11.
***
夜会当日、アランジェールは仮面を用意していた。
アデルロッテでの夜会は仮面舞踏会だったのだ。犯人が逃げやすい環境だったことは誤算だった。
しかし警備を依頼してあるため、問題が起きればすぐに逮捕に動いてくれるだろう。
残念ながら屋敷の中まで入ってこれる騎士は数名だったようだ。ほとんどは屋敷の周りで待機しているという。
アランジェールは目元を隠す仮面をつけ、赤いボリュームのあるドレスを身にまとっていた。
赤を選んだのは、手持ちのドレスの中で一番暗闇でも目立ちそうだったからだ。
もし闇の中で襲われても、すぐに見つけてもらえるように。
会場へ向かう従者は、屋敷の中でも武闘派のセロンとドートシークを選んだ。
近隣で殺人事件が起きていることは伝えてあるため、2人も注意深くなっている。
「屋敷の中では問題ないでしょうが、出入り口で誰か近づいてきたらすぐに我々を盾にしてくださいね。」
2人からすればなぜ事件が起きている時期にわざわざ出かけるのか、と思っているところだろうが、主人に口答えをするわけにもいかない。
こちらとしても世の平和につながるのだ。おとなしく守ってもらうことにしよう。
会場の屋敷につく。
馬車が出入口に留まり、従者が先に降りた後、アランジェールも馬車を後にした。
屋敷に入るまで、特に問題はないようだ。
「それではこの部屋で待機しておりますので、何かあったら呼んでください。」
従者二人は会場そばの部屋へ向かった。
舞踏会会場には、怪しいマスクをつけた人々がうごめきあっていた。
仮面舞踏会はもともと身分を隠して遊びに出たがった王子が、友人に頼んで開催させた舞踏会が元となっている。
身分のしがらみを気にせず楽しさだけ味わえるということで、その後も社交界で流行りとなり、さまざまな貴族の主催で同様の催しがされている。
アランジェールも何度か参加したことがあるが、アランジェールの場合は女性でこの身長は珍しい。そのため仮面をつけてもなんとなく誰かばれているような気がする。
他にも服装などで、人によってはどことなく誰かわかる場合もあるが、気がついても指摘をしないのが流儀と言うものだった。
アランジェールが付けている仮面は目元のみで、顔の下半分はわかるものだったが、参加者の中には顔全体が覆われた仮面をつけている者もいた。
白塗りのマスクをつけた参加者は少し不気味でもある。
普段の姿とは違う異様な様子が、かえって非日常感を醸し出し、会場は興奮に包まれていた。
ユノヴァンとは事前にお互いの服装を伝え、会場に入ってすぐのドア付近で待ち合わせるように伝えてあった。
予定時刻まではまだ余裕がある。
会場に入ってすぐ、ダンスの申し込みがあった。何曲か踊って時間をつぶす。
3曲目を踊っている途中、壁際に立っている一人がこちらを見つめているのに気がついた。聞いていた服装の特徴と一致している。ユノヴァンだろう。
アランジェールは今さらになって緊張してしまう。
彼が殺傷事件の犯人であれば、今日自分を殺しにかかるかもしれない。
そうなったらすぐに警備を呼び、捕まえさせなければならない。
これまでの被害者は、ナイフで背後から刺されている。
コルセットを付けているため、刺されても深手にはなりにくいだろう。
しかし犯人が考えを変える可能性はある。もし首に手をかける様子などみせられたら、すぐに逃げなければならない。
曲が終わった後、アランジェールは冷や汗をかいていた。恐怖を隠しながら、彼の元に駆け寄る。
「お待たせしてしまいすみません。ユノヴァン様で合っていますか?」
「ええ、お久しぶりです。素晴らしいダンスで目が離せませんでした。」
「からかうのはやめてください、私はあまりダンスは得意じゃないんです。」
「そんなことないですよ。やはりあなたはお美しいです。立ち姿だけでもこの大勢の中で輝いて見える。」




