火傷はどんな状況で?」

「焼き鳥の出店で並んでいたら、火が強くなりすぎて、それでかしら……」


「顔と体型を隠せ」

「え?」

「その不幸の原因は明らかだ。君は『地獄のロベルタン通り』を知っているか?」

「……知りません、何のことですか?」

「『地獄のロベルタン通り』はある町の事故が異常発生した通りのことだ。馬車の衝突、通行人の飛び出しなどがこの通りだけ多く、けが人が後を絶たなかった。特別、人が多い地域でもない。なぜその通りだけ問題が起きるのか、悪魔の仕業だと教会が調べに向かうほどだった。


結果、悪魔でも何でもなかった。その通りの角にあるパン屋に、美人の売り子がいたんだ。その美人が窓から見えるため、人々が窓を凝視してよそ見が増える。御者も通行人も荷運び人もみなよそ見をしたため、衝突事故が起きていたんだ。」


フレデリカは目をぱちぱちさせる。


「君の呪いもおそらく同じだ。焼き鳥屋の店主は君を見つめてよそ見をして火の強さを誤った。近くを通る人々は君をみてよそ見をする。近くにふらふら歩いている奴がいたらそれを避けようとして、周囲の動きも不自然になる。そうやって君のまわりで事故が増えるんだ。」


フレデリカは呆然とした。これまでは自分に何か特別な問題があるのだと思っていたが、そんな現実的な話なのだろうか。


「だけど、雨だって降るし、よそ見なんかで説明がつかない不幸もたくさん起きていますわ。それに問題が起きるのは男性と出かけるときだけなんです。」


「雨は知らんが、男と出かけるときは従者も気を遣って距離をとって歩くだろう。普段の大量の従者に囲まれて目隠しになっている状態より、目に入りやすいんじゃないか?


あとはやっかみが原因のものもあるだろう。田舎では美人を嫁にした男は早死にすると言われている。まわりからひがまれて嫌がらせを受けるからだ。馬車に細工をされるなどよくある話だ。」

ディートリヒは続ける。


「嘘だと思うのならとにかく1ヶ月間は外見を隠して外に出たまえ。呪いだと思っていたものがマシになるなら、私の予想は正しいだろう。結果がでたら報告しておくれよ」


「その、『ロベルタン通り』の女性は、顔を隠して改善したのですか?」


「…………その娘はパン屋を辞めたよ。しかしその娘がいなくなってから、通りで事故は起こらなくなった。


悪魔なんてくだらない話だ。そんなものを信じるより、人間のしわざだと考える方が現実的だ。もし君で結果がでれば、私は論文を書かねばならない。同じように呪いに悩まされる人間が将来現れるかもしれないからね。」


見た目を隠すくらいで、変化があるだろうか?フレデリカはあまり信じていない。


「本当に改善するかはわかりませんが……、そういうことなら、やってみます。」


効果があるか怪しいものだが、なにせ試せることが1つできた。収穫があったと言っていいだろう。


「……もういいだろう。呪いの結果だけわかったら報告してくれ。」


ディートリヒは話したいことを言い終えたのか、フレデリカ達をぴしゃりと追い出した。

フレデリカは家に帰ることにした。



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