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13.無礼な女がぼくに触るな

「……やだ、婚約破棄されたばかりなのにもう他の相手が見つかったの?」


女はユノヴァンをじろじろと値踏みするように見つめながら、2人のそばに寄っていった。


仮面舞踏会では、相手が誰か気がついても、名前を呼ばないのが暗黙の了解だ。


そのルールを破って、親しいわけでもないアランジェールに話しかけてくるなんて、なかなかに無粋な行為だ。


近づいてきたその令嬢は、アランジェールの元婚約者を奪った、あの女だった。


「はじめまして。……あなたはアランジェール様の知り合い?」

ユノヴァンが声をかける。


「あはは!アランジェール『様』だって。そんなに親しいわけでもないみたいね。

あなた、アランジェール様が男に捨てられたばかりの残り物って知ってるの?


それなのに彼女を選ぶなんて、あなたもよっぽど他に選べる相手がいないのねぇ」


この女性は、一体私になんの恨みがあるのだろう?


口から出るすべての言葉がアランジェールを侮辱するものばかりで、アランジェールは不思議に思っていた。


アランジェールは基本的に、女性に対して怒りを感じることがない。

大抵は自分より背が低く細い娘たちばかりなので、子供の癇癪を見ているような気分なのだ。


(なぜ彼女はこんなに大騒ぎしているのだろう?)


気に入らないのであれば、近寄って来なければいいのに。


そんなアランジェールの疑問をよそに、ユノヴァンの声は場に不似合いなぐらい落ち着いていた。


「残り物なんてとんでもない。

天使がぼくごとき卑しい人間の元に舞い降りて来てくださったのですから。

最近は神の気まぐれに感謝をささげる日々ですよ。


それで、失礼なあなたは誰ですか?これ以上天使との時間を邪魔しないでほしいのですが」


「天使!?この女は私に負けたの。負け犬を天使だなんて、目が見えていないんじゃないの?

趣味の悪い仮面なんてかぶっているからよ。その面拝ませなさいよ!」


令嬢はユノヴァンの返事が癇に障ったようで、ユノヴァンの仮面に手を伸ばし、むりやり引きはがそうとした。


「触るな!!!」


ユノヴァンは令嬢の腕を払いのけ、アランジェールの腕を引いて令嬢から離れた。


「あなたのような無礼な女がぼくに触るな。喚き散らす女なんてこの世で最も醜い生き物だ。

なぜそんなに……いや、そうか、君はアランジェール様が好きなんだね?」


ユノヴァンの言葉は、令嬢の怒りにさらに油を注ぐ結果となった。


「何を……!そんなわけないじゃない、気持ち悪い!」


「どうせ彼女と結婚することも愛されることもできないのなら、一生恨まれて記憶に残りたいと思ったんだろう。

それとも同じ孤独を彼女に味合わせたいと思ったのか?くだらない。

二度と彼女に近づくな。癇癪もちの恥知らずめ」


「な......、な......!!!」


令嬢の顔はみるみる赤くなっていく。

すると、令嬢が手を振り上げた。

ユノヴァンを叩こうとしているのだ。


アランジェールはそれに気づき、急いで令嬢の腕を掴んだ。


「君の手は暴力を振るうためのものじゃない。そうだね?」


令嬢は口をパクパクさせている。

華奢な腕だ。


令嬢の目を見て、アランジェールは気がついた。

この表情は嫌悪や憎しみではない。

サロンでよく見る、アランジェールの関心を引きたい女の顔だ。


「アランジェール様、逃げましょう!」

ユノヴァンはそういうと、アランジェールの腕を引き、バルコニーを立ち去るべく扉に向けて走り出した。


「邪魔が入ってしまいましたね。……すみません、なれなれしく触ってしまって」


舞踏会の隣の部屋に移動した後、ユノヴァンは急いで手を離し、アランジェールに向けて謝った。


「いえ、大丈夫です。さっきのことも、ありがとうございます。私は何も言い返せませんでしたから」


(そういえば、天使とか言われたような。すごい言葉だ。)


アランジェールは今頃になって、口説き文句に感動していた。


「アランジェール様はお優しいですね。

普段悪い言葉を使い慣れていないから、すぐに言い返す言葉がでてこないのです。

暴言だけはぼくの方が得意みたいですね。」


「ふふ、これから悪い言葉はユノヴァン様に教わりますね。」


アランジェールはユノヴァンがかばってくれたことが心から嬉しかった。


そして同時に、この人が本当に通り魔なのか、信じたくない気持ちが芽生えてきてしまった。


さっきまでは正体を暴くことばかり考えていたのに。

この人が本当に婚約者だったらよかったのに、と考え始めてしまう自分の変化に、アランジェールは驚いていた。


これもすべて、自分をだまして傷つけるためなのだろうか?

胸の鼓動は、自分が異性に優しくされたことが少ないからなのだろうか?



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