15.
庭先に出ると、あたりはすでに夕日で真っ赤に染まっていた。仮面をつけた男の姿に赤色が反射して、血を浴びたようにも見える。不穏なようにしか思えない。切り裂き魔の疑いははれたものの、やはりずっと怪しんでいた分、どうしても恐ろしさを感じとってしまう。
「もしぼくの秘密を知って婚約できないと思っても、遠慮せず今日は泊まっていってください。家族にはただの友人として紹介しますので。」
ありがたい提案だ。もう夕方なので、これから宿を探すのは苦労するだろう。しかしそうなれば気まずいことは間違いない。
「ありがとうございます。それで、隠し続けたお顔というのを見せていただけますか?」
「……そうですね、お待たせをしてしまいすみません。」
男はふーっと息を吐いた後、ゆっくりと仮面を外し始めた。
外れた仮面から現れたのは、色素の薄い髪と、愛らしい少女の顔だった。
いや、正確には、少女と見まがうようなかわいらしい少年の顔だった。
曲線を描く頬はまだ彼が子供であることを示しており、長いまつげは夕日に照らされて濃い影を顔におとしている。
少年はパチリとローブを外し、その細い肩の形がわかるようにすると、ごそごそとかがんで靴を脱ぎ始めた。
靴を外した後の少年の身長は、当初認識していたより頭1つほど低く、アランジェールよりも目線が下になる。ずいぶんと着込んでいたようだ。身長だけではなく、細身の体躯は、アランジェールと並べば弟のようにしか見えないだろう。
「ぼくはユノヴァンと名乗ったのですが、本当はユノヴァンはぼくの兄です。ぼくはその弟のクロードといいます。だましていてごめんなさい。」
少年はバツが悪そうに目を伏せた。子供の顔に対して声だけが低く、ちぐはぐな印象になっている。
「ぼくはまだ14で、結婚ができる年ではないのです。しかしどうしてもアランジェール様を他に盗られたくなくて、嘘をついて婚約を申し込みました。……怒っていますか?」
アランジェールは反応に困っていた。確かに子供だとは思っていなかったが、元は切り裂き魔だと思っていたのだ。それと比べれば、むしろ危険性が下がったことで安心すらあった。
「いえ、驚きはしましたが、怒ってはいませんよ。でもずいぶんと大胆な挑戦をしましたね。」
仮面を外したクロードは、へにゃりと眉が下がり不安そうだ。怒っていないことは間違いないが、子供の悲しい顔を見て、強い言葉を言えるはずもないというのも正直なところだ。むしろ必要以上に優しい声音になってしまう。
「本当に?よかった!」
アランジェールの優しい声を聞いて、クロードは目に見えて元気を取り戻した。
「じつはぼくの兄は庶民と駆け落ちしてしまって、半年前から屋敷に居ないんです。突然いなくなったので、式典などに代役が立てられなくて。公式な場では、この半年ずっとぼくが兄のふりをしていました。」
なるほど、それで嘘をつくのが日常になってしまったのか。ずいぶんと思い切った行動だと思ったが、日ごろから兄のふりが身についているのなら、納得できなくもない。
「兄がいなくなったので、ぼくが家を継がなければいけないのですが……。ぼくは妾の子なんです。家族はみんな優しく接してくれますが、髪の色を見れば、母と父の実子でないことはすぐにわかるでしょう。もしぼくと結婚すれば、きっと親族からはイヤミを言われ続ける人生になります。」
「あと2年、成人まで結婚を待ってもらうことと、妾の子であるということ。こんなデメリットがたくさんあることを思うと、素直に結婚を申し込めませんでした。」
話しながら自分の価値の低さに落ち込んだのか、またしゅんとした子犬のような顔になる。
ちらりとこちらを見ると、少しだけ前にでて、しっかりとアランジェールの方を見た。
「ぼくはまだ後継ぎとして立派とは言えませんが、必ずあなたを超えるすばらしい人間になってみせます。結婚相手として、考えてみていただけませんか?」




