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12.

22歳だと聞いていたが、思っていたよりもずいぶんと声が若々しい。


切り裂き魔とは思えない明るい声に、緊張がほどけてしまいそうになるのを意識的に抑える。


ユノヴァンは顔全体を隠す白いマスクに、つばの広い帽子をかぶっている。


服装は水色の生地に銀の糸での刺繍が細かい上品なローブだ。体型がわかりにくく、特徴を把握できない。

やはり今日にすべきではなかったかと後悔してしまう。


「話したいことはたくさんあるのですが、まずは一曲踊りませんか?」


ユノヴァンがアランジェールに手を差し出す。ふいに手を出されてびくりと震えてしまったが、ばれていないだろうか。


「ええ、ぜひ」


まさか舞踏会の真ん中で殺されることはないだろう。

アランジェールはユノヴァンの手を取り、歩き出した。


ワルツを踊り始めたものの、ユノヴァンの動きはぎこちなかった。


やはりあまり舞踏会に参加しないのだろうか?足を踏みこそしないものの、練習したてのような初々しさがある。


「すみません。ぼくの方こそ、ダンスは自慢できる腕前ではないんです。」


「最近まで病で臥せっていたと言っていましたものね。もう具合は問題ないのですか?」


「ええ、すっかり良くなりました。これまで失ってきた人生分、経験を取り戻さないといけません。」


『経験を取り戻す』という表現に何だか含みを感じてぞっとする。

誰かを傷つけることで、これまでの不遇な人生に復讐しようとしているのだろうか?


「……最近、この付近で通り魔事件が起こっていることをご存じですか?」


せっかく安全な場所にいるのだ。かまをかけてみることにした。


「………………」

ユノヴァンからの反応はない。顔は見えないが、明らかに動揺している。


「すみません、なんとおっしゃいました?よく聞こえなくて。」


白々しい返事だ。とぼけようとしてもそうはいかない。


「通り魔事件です。ここからそう遠くない場所で、何人か女性が刺されているのです。」


「……そうなんですか?それは恐ろしい。皆さん心配でしょうね」


「ええ、ユノヴァン様の屋敷からも近いのですが、何か情報を知りませんか?」


「いいえ、残念ながらぼくは何も。アランジェール様の領地からは遠いでしょう。何か心配ごとでも?」


「それはもちろん。遠かろうと近かろうと、通り魔なんて早く解決されてほしいですからね。」


「……なるほど。」


ユノヴァンは他人事のような返事をした。アランジェールが警戒していることが予想外だったのかもしれない。


ダンスが終わった後、ユノヴァンはテラスへ出ないかと提案してきた。


「会場は騒がしいので、外で話しませんか?」


アランジェールは逡巡した。殺されるとしたらここだろう。

人気が少ない場所で手をかけるつもりだ。しかし、証拠をつかまない限り、怪しいというだけでは警備は動けない。


「いいですね。行きましょう。」


ユノヴァンはテラスへ向かう大きな扉を押し、アランジェールの手を引きエスコートした。


「ぼくは今日、あなたに再び会えることを本当に楽しみにしていました。


やっぱり、あなたと婚約したい。ぼくのことを知ってほしいけれど、実はぼくには秘密があるのです。」


アランジェールの心臓が跳ねる。まさか自分から正体を現してくれるのか?


「……どんな秘密ですか?ぜひ教えてください。」


ユノヴァンは外を眺めると、間をおいて話し始めた。


「本当は今日秘密を伝えるつもりだったのです。だけどこの秘密を話せば、あなたはぼくを嫌いになるかもしれない。


せっかくお話をできる機会を手に入れたのに、また他人になることがどうしても恐ろしくて、この期におよんで、ぼくは迷っています。」


ユノヴァンはアランジェールの方を向き直った。


秘密。もしかすると、通り魔事件の犯人だということを自白するつもりなのだろうか。


アランジェールは不安とともに、目的を達成できる予感に心臓が高鳴った。


「今日ぼくと会ってみて、どう思いましたか?」


「どう、と言われましても……。正直お顔も見れていないですし、手紙でのやり取りとそう変わりません。仮面を外してはくれないのですか?」


「……そう、その顔こそが、ぼくの秘密にも関係しているのです。」


「顔を見られて何か困ることでも?」


ユノヴァンはぴくりと反応する。


「……そうですね、でも、いつかはばれることです」


ユノヴァンが仮面に手をかける。

仮面の下に一体何が待っているというのか。


アランジェールはユノヴァンを刺激しないよう、しかしじっくりと、ユノヴァンの手が動くのを見ていた。


その時だった。

がたりとバルコニーの扉が開く音がして、ユノヴァンとアランジェールはそちらに向き直った。


扉からは仮面をつけた令嬢がこちらに向かってきていた。


ユノヴァンは仮面を外そうとしていた手を止め、令嬢の様子をうかがっている。


「あら、アランジェール様じゃない?そうでしょう?」


アランジェールの知り合いのような口ぶりだったが、一瞬アランジェールはそれが誰かわからなかった。


近づいてくるにつれ、その相手の体型からおおよそ誰かの予測ができたころ、アランジェールは興奮状態だった心臓が冷えていくのを感じた。


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