14.
「タイミングを逃してしまったので、ぼくの秘密についてはまた今度話させてくれませんか?」
「ええ、そうしましょう。」
「もし、もしそれを聞いても嫌でなければ、そのときは……、いや、それも今度話しましょう。」
先ほどまでの勇敢だった姿とは違い、自分の前で焦りを見せるユノヴァンはかわいらしい。
「今度はぜひぼくの屋敷に招待させてください。その方が、邪魔も入らないですし、将来のことも考えやすいでしょう。」
「はい……、屋敷?」
「ええ、遠くなってしまうのですが、もしよければ家族を紹介したいです。それにうちは国境付近にあるので、国内であまり見ない珍しい料理がよく作られるのです。客人は皆喜んでくれるので、料理だけでも食べて行ってください。」
「ぜひお邪魔させてください!」
料理と聞いてうっかり即答してしまったが、予想外の提案だった。屋敷に行くというのは、何が起きるかわからない。命がけになるかもしれない。
けれど、アランジェールはすでにユノヴァンを信じて殺されるのであれば、仕方がないとまで思うようになっていた。それにここで悪い返事をすれば、何をされるかわからない。断りの返事なら後から手紙を出せばいいだろう。
「よかった!楽しみにしていてくださいね」
****
屋敷に行くと返事をしたものの、アランジェールはその後毎日、一日ごとに後悔と肯定を繰り返していた。
やはり安易に決めるべきではなかったかもしれない。いや、あのタイミングで誘われたら、断るのはおかしいだろう。
せめてもし、自分が犠牲になったら、それを最後の被害者にしてほしい。
自分を手掛かりに捜査が進むよう、アランジェールはエルミーヌとアリスに、ユノヴァンが通り魔かもしれないこと、その屋敷にのりこむことを手紙を書いた。
送るのは、屋敷に向かう前日にしよう。
最悪の場合に備え遺書も用意し、ユノヴァンの屋敷に向かう前に自室の机の上に置いていくことにした。
アランジェールは仮面舞踏会の後からは、サロンに行くことも減らし、真剣に遺書の文面を考えていた。
そんなある日のことだった。アリスミリアから通り魔が捕まったという手紙が来たのは。
「えっ!?犯人が捕まった!?」
なんと犯人は、よくサロンで顔を合わせていた貴族、ガストノッタだった。
彼は平民のふりをして庶民の酒屋に出かけては女性を口説きおとし、信頼された後に呼び出して犯行に及んでいたという。
(なんということだ。)
考えもしなかったすぐ身近に犯人がいたことに恐怖した。
アランジェールは何度も彼と話したことがある。
犯行をした翌日に平気で普通の顔をしてサロンで話していた彼を思うとぞっとする。アランジェールが被害者になっていた可能性も十分にあった。
(しかしそうなると、ユノヴァン様の秘密というのはなんなのだ?)
ユノヴァンが犯人ではなかったことに安堵しながらも、思わせぶりなユノヴァンの態度をアランジェールは不思議に思った。
***
ユノヴァンの屋敷はアランジェールの領地から遠い。
近くのホテルに泊まり、馬車を休ませながら向かわなければいけない。
殺人犯ではないことがわかり安心はしたものの、しかし屋敷に行くということは、ご家族に顔を合わせるということだ。
婚約をするかどうかは置いておいても、自分の礼儀次第では家名を汚すことになってしまう。
粗相がないよう、気を引き締めて向かわなければならない。これまでおかしな心配をしていたせいで、まともな心配がいまさらこみあげてきた。
屋敷についたのは夕方頃だった。到着するとすぐに従者たちが手厚く迎え入れてくれた。
驚いたことに、ユノヴァンは屋敷でも足元まであるローブをかぶり、仮面をつけていた。
「アランジェール様、遠方まではるばるようこそおいでくださいました。まだ父と母はかえって来ていないのですが、おそらくもう少しで到着するでしょう。それまで少し話しましょう。」
「驚いた。あなたは普段からその姿なのですか?」
「まさか。ただ、いきなり仮面のない状態で会っても誰かわからないと思ったのです。侍女には大笑いされました。あまりにうるさいので彼女はキッチンで作業させています。」
それはそうだろう。舞踏会でもない場所で仮面をつけていれば異様な姿だ。今頃キッチンでは笑いものになっているのではないだろうか。
「静かに話せるところがいいですね。庭に行きましょう。」
ユノヴァンは長いローブをひるがえしてアランジェールの先を歩いて行った。




